Febri TALK 2021.04.02 │ 12:00

谷口悟朗 監督

③写実とイメージ――両方をうまく
落とし込んだ『Dr.SLUMP ほよよ!宇宙大冒険』

「じつはアラレちゃんが苦手だった」と話す谷口監督が、なぜ『Dr.SLUMP』を激賞するにいたったのか。原作とアニメの距離の取り方など、谷口監督らしい視点にも唸らされる、インタビュー連載の第3回。

取材・文/宮 昌太朗 撮影/飯本貴子

※新型コロナウイルス感染予防対策をとって撮影しています。

ひとつの題材に対して、これほど見え方を変えることができる。それを教えてもらった作品

――3本目に挙げていただいたのは『Dr.スランプ アラレちゃん』の劇場用映画『Dr.SLUMP ほよよ!宇宙大冒険』です。
谷口 じつを言うと私、『Dr.スランプ アラレちゃん』が苦手だったんですよ(笑)。原作が『週刊少年ジャンプ』掲載の人気マンガで、それがアニメになったらそちらも人気作品になったのは知っていて。たぶん、アラレちゃんのキャラクターが生理的にダメだったんですよね。もちろん、楽しんでいる人を否定するつもりはないし、自分のなかに受け止める器がなかったということではあるんですけど。……とはいえ、世間が楽しんでいるものがどんなものか、知ってはおきたいわけです(笑)。そのときに、今度公開される映画のタイトルが『Dr.スランプ アラレちゃん』ではなくて、『Dr.スランプ』だということを知って。『アラレちゃん』が付いていないなら、見られるんじゃないかなと思ったんです。

――公開時から『Dr.スランプ』『Dr.SLUMP』『Dr.SLUMP ほよよ!宇宙大冒険』と、タイトルが安定していなかったみたいですね。
谷口 はい。ともかくアラレちゃんはいない。しかも、りんたろうさんが制作に関わっていることを知って――りんさんの『銀河鉄道999』は大好きな作品のひとつでもあるし、1回くらいは見ておいて損はないだろうと、劇場に行ったんです。

――当時は高校生ですか?
谷口 そうですね。16歳ぐらい。そしたら、これがすごく面白かったんです。作画もかなり力が入っていて。じつは、この作品が公開された1982年というのは『機動戦士ガンダムⅢ めぐりあい宇宙編』だったり『THE IDEON 接触篇』『発動篇』だったり、有名なアニメ作品が公開された年なんです。……いや、たしかにどれも劇場まで見に行っているんですよ。ほかにもいくつかある。でも、どれも『Dr.SLUMP』ほどの強烈なインパクトはなかった。この年の個人的なベストは『Dr.SLUMP』なんです、間違いなく(笑)。

――ブッチギリの1位だった(笑)。
谷口 そういう意味でも、自分はアニメファンじゃないなと思っているんですけど(笑)、『Dr.SLUMP』のマシリトの表現がすごいんですよね。歌いながら登場するんですけど、その見せ方がすごく洋画っぽいというか。まあ、今の立場で見るとパロデイ満載なんですが。全体の見せ方だったり雰囲気――ひとつの題材に対して、やり方によってはこんなに見え方を変えることができる。それを教えてもらった作品だったんです。同じ『Dr.スランプ』という原作マンガをベースにしていても、TVシリーズのような見せ方もできるし、その一方でこの『Dr.SLUMP』のように持っていくこともできる。どちらが正解だと言うつもりはないんですよ。そもそもターゲットが違うわけだから。ただ、映像の力によって、こんな風に原作を捉えることができる。それを思い知らされました。

――冒頭が結構、シリアスなトーンで始まるんですよね。
谷口 そうです。宇宙空間からグワーッと始まって、そこにドーンと『Dr.SLUMP』ってタイトルが出てくる。なんだこのオープニングは、と。見たことがない人は、一度、見たほうがいいと思います。監督の永丘昭典さんはのちに『アンパンマン』の劇場版をいくつも撮られることになる監督ですけど、個人的にはこれが永丘監督の最高傑作じゃないかなと思っているくらいなので。ちなみに『アンパンマン』との共通項もいくつかあるので、興味ある人はこれを見てから『アンパンマン』を見直すことをおすすめします。

――『Dr.SLUMP』からの影響は、ご自身の作品にも反映されているのでしょうか?
谷口 たぶん、反映されていると思いますね。特にバランス。コミカルな見せ方だったり、写実的な要素を置いておく手法だったりの距離感とでもいうか……。たとえば、『アルプスの少女ハイジ』の路線だと、下手をすると写実一辺倒に走っていってしまう可能性があるわけです。一方の『話の話』だと、これはこれでイメージ一辺倒に走ってしまう危険性がある。その両方のスタイルのいい部分を、より多くの人に伝わる形で、うまい具合に落とし込もうとすると、たぶん『Dr.SLUMP』に落ち着くんじゃないかな、と。本当にバランスがいい作品です。

――最初にタイトルを伺ったときは「谷口監督が『Dr.SLUMP』?」と思ったんですけども(笑)、今、お話を伺って腑に落ちました。写実とイメージ、両方のよいところをうまくバランスさせたのが『Dr.SLUMP』だったわけですね。
谷口 そうですね。その両方をひとつの作品のなかに取り込んで、しかも目立たない形でパッケージとしてまとめている。そこがすごくよくて。私にとっては、忘れられない一本になっています。endmark

KATARIBE Profile

谷口悟朗

谷口悟朗

監督

1966年生まれ。愛知県出身。日本映画学校からJ.C.STAFFに制作として入社。サンライズで演出家としての、Production I.Gで監督としてのキャリアをスタートさせる。最新作は『スケートリーディング☆スターズ』『バック・アロウ』。

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