Febri TALK 2024.06.20 │ 18:00

瓜生恭子 アニメーションプロデューサー

②就職活動に影響した運命の作品
『おおきく振りかぶって』

『SK∞ エスケーエイト』『BANANA FISH』『UniteUp!』『WIND BREAKER』といった数々のヒットアニメでプロデューサーを務める瓜生恭子が選ぶアニメ3選。2本目は、就活時期に出会い、アニプレックスへの入社を決めた運命の作品でもある『おおきく振りかぶって』。

取材・文/岡本大介

三橋と阿部の関係性がすごくいい

――放送は2007年ですが、瓜生さんは当時は学生ですか?
瓜生 大学院生で、ちょうど就職活動をしていた時期ですね。コンテンツ作りがやりたかったのでアニメ業界だけではなく、エンタメ業界全般を広く受けていたんですが、面接では「君はアニメ業界へいったほうがいい」と言われていました。おそらくアニメ愛がだだ漏れていたのかなと(笑)。ありがたいことにアニプレックスを含めて何社か内定をいただくことができて「さあどうしよう?」となったときに、そのクールで熱心に見ていたのが『おおきく振りかぶって』だったんです。

――A-1 Pictures制作のアニプレックス作品ですね。
瓜生 そうです。高校野球を描いた作品で、最初はキャラクターを好きになってハマりました。今でも鮮明におぼえているのが第17話「サードランナー」で、相手バッターがスクイズしたボールをピッチャーの三橋がすくい上げて、キャッチャーの阿部にトスするシーン。それがアウトになるんですけど、その瞬間、あまりにもうれしくて、思わず部屋の中を3周くらい歩いちゃったんです(笑)。それぐらい深く感情移入していたということだと思うのですが、そのときに「私も誰かをこういう気持ちにしたい」ということを再確認したんです。そのときの気持ちが後押しとなってアニプレックスを選んだので、私にとってはまさに運命の作品ですね。

――青春要素も強く、野球ファンでなくとも楽しめる作品ですよね。
瓜生 野球シーンがかなりリアルに描かれているのですが、それ以上に人間ドラマが濃くて。とくに、バッテリーであるピッチャーの三橋とキャッチャーの阿部の関係性がよかったです。男の子が頬を赤らめる描写をスポーツマンガでこれまでに見たことがなかったので、それにもびっくりしましたし。ふたりの関係が少しずつ変化していく様子がとても丁寧に描かれていて、バッテリーって夫婦なんだなってあらためて思ったりして。毎週楽しみにしていました。

迷ったときに原点に立ち戻ることができる

――瓜生さんはキャラクターやキャラクター同士の関係性にハマることが多いんですね。
瓜生 アニメにハマるきっかけはキャラクターが多いですね。この人たちの行く末が気になって仕方ないから続きを見るっていうパターンが多いです。好きなキャラクターについて深く知りたいですし、このキャラとこのキャラの掛け合いがもっと見てみたいなとか、こういうことをしゃべってほしいなとかを考えながら見ていますね。

――とくに好きな関係性などはありますか?
瓜生 振り回されながらもちゃんとフォローする人の組み合わせっていうのは私の中では鉄板かもしれません。周囲から見ると、振り回している人のほうが主導権を握っているように見えるんだけど、じつは精神的には相手に依存していて……という関係性はとても好みです。

――なるほど。他に印象的なシーンはありますか?
瓜生 第1話「ホントのエース」で、三橋が投げた球を受けた阿部が目を輝かせる瞬間があるのですが、チームメイトはもちろん三橋自身も気づいていない能力に阿部だけが気づいて興奮する感じがすごくいいですね。そんな阿部を信じて、どこまでもついていく三橋もかわいいなって思います。

――最初は徹底して卑屈だった三橋も、少しずつではありますが成長していきますね。
瓜生 「少しずつ」っていうのがまたいいんですよね。何かのきっかけで大きく変わるわけではなくて、阿部やチームのみんなとの絆が強まるにつれて、少しずつだけど、でも確実に成長していくという描写は、長編作品ならではの醍醐味ですよね。仮に1クールでアニメ化していたとしたら、きっと全然違うアニメになっていたと思います。原作を丁寧にアニメ化しているからこそ生まれた感動で、そこが素晴らしいなと。

――『おおきく振りかぶって』からどんな影響を受けましたか?
瓜生 アニプレックスに入ったきっかけの作品ということになりますが、それ以外でも事あるごとに思い出す作品ですね。プロデューサーをしていると、数字のことで頭がいっぱいになっちゃうことがあるんです。「私って何がやりたかったんだっけ?」と迷ってしまうときに思い出すのがこの作品です。部屋を3周したときの気持ちを思い出すと「そうそう、これがやりたかったことなんだよね」って原点に立ち戻ることができる。創作物の最大の魅力は、キャラクターを通して自分ではできない体験をすることで、自分の選択肢や可能性の幅を広げていくことにあると思っているんです。私にそういった体験をさせてくれた作品が『おおきく振りかぶって』でしたし、私も誰かにとってのそういう作品を作っていきたいと思っています。endmark

KATARIBE Profile

瓜生恭子

瓜生恭子

アニメーションプロデューサー

うりゅうきょうこ 2008年にアニプレックス入社。宣伝部から制作部へと異動し、プロデューサーとして活躍。プロデューサーを務めた主な作品は『UniteUp!』『BANANA FISH』『SK∞ エスケーエイト』『王様ランキング』『WIND BREAKER』など。