Febri TALK 2021.12.06 │ 12:00

綿田慎也 アニメ監督/演出

①少年時代のワクワク感の原体験
『魔動王グランゾート』

『ガンダムビルドダイバーズ』をはじめとしたロボットアニメの他、さまざまなアイドルアニメも手がける綿田慎也のアニメ遍歴を聞くインタビュー連載。第1回は、少年時代のフェイバリット『魔動王グランゾート』を通して、ホビーアニメの魅力と自身の制作スタイルに迫る。

取材・文/日詰明嘉

『ガンダムビルド』シリーズのときも意識していました

――影響を受けたアニメとして『魔動王グランゾート(以下、グランゾート)』を挙げたのはどのような理由でしょうか?
綿田 最初にこの質問をもらったときに「どうしようかな」という思いがあったんです。他の方が挙げているような、中高生の思春期に感銘を受けた作品が自分にはなくて。というのも、地元の宮崎県では民放が2局しかなく、キー局のゴールデンタイムのアニメは夕方頃に放送されていたので、部活をしていた中高生の頃はほとんど見ることがなかったんです。世代的には『新世紀エヴァンゲリオン』世代なのですが、地元では半年~1年くらい遅れて朝や昼に放送されていたので、リアルタイム勢の盛り上がりとは温度感がちょっと違っていて。そんな中で『グランゾート』は小学校の頃に見ていて、放送日には学校が終わったら走って家に帰るくらい好きだったのですが、宮崎では途中で終わってしまって、残りは夏休みに一挙放送となりました(笑)。それも結果的に見ることができなくて、兄が録画していた最終話だけをビデオで繰り返し見ていたおぼえがあります。

――その前年には同系統作の『魔神英雄伝ワタル(以下、ワタル)』が放送され、こちらはシリーズ化もされた人気作ですが、『グランゾート』により強く惹かれたのはなぜでしょう?
綿田 『ワタル』も見ていましたし、玩具も持っていたのですが、『グランゾート』のほうが若干、メカの頭身が高いのが自分の中では気に入ったのかもしれないし、主人公がスケボーに乗っているのが『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のような当時の流行りを感じさせてカッコよく見えたのかもしれません。男の子3人のパーティも好きでしたね。ともかくその頃に夢中になっていた感覚は今もよくおぼえていますし、『ガンダムビルド』シリーズも『グランゾート』を意識しながら作っていました。本質的に自分は「マーチャンアニメ」(玩具やホビーなどの商業展開・販売促進をビジネス上の目的としたアニメ)が好きなんだと思います。

――ロボットアニメとしての『グランゾート』の印象はいかがでしたか?
綿田 カッコよかったと思いますよ。「“顔”って感じで」(笑)。

――召喚されたときはロボットの頭部のみの“フェイスモード”で出現して、そこから手足のある“バトルモード”に変形するんですよね。
綿田 そう、あれは「いいじゃん!」と思って見ていました。でも、当時はプラクション(プラモデル)を買えなかったんです。『ワタル』のときは500円くらいだったのに、『グランゾート』では780円とちょっと高くなっていて(笑)。その「欲しいのに買えない」という思いがあったから心に残る作品になっているところがあるのかも。後に大人買いしましたけど(笑)。

――2頭身のロボットについてはどのように見ていましたか?
綿田 当時は『SDガンダム』もすでに人気だったので、頭身の低いメカにも違和感はありませんでした。僕らよりも上の世代はSDを「かわいい」ととらえるみたいなんですが、自分の中では「カッコイイ」と「かわいい」が両立するものだったんです。(SDガンダムが多数登場する)『ガンダムビルドファイターズトライ』を監督していたとき、下の世代ではカッコよさをより強調してきたり、一方で表情やポージングをかわいくしてくるスタッフもいて、SDに対するとらえ方がこんなに幅広いのかと勉強になりました。

放送日には学校が終わったら

走って家に帰るくらい

夢中になっていました

――自身がマーチャンアニメを作る立場になって、「子供向け」作品の難しさを感じたことはありますか?
綿田 「大人の納得感みたいなものだけで理屈付けしてしまうとワクワクしないな」ということは考えました。『ガンダムビルドファイターズトライ』や『ガンダムビルドダイバーズ』の最終回でのお祭り感は、『ワタル』や『グランゾート』のワチャワチャした雰囲気をイメージしていました。「最近あまり見ないタイプの作品」みたいなことは言われたりもしますけれども(笑)。

――小さくまとめすぎない、極端に言えば、少し投げっぱなしの部分があってもかまわない?
綿田 最終的にはそうした部分があってもいいと思います。自分の中だけで用意した理屈を説明したり、辻褄を合わせるためだけの話を作ることはしないようにしました。あとは、子供が見ているのはキャラクターの気持ちだから、大人の共感を得るためにキャラクターを動かすことはやめようと。大人の世界に巻き込まれていくドラマならいいんですけどね。当時の自分のように、アニメが楽しみで家に走って帰るとか、配信を楽しみにして再生ボタンを押してくれる子がいたらいいなと考えながら作っていました。

――今回、振り返ってみて『グランゾート』はどんな作品だったと感じますか?
綿田 日本のアニメ史を語るときに挙がるようなタイトルではないかもしれないけど、自分の中では特別な作品になっていて、皆さんもそういう作品を抱えているんじゃないかと思うんですよね。この業界に入って当時のスタッフから「現場はすごく楽しく作っていた」という話を直接聞くこともできて、その雰囲気が視聴者の自分にも伝わっていたのかなと感じます。井内秀治監督と親しくさせていただいた頃に「『グランゾート』が好きです」と伝えたら、ちょっとはにかんだ笑顔を返してもらったのが記憶に残っています。自分がこの仕事をしていくなかで、子供の心に何か引っかかったり、誰かの特別な思い出になるような作品を作ることができたらいいなと考えるのですが、そういうときに思い出すのはいつも『グランゾート』ですね。endmark

KATARIBE Profile

綿田慎也

綿田慎也

アニメ監督/演出

わただしんや 1979年生まれ。宮崎県出身。中央大学法学部卒業後、サンライズへ制作進行として入社。演出家として『銀魂』や『ラブライブ!』などさまざまな作品を手がける。主な監督作に『ガンダムビルドダイバーズ』シリーズ、『劇場版アイカツスターズ!』がある。監督としての最新作は公開中のオリジナルアニメ映画『フラ・フラダンス』。

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