Febri TALK 2021.03.31 │ 12:00

谷口悟朗 監督

②『話の話』
映像でないと伝わらないものがある

影響を受けたアニメ作品について語る連続インタビューの第2回で、谷口監督がタイトルを挙げたのは、ユーリ・ノルシュテインの『話の話』。「映像を学ぶ人にとって基礎教養のひとつだった」と語るこの名作から、谷口監督が学んだこととは?

取材・文/宮 昌太朗 撮影/飯本貴子

※新型コロナウイルス感染予防対策をとって撮影しています。

ロジックに収まりきらない「何か」がある

――2本目に挙げていただいたのは、ユーリ・ノルシュテイン監督の『話の話』。間違いなく、アニメーション表現の最高峰のひとつと言える作品ですね。
谷口 『話の話』は当時、映像を学ぼうとしている人にとっては基礎教養のひとつだったんです。高畑(勲)さんをはじめ、何人も推薦するコメントを出していたんじゃないかな。それを知ってちょっと見てみよう、と思ったんですよね。それこそ当時はいろいろな映像サークルが自主上映会を主催していて、いろいろと見る機会があって。アニメ系でいえば、岡本忠成さんや川本喜八郎さんの作品もそういう場で知りました。『話の話』は、それらのなかでも強いかたまりとして勉強になった作品です。今まで見てきたものとはまったく違う――アニメーションの作り方も違うし、全体のトーンも違う。そこから伝わる何か――そのインパクトがまずすごかったんです。しかも見ているうちに「そうか」と思った。つまり、国や言葉とかを超えて、伝わる何かがある。映像にするということはロジックじゃないんだ、と言えばいいんですかね。たとえば、インタビューで「この映画のテーマは何ですか?」と聞かれることがあるわけです。で、営業的に仕方なく答えなきゃいけないこともあるんですが……。

――すみません(笑)。
谷口 そういうときはたいがい「愛です」って答えるようにしていて(笑)。『宇宙戦艦ヤマト』から続く伝統ですね。「愛」って言っておけば、たいがいなんとかなるってところがあるんですけど――それとは別に「今回のテーマはこれで、こういうことを言いたいんです」と文章で書けてしまえるようなものは、それでみんなに伝わってしまうようなものは、つまるところ映像作品にはなりえない。映像というスタイルを採らないと、言えないことや伝えられない何かがあるということが肌感覚でわかった、というんでしょうか。モノを作るときには、たしかにロジックが必要になるんですよ。私自身、できる限りロジカルに作ろうと思っていますし、脚本家に要求することはロジックです。ただ、それだけでは説明しきれない何かがある。

――論理だけでは終わらない、プラスアルファの部分が重要になる。
谷口 イントュイティブ(直観)とかエモーショナルというか――会議ではポエムとか夢と言うときが多いのですが、そこが、モノを作っていくうえで一番大事なことなんだろうと思うんです。しかもそういう気持ちは、言葉や国籍、あるいは人種みたいなものを超えて伝わっていく。もしくは、それを受け止めてくれる人が地球上のどこかに存在する可能性がある。ちょっと余談になるんですけど、舛成孝二さんが監督した『かみちゅ!』というTVシリーズがありますが、この作品のスタートを脚本の倉田(英之)さんに聞いたことがあるんですね。それが何だったかというと「冬の寒い日にコタツに入って、ぬくぬくしながら、みかんを食べるのっていいよね」と。「そういうアニメを作ろう」と思ってできたのが『かみちゅ!』だったそうなんです。そこで言おうとしていることはわかるんですよ。そんなものを論文として提出したら、もちろん失格でしょうけど、でも、映像としてはわかる。

――言葉に回収できない「感じ」を切り取るのが、映像なんだと。
谷口 そうですね。映像じゃないと伝えられないことがあるんだ、と。それはやっぱり、コンテを切っていると出てきますね。

――コンテなんですね。
谷口 ひとつはそうですね。その前の脚本段階でも、脚本家さんが書いたセリフやキャラクターの所作が、どうしても生理的に受けつけないことがあります。「あなたのなかのルールではそうかもしれないけど、私のなかだとこうなんだけど」みたいな違和感ですね。それはやっぱり、コンテを切っているときにも出てきちゃうんですよ。「この脚本でいいだろう」と思って、いざコンテを切り始めると「あれ?」ということがある。それはそれで楽しいんですよね。

――なるほど。
谷口 それに関しては、演出の師匠のひとりである今川泰宏さんから教えられたことがあって。今川さんの監督作品に『機動武闘伝Gガンダム』という作品があるんですが、その最終回に「石破ラブラブ天驚拳」という必殺技が出てくるんです。当時、私もスタッフとして参加していたんですが、当然、「こんなふざけた技を出すな!」とか、スタッフの間でも意見が真っ二つに分かれたんですね。で、今川さんに聞くと「これを否定されるなら、自分は監督を降りるしかない」と。『Gガンダム』という作品を預かって、1年間自分なりにやってきて、最後に自分のなかから出てきた答えがこれなんだ、と。そこを否定されてしまったら、自分の作品じゃなくなってしまう。おそらくそんな今川さんの意志を、プロデューサーの南(雅彦)さんたちが汲んだからこそ、今ある形で放送されたわけですけど、それはたしかにわかるんです。作っているうちに最終的に出てきた何か。「まさか……いや、しかし……」という感じで、それをロジカルに説明することはできないんだけど、でも出てきちゃったんだから、それはもうしょうがない(笑)。このことを今川さんは私みたいなバカな弟子にできるだけ開いて説明してくれた。つまりはそういうことだと。集団作業であるアニメーション制作のなかで、何をもって監督というのかと言えば、そこに尽きるんじゃないか。そう思っているんです。endmark

KATARIBE Profile

谷口悟朗

谷口悟朗

監督

1966年生まれ。愛知県出身。日本映画学校からJ.C.STAFFに制作として入社。サンライズで演出家としての、Production I.Gで監督としてのキャリアをスタートさせる。最新作は『スケートリーディング☆スターズ』『バック・アロウ』。

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