Febri TALK 2021.03.17 │ 12:02

武井克弘 プロデューサー

③『時をかける少女』
「アニメで映画を作ることができる」という衝撃と発見

作り手のプライベートなアニメ体験を聞くインタビュー連載。東宝のプロデューサー、武井克弘に聞く第3回は、彼がプロデューサーを目指した契機となった作品について。さらに過去と未来をつなぐ、プロデューサーという仕事について聞く。

取材・文/宮 昌太朗 撮影/飯本貴子

※新型コロナウイルス感染予防対策をとって撮影しています。

プロデューサーに対する興味、そして映画への愛を自覚した

――3本目の細田守監督の『時をかける少女(以下、時かけ)』は、映画業界を志すきっかけになった作品だそうですね。
武井 話は少し遡るんですけど、『もののけ姫』の公開のときに、宣伝に際して鈴木敏夫さんがいろいろなところに顔を出されて、「プロデューサーってこういう仕事だ」みたいな説明をされていたと思うんですよね。そのときに初めて、プロデューサーという仕事があることを認識して。そこから『新世紀エヴァンゲリオン(以下、エヴァ)』や『機動戦艦ナデシコ』の大月(俊倫)さんの名前を知ったりするなかで、アニメ業界に入ったとしたら、自分が目指すのはプロデューサーなのかな、と思うようになったんです。

――監督のようなスタッフでも役者陣でもなく、裏方に対する興味が湧いてきた。
武井 ただ、プロデューサーを目指すとなると、就職先は意外に幅広くて――アニメスタジオでもいいし、あるいは出版社に入ってもアニメに関わることができる。そのなかで「映画会社がいいかも」と思ったきっかけが『時かけ』だったんです。というのも、大学時代に映画を浴びるように見て、映画館で週に5~7本とか見ていた時期があったんです。

――それこそ年間300本見ているような。
武井 映画の、表現としてのリッチさを知ったんです。それは、所属していた学部が文学部だったこともあって、小説という表現のストイックさとの対比もあったと思うんですけど。と、同時に「アニメで映画をやることができる」ということに、そのタイミングで気づくんですね。それこそ『(うる星やつら2)ビューティフル・ドリーマー』だったり、今敏監督の作品を見て「すごい! アニメで映画ができるんだ」と。当時、ちょうど公開された『時かけ』もそうで、映画が作りたくてアニメをやっている人たちが作った作品、という感じがすごくしたんです。「アニメって、ここまでできるんだ」と。それまでの志望就職先はTVアニメが前提になっていて――それは、そのほうがお客さんに「届く」と考えていたからなんですけど、じつは「アニメで映画」という組み合わせが最強なんじゃないかなって。

――細田監督は『少女革命ウテナ(以下、ウテナ)』にも参加していますよね。
武井 そうですよね。『ウテナ』は各話がそれぞれ異質で、シリーズとしての魅力が際立っている作品ですけど、細田さんが橋本カツヨ名義で参加されたエピソードは、どれも印象的でした。とくに第20話かな、若葉の回(「若葉繁れる」)は放送当時からめちゃくちゃ印象的だったんです。カメラの使い方が、まるっきり映画なんですよね。 だから結局、映画を感じるかどうかって、演出家の工夫次第とも言えるんですけど。『時かけ』を見たのはちょうど大学の卒論で『ウテナ』について考え始めた頃でしたし、今まで好きだったことの点と点がつながり始めて。そのつながった線を伸ばした先に、映画会社があったんだと思います。

――プロデューサーとして仕事で関わった作品の中で、とくに印象に残っているものというと何になりますか?
武井 うーん、どれも印象に残っていますね……。ただ、一番というと『宝石の国』か『HELLO WORLD』になるかもしれません。改めて振り返ると、最初に買ったビデオがCGアニメの先駆的作品である『青の6号』だったというのが示唆的で。

――『宝石の国』も『HELLO WORLD』も、どちらもCGアニメですね。
武井 『宝石の国』や『HELLO WORLD』は「僕がこれまで好きだったアニメが、これから先、見ることができなくなるかもしれない」という危機感で作った作品でもあるんです。これまでアニメーターさんたちが培ってきた技術がだんだんと失われつつあって――たとえば、四本足の動物だったり、海の波といったものを手描きで表現するのが、どんどん難しくなっている。それらを単純に3DCGに置き換えるだけではなく、もっと大事なところ──2D作画の演出技術みたいなものも含めて3DCGに橋渡しできれば、と思ったんです。

――日本のアニメ史が培ってきた技術を、次の世代にも残したいというか。
武井 『宝石の国』は生粋の3DCGスタジオだったオレンジさんに作っていただいたんですけど、そのときに2D作画アニメをやっていたラインプロデューサーや演出さんに入ってもらったんですね。そうすると、やっぱり面白い化学反応がいろいろと起きる。『HELLO WORLD』では、そういう3DCGでやるという表現的な要請を、ゼロからお話を作ることで、意図して物語的な必然性にまで落とし込めた。そういう意味では、手ごたえがありました。おこがましいようですけど、そうやって日本のアニメ史が続いていくお手伝いがしたいし、その歯車のひとつくらいになれたらうれしい。中学のときに『エヴァ』が僕の心の穴を埋めてくれたように、アニメって人を救うものだし、それがあるだけで生きる目的になったりするじゃないですか。『トップをねらえ2!』でノノの特異点がラルクに受け継がれたように、僕みたいな経験がそれこそ遠い未来に受け継がれると素敵だなと思います。endmark

KATARIBE Profile

武井克弘

武井克弘

プロデューサー

1984年生まれ。東京都出身。大学を卒業後、東宝株式会社に入社。これまで手がけてきた主な作品に『干物妹!うまるちゃん』『リトルウィッチアカデミア』『宝石の国』『HELLO WORLD』など。最新作の『BNA ビー・エヌ・エー』Blu-ray & DVD(発売元・販売元/東宝)が全3巻で発売中。Ⓒ 2020 TRIGGER・中島かずき/『BNA ビー・エヌ・エー』製作委員会

あわせて読みたい