Febri TALK 2021.04.26 │ 12:00

中村健治 監督

①人生を教えてもらった
『無敵超人ザンボット3』

『ガッチャマン クラウズ』や『つり球』など、独自の映像世界を持つ中村健治監督のアニメ遍歴を伺うインタビュー連載。その第1回は幼少期に衝撃を受けたという、富野由悠季・宮崎駿両監督の名作を語る。

取材・文/宮 昌太朗 撮影/須﨑祐次

※新型コロナウイルス感染予防対策をとって撮影しています。

「この人たちは本気で作っている」ことがビリビリ伝わってきた

――今日は中村さんのアニメ遍歴をうかがおうと思うのですが、子供の頃はアニメを見ていたのでしょうか?
中村 子供のときは全然好きじゃなかったんですよ。幼稚園とか小学校の低学年のときは、たまにテレビで見るハリウッド映画とかのほうが全然よくて。もちろん、まわりの男の子や女の子はアニメとか特撮にハマっていて、それこそ『ウルトラマン』を見て「僕も変身したい!」とか言っているわけですけど、それを横目で見ながら「アニメなんて」って完全にバカにしていたんです(笑)。

――めちゃくちゃ早熟ですね(笑)。
中村 僕は東海地方の出身なんですけど、土曜日の夕方にサンライズの番組をやる枠があって、なぜかロボットには興味があったんですよね。だからオモチャは欲しいけど、そこで語られる恋愛とか人間関係には興味がない、みたいな感じで見ていて。その中で『無敵超人ザンボット3(以下、ザンボット3)』と出会うんです。

――サンライズ初のオリジナルアニメ。富野由悠季監督の名作ですね。
中村 ひと言で言っちゃうと「これを作っている人は、本気で作っているんだな」ってことがビリビリ伝わってきたんです。アニメだと思って作っていない、というか。強い敵が出てきて、それをいかに倒すか、みたいなエンターテインメントだけじゃなくて、哲学とか思想みたいなもの。当時のアニメって、正義の味方は正義の味方だし、悪いヤツはとことん悪い。でも、『ザンボット3』だと、悪いヤツから守っているはずの一般市民から、主人公たちがめちゃくちゃバッシングを受けるんです。アニメを見ている僕らは、主人公たちのすぐそばから彼らが戦っているところを見ているから、その苦しさとか大変さがわかる。でも、そのツラさは『ザンボット3』に出てくる一般市民の人たちにはまったく伝わらない。むしろ「お前らのせいで敵に襲われる。お前たちこそどっかに行け!」みたいなことを言われる。そういう話をずーっとやるわけです。

――展開がめちゃくちゃハードですよね。
中村 しかも設定がよくできていて、主人公たちはもともといた星を同じ敵に滅ぼされて、地球に逃げてきているんですね。だから、自分たちがここで踏みとどまらないと、地球が滅びてしまうことがわかっている。ゆえに、バッシングしてくる人たちを責めないんです。「耐えて、最後まで戦い抜こう」と。「そうすれば、いつかはわかってくれる」って。それまで映画やドラマを見て泣いたことなんてなかったのに、最終回では号泣しちゃって(笑)。正しいことをやればみんなに伝わるし、すぐに世の中がよくなっていくなんてことはない。世の中っていうのはもっと面倒くさいものなんだ、と。そういう意味で、人生を教えてもらったような感じがしたんですよね。

――それくらいの衝撃だった。そこからアニメを見続けるようになったんでしょうか?
中村 そうですね。また『ザンボット3』みたいな体験ができるかもしれないと思って、放映されているものを片っ端から見るようになるんですけど……。『機動戦士ガンダム』だったり、その都度ハマった作品はあるものの、自分の心のコアが壊されるような体験というのはなかなかなくて。それで中学生くらいになると、アニメ熱がすっかり冷めた状態だったんです……。そこで宮崎駿さんなんですよ。もう亡くなってしまったんですけど、アニメ好きの無二の親友がいて、彼が『アニメージュ』で連載していた『風の谷のナウシカ』のマンガを読んで、宮崎駿さんにめちゃくちゃハマっていたんですね。

――熱心なファンが身近にいたわけですね。
中村 ただ、僕自身はあまりピンと来ていなかったんです。ビジュアルももっさりしているし、「地球を大事に」とかって、なんか説教臭いなあって(笑)。ただ、その友人が「どうしても一緒に『天空の城ラピュタ』を見に行こう」と僕を誘ってきて。ただ、アニメ熱は冷めきった状態でしたから、手を頭の後ろに組んで、脚も組んで「ハイハイ」みたいな感じで見たんですけど……。

――めちゃくちゃ態度悪く(笑)。
中村 全然、真面目に見ていなかったんですけど、全体の1/4くらいのところですかね。シータがムスカに捕まって、塔に幽閉されるじゃないですか。で、パズーがムスカから金貨を渡されて「キミはこれで帰りたまえ」と言われる。しかもパズーを危険に巻き込みたくないシータから「私、大丈夫」みたいなことを言われて、パズーが帰ってしまうっていうシークエンス。そこでパズーがバーッと坂を走っていくんですけど、途中で転んで、金貨を落としてしまうんです。

――ああ、ありますね!
中村 僕のなかのカッコいいアニメキャラ像だと「こんなお金はいらない!」って言いそうなんだけど、パズーはそうじゃないんです。パパパパっと拾ったお金をポケットに突っ込んで、下を向きながら歩いていく。しかも、いかにもカッコ悪い音楽がついていて(笑)。それを見たときに雷に打たれたような感じがあって「これは半端ないぞ」と。ヒロインの代わりにもらった汚いお金なのに、金は金だっていうところに主人公が勝てない。しかもそのあと、ドーラに捕まるシーンでも「こいつ、金貨もらってる!」って突っ込まれるんですけど、そのカッコ悪さたるや半端ないな、と。そこからはもう夢中で見て……。だから作品というよりは、あのカット。あのカットを目にしたことで、アニメを卒業し損なった感じがあるんです。endmark

KATARIBE Profile

中村健治

中村健治

監督

1970年生まれ。岐阜県出身。2006年に放送された『怪~ayakashi~』内の一篇「化猫」が大きな反響を呼び、その後は人気演出家のひとりに。これまでの監督作に『モノノ怪』『空中ブランコ』『C』『つり球』『ガッチャマン クラウズ』などがある。

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