Febri TALK 2021.12.10 │ 12:00

綿田慎也 アニメ監督/演出

③「演出」の仕事を志すきっかけ
『ガンダム』シリーズ

『ガンダムビルドダイバーズ』をはじめとしたロボットアニメの他、さまざまなアイドルアニメも手がける綿田慎也のアニメ遍歴を聞くインタビュー連載。最終回は、演出家となってから数多く手がけた『ガンダム』シリーズの仕事を振り返りつつ、今後のシリーズの未来を語ってもらった。

取材・文/日詰明嘉

小学生時代からの憧れだった「サンライズ」ブランド

――3本目は『ガンダム』シリーズです。
綿田 自分のキャリアを振り返ると1本に絞りきれなくてシリーズとして挙げました。リアルタイムで見ていたのは『機動戦士Zガンダム』と『機動戦士ガンダムZZ』です。宮崎県では夕方の1時間枠で『Z』と『ZZ』を連続して放送していたんです。他にもロボットアニメはありましたが、興味を持って見続けるのはサンライズの作品ばかりで、子供心に「僕はオープニングの最後に“(日本)サンライズ”と出るアニメが好きなんだ」と感じていました。

――小学生にとって『機動戦士Zガンダム』の内容は難しくありませんでしたか?
綿田 そうですね。中学生の頃に見た再放送でようやくわかったような感じです。そして高校生になってもう一度ビデオで見直して、そのときに演出という仕事に気づいたんです。何話かに一回、テンポ感やヌケ感がある、キレのいい話数があるぞ、と。そう感じた話数で「演出」を担当していたのが杉島邦久(すぎしまくにひさ)さんでした。

――テンポ感とかヌケ感というのは、今の知識で言語化すると?
綿田 カットを切るタイミングが心地よかったんです。技術的に言えばアクションカットのつまみ方や台詞の位置で、エピソード全体に気持ちのいいスピード感を出していたんだと思います。それからは演出さんによって「ちょっと丸みがある話数だな」とか「人間ドラマの描き方がしっとりしていていいな」といったことが見えてきて、「演出って面白そうだな」と思ったのがアニメ業界に興味を持つきっかけになりました。

――そして大学卒業後に、そのサンライズに入社しました。
綿田 ご縁を感じますね(笑)。しばらくはロボットアニメに関わることはなかったのですが、『ゼーガペイン』のときに演出が足りなくて新人だった僕にチャンスがまわってきて「ロボットアニメの演出家」になりました。その後、『機動戦士ガンダム00』のセカンドシーズン(第20話)に呼んでいただいて、劇場版にも参加しました。

――アニメ演出家の中でも、綿田さんは別の人が描いた絵コンテの「演出」だけを担当することが多い印象があります。
綿田 そうですね。業界内では「処理演出」と言ったりします。これは、各話ごとに絵コンテを元に作画、美術、音響などとの細かい打ち合わせと指示出し、調整を行う実務担当です。ひとりで机に向かって描く絵コンテと違い、現場で身体を動かす作業ですね。カット尺などはコンテマンによってあらかじめ書いてあるのですが、テンポを測ったり、印象的な部分をじっくり見せるなどの判断は各話演出の裁量です。

ロボットを使って戦争する未来を

感じさせるところが

「ガンダムらしさ」のおおもと

――初監督は『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』のブルーレイBOXに収録されたショートフィルム『三次元との戦い』でした。
綿田 10分弱のショートフィルムだからあまり気構えていなかったのですが、キャストがベテランの方々だったので、アフレコでは緊張しました。監督の仕事としてそのあと担当したのはOVA『機動戦士ガンダムAGE MEMORY OF EDEN』ですね。総集編としてのストーリーラインも考えつつ、新規パートも60分以上あり、現場に入って必死でやっていました。

――『ガンダム Gのレコンギスタ』では富野由悠季総監督の下で演出を担当していますが(第3話)、これはどんな経験でしたか?
綿田 しっかりとお叱りを受けました(笑)。作画の上がりをあまりいじらず、OKを出したところ「ちゃんと考えているのか!?」と。少しいじるだけで同じ画面をもっと少ない枚数で表現できたはずだから「考えることを止めるな。“なぜか?”をつねに考えろ」と言われました。あの話数はカッティングを「先に切っていいよ」と言ってもらえて、そちらは大きなダメ出しはなくOKをいただけました。後々、人づてに聞いたところ、あのときはどうやら若手演出のカッティングの力量を見ていたみたいです。『ガンダムビルドファイターズトライ』の監督をする直前だったので、この経験があったおかげで監督業も臆さずにやっていけそうだと思えました。

――綿田さんの思う『ガンダム』らしさとは何でしょうか?
綿田 難しい質問ですね……。「本当にこういうロボットを使って戦争する未来が来るかもしれない」と感じさせるところが「ガンダムらしさ」のおおもとで、それは宇宙世紀シリーズに集約されているのかなと思います。ただ、リアリティのあるロボットアニメとは何か?と考えた場合、いわゆる「スーパーロボット」(この区分も良し悪しあるのですが)との相対でしかなく、これは時代によって見え方も変化します。そして現在では、人型巨大ロボットという存在がリアリティに欠けることに皆が気づいている時代です。その意味で言うと、ロボットものを今後支えていく本質はロマン主義なんだろうなと思いますね。

――ロボットアニメのリアリティに危機が迫っている?
綿田 ただ、そういった状況だからこそ、実存的なメカの魅力を引き立たせるためにはそうではないもの、つまりスーパーロボット的なケレン味のある作品と共存したほうがいいと考えています。僕自身、『SDガンダム』や『機動武闘伝Gガンダム』などの宇宙世紀以外の作品も好きですし、スタッフとして『ガンダムビルド』シリーズを作ってきました。ロボットアニメ自体の数も少なくなってきた今、『ガンダム』がジャンル全体をカバーしていく「冠」になっていくのかなと。そんな『ガンダム』シリーズの中でいろいろな作風のものが作られていくことで、結果的に宇宙世紀のリアリティラインが保証される、みたいな形がいいのではないかと考えています。endmark

KATARIBE Profile

綿田慎也

綿田慎也

アニメ監督/演出

わただしんや 1979年生まれ。宮崎県出身。中央大学法学部卒業後、サンライズへ制作進行として入社。演出家として『銀魂』や『ラブライブ!』などさまざまな作品を手がける。主な監督作に『ガンダムビルドダイバーズ』シリーズ、『劇場版アイカツスターズ!』がある。監督としての最新作は公開中のオリジナルアニメ映画『フラ・フラダンス』。

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