Febri TALK 2021.03.17 │ 12:01

武井克弘 プロデューサー

②『少女革命ウテナ』
より深いレベルの作品理解があると知った

ユニークな話題作を手がける東宝のプロデューサー、武井克弘にプライベートなアニメ体験を聞くインタビュー。第2回は、自身の考え方に大きな影響を与えたという『少女革命ウテナ』と『機動戦艦ナデシコ』をめぐるトーク。

取材・文/宮 昌太朗 撮影/飯本貴子

※新型コロナウイルス感染予防対策をとって撮影しています。

アニメ以外の知識が身につくにつれ、徐々に理解が深まった

――2本目に名前が挙がった『少女革命ウテナ(以下、ウテナ)』ですが、これには『フリクリ』や『トップをねらえ2!』の脚本家、榎戸洋司さんが参加していますね。
武井 榎戸さんの言語センスが刺さり続けていて、『忘却の旋律』も『桜蘭高校ホスト部』も大好きですが、やっぱり個人的なアニメ黄金時代は90年代末なんです。『機動戦艦ナデシコ(以下、ナデシコ)』が1996年で『ウテナ』が1997年。あと『カウボーイビバップ』がその翌年、1998年の放送なわけですけど、その時期にアニメにどっぷりとハマったので。ウチのVHSデッキがボロくて、たまにレコーダーが動かないときがあったんですよ。録画ミスをするのが怖くて、学校から急いで帰ってきて録画ボタンを押す、みたいなことを『ウテナ』でやっていたのをすごく覚えています(笑)。それくらい熱心に見ていました。

――作品自体の印象は?
武井 なんか異常だったじゃないですか。今、改めて考えてみても「なんであんな作品が成立したんだろう?」と(笑)。入口は意外とすんなり入れたんです。というのも、僕はテレビは見なかったけれど、宝塚歌劇を家族とよく見ていて、僕自身もトップスターのファンクラブに入るような子供だったんです。物語体験のベースに『ベルサイユのばら』や『エリザベート』があるから、ああいった華美な世界観も、ある程度の抽象的なお話も理解できた。だからドラマ部分だけでも十分に感動できたんですけど、一方で「この作品にはもっと深い理解のレベルがある気がする」みたいな予感もあって。劇場版だとキャラクターがいきなり車になったりして、わけがわからない(笑)。でも、無意識に響く何かがある……みたいな。どうしてこの作品が面白いのか、当時はもやもやしたまま過ごすんです。

――すごいものを見せられていることはわかるんだけど、その一方で昇華できないモヤモヤが残ったという。
武井 結局、それが消化できたのが、たぶん大学生のときで。アニメ以外の演劇とかマンガ、思想などへの知識が深まっていくなかで「ああ、そういうことだったのかな」とわかってくる。たとえば、寺山修司さんの作品を見て「なるほど、ここから影響を受けたのか」とか、これは僕の勝手な推測ですけど、大島弓子さんのマンガを読んで「あ。これ、『ウテナ』でやっていたことじゃん!」と思ったり。

――見ていた当時はわからなかった影響関係が、あとからわかってきた。
武井 それで「これを形にしなきゃ」と思って、卒業論文で『ウテナ』を取り上げたんです。脱構築系のフェミニストでジュディス・バトラーという人がいるんですけど、彼女の思想を援用しつつ、劇場版『ウテナ』が描こうとしたことを読み解く、みたいな。あとからだんだんと理解が深くなって――それどころか「これはとんでもない作品だぞ!」となって、今では生き方のお手本みたいになった作品です。作るものにも影響していて、「囚われからの解放」といったテーマは、その後に企画した『BNA ビー・エヌ・エー』なんかにもダイレクトにつながっていますね。

――『ウテナ』以外にもいくつかタイトルが挙がりましたけど、武井さんが当時、影響を受けた作品はほかにありますか?
武井 『ナデシコ』は大好きでしたね。あの作品はパロディの量がすさまじいので、昔の作品を掘っていくきっかけになった気がします。やっていることもすごく高度で「『真実』は一つじゃない」というサブタイトルがありますけど(第13話)、そういうテーマが作品全体を貫いている。あと個人的に影響を受けたのは、劇中に登場するプロスペクターというキャラクターですね。飄々として、つかみどころのない大人なんですけど、でも人一倍の正義漢で、じつは彼が事態をいい方向に導いている、みたいな立ち位置なんです。今考えると、プロスペクターみたいな大人に憧れて、プロデューサーになった気もします。

――あはは、なるほど。
武井 『ナデシコ』自体、アニメ業界を元ネタのひとつにしているところがある作品じゃないですか。そもそも主人公のテンカワ・アキト自身がオタクなわけですけど、そのなかでプロスペクターはプロデューサー的な立ち位置のキャラクターなんです。決して表舞台には立たないんだけど、裏でいろいろ仕掛けている、というか。わかりやすく、電卓を弾いていますしね(笑)。

――お金の算段をつけているという。
武井 表に立っているアキトとかユリカがスタッフやキャストだとすると、彼ら、ナデシコのクルーをスタッフィングないしキャスティングしているのが、プロスペクターで。「そういう大きな絵を描く人間ってカッコいいな」と思うきっかけになったという意味では、『ナデシコ』からも大きな影響を受けていると思います。endmark

※記事初出時、一部表記に誤りがございましたので、訂正してお詫び申し上げます。また、ご指摘、ありがとうございました。

KATARIBE Profile

武井克弘

武井克弘

プロデューサー

1984年生まれ。東京都出身。大学を卒業後、東宝株式会社に入社。これまで手がけてきた主な作品に『干物妹!うまるちゃん』『リトルウィッチアカデミア』『宝石の国』『HELLO WORLD』など。最新作の『BNA ビー・エヌ・エー』Blu-ray & DVD(発売元・販売元/東宝)が全3巻で発売中。Ⓒ 2020 TRIGGER・中島かずき/『BNA ビー・エヌ・エー』製作委員会

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