Febri TALK 2021.12.08 │ 12:00

綿田慎也 アニメ監督・演出

②業界に進むことをあきらめかけた
『劇場版 デジモンアドベンチャー』

『ガンダムビルドダイバーズ』をはじめとしたロボットアニメの他、さまざまなアイドルアニメも手がける綿田慎也のアニメ遍歴を聞くインタビュー連載。第2回は、アニメ業界を志していた彼をあきらめさせかけ、今もなお「届かない」と思わしめる『劇場版 デジモンアドベンチャー』について。

取材・文/日詰明嘉

わずか20分間に込められたソリッドな演出力に驚愕

――2本目に挙がったのは『劇場版 デジモンアドベンチャー』。TVシリーズ第1作の放送直前に公開された20分の短編で、細田守さんの初監督作品です。
綿田 学生の頃に読んでいた『アニメージュ』で、すごい演出家が現れたという記事を読んで、公開後にビデオで見ました。自分はこの作品で細田さんの映像を初めて体験して、シンプルに「20分間でこれだけのものを詰め込めるのか!」と大きな衝撃を受けました。当時は大学3年生で、アニメやゲームの業界に就職したいという気持ちがわいてきた頃だったのですが、業界に進むのをやめようかなと思ったくらいです。「こんなすごいアニメを作る人がいるなら、いち視聴者のままでいいじゃん」と(笑)。

――どんなところに衝撃を受けましたか?
綿田 レイアウトや作画の完成度の高さはもちろん、構成の無駄のなさですね。子供たちが変な生き物と出会って、成長していく過程で意思疎通ができなくなったように見えるけど、心はつながっている。たった20分で出会いと別れをここまで描けるのか、と驚きました。このインタビューを受ける前にも見返したのですが、やっぱりすごい。技術的なことがわかるようになった今、よりはっきりと「届かないな」と思ってしまいます。(『銀魂』や『おそ松さん』監督の)藤田陽一さんと「細田さんは演出力の塊(かたまり)で、それがむき出しでソリッドだよね」と話したことがあるのですが、藤田さんは「最近はその面がより洗練されている」と言っていました。むき出しだから凄みがあるし、いろいろな気持ちにさせられますね。憧れもあるし、自分はここには届かないという気持ちもわいてくるし、見るたびに「業界に行くのはやめようかな」と思ったことを思い出します。

――「ソリッドさ」の秘訣はどんなところにあると思いますか?
綿田 演出の間の取り方、セリフのないところでの芝居の付け方、余白でも二重、三重に仕掛けがあって、20分間での展開や構成の妙、小動物の芝居の付け方も子供向けを意識して作っていたりと、巧みですよね。この尺でここまでやれるんだと思うと、TVシリーズのフォーマット(一般的な30分TVアニメの本編は正味20分強)でも、本気を出せばこれくらいまでのことができるんだなという気持ちにさせられます。

見るたびに憧れとともに

自分はここに届かないという

気持ちがわいてきます

――その後、TVシリーズの『デジモンアドベンチャー』は見ていましたか?
綿田 はい。無印のTVシリーズは全部見ていて、すごく面白かったです。通して見ると各話の演出さんたちの色がすごく出ているし、スタッフさんたちの違いによって、面白さがこういうふうに出るんだなと気づかされました。

――細田さんは第21話「コロモン東京大激突!」でも演出をしていて、“むき出し”の演出力が、ややもするとTVシリーズの『デジモン』からはみ出してしまう部分もあると思うのですが、それはどう思いますか?
綿田 TVシリーズの中の一話で、シリーズとしての大筋を壊していなければ、多少異質な回があってもいいと僕は思います。実際、僕が見たときもこれはシリーズの中に吸収されていると思いましたし、それがマーチャンアニメの懐の深さだとも思います。当時は大学生だったので、大人向けなものじゃないと物足りない気持ちもあったのですが、子供向けのフォーマットの中でもやれることはまだまだいっぱいあるんだなと思いました。細田さんの回を見ると、すごく難しいことをやっているけれど、それもまたひとつのかたちなんだと受け入れられますよね。この作品はそういう目線でシリーズを見るようになったきっかけでしたし、同時にマーチャンアニメから少し離れていた気持ちを戻してくれた側面もありました。

――翌年公開の『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』はいかがでしたか?
綿田 『ぼくらのウォーゲーム!』もすごい作品ですよね。ぜひFebri TALKの中村健治さんのインタビュー回を読んでください。娯楽作品として面白いのはもちろんですが、やはり「40分でこの密度か……」と思います。でも、先に見たのが、よりソリッドで娯楽作品っぽくない『デジモンアドベンチャー』だったので、自分にとっての衝撃度は最初の劇場版のほうが印象的ですね。

――当時、この作品を見てアニメ業界に進もうとした気持ちが折れかけたとのことですが、でも、やっぱり目指したんですね。
綿田 そうですね。「いち視聴者のままでいいじゃん」という気持ちに一瞬なりましたが、それでも何かやってみたいという気持ちが結局消えなくて。どうなるかはわからないけれども、この業界に踏み込んでみようと思いました。業界に入る前に頭を少し冷やす、いいきっかけになりました(笑)。endmark

KATARIBE Profile

綿田慎也

綿田慎也

アニメ監督・演出

わただしんや 1979年生まれ。宮崎県出身。中央大学法学部卒業後、サンライズへ制作進行として入社。演出家として『銀魂』や『ラブライブ!』などさまざまな作品を手がける。主な監督作に『ガンダムビルドダイバーズ』シリーズ、『劇場版アイカツスターズ!』がある。監督としての最新作は公開中のオリジナルアニメ映画『フラ・フラダンス』。

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