Febri TALK 2022.02.02 │ 12:00

横谷昌宏 脚本家

②アニメ脚本家への転機となった
『カスミン』

『ケロロ軍曹』『Re:ゼロから始める異世界生活』『トロピカル~ジュ!プリキュア』など、ギャグからシリアスまで幅広い作品を手がける脚本家・横谷昌宏が選ぶアニメ3選。インタビュー連載の第2回は、実写からアニメへと路線を転向するきっかけとなった『カスミン』。

取材・文/岡本大介

「こういう脚本が書きたかったんだ」と心から楽しめた

――2本目は『カスミン』の第3期です。こちらは横谷さんが脚本で参加している作品ですね。
横谷 これは内容も面白いんですけど、個人的に転機になった作品として印象深いので選ばせてもらいました。

――横谷さんが脚本家としてデビューしたのは1996年の『怪盗セイント・テール』ですよね。『カスミン』に参加したのは2003年ですから、デビュー7年目というタイミングですね。
横谷 じつは『怪盗セイント・テール』以降、アニメの仕事はほとんどやっていなくて、当時は実写のドラマや映画の仕事がメインだったんです。ただ、映画の仕事は本当に大変で、企画がなかなか通らないうえに、通ったとしても今度はその支払いがいつになるかまったくわからない。なんとか食べられてはいたのですが、あまりに不安定で、このままではヤバいなと感じていました。そんななか、久しぶりに誘われたアニメの仕事が『カスミン』だったんです。1本目に挙げた『魔法のプリンセス ミンキーモモ』と同じく、それぞれの話数で脚本家が好きなことができるタイプの作品で、それはもう楽しかったのをおぼえています。

――全26話中、横谷さんは6話を担当しています。とくに印象深いエピソードはありますか?
横谷 どれも楽しく書かせてもらったのですが、あえて挙げるなら第10話の「カスミ、飛ぶ」ですかね。飛行機のお客さんが全員、白物家電というシチュエーションなんですけど、そこで「お客さまの中にお医者さんはいませんか?」というアナウンスが流れると、「はい」と言って洗濯機がスッと立ち上がる、みたいな話で(笑)。

――なかなかシュールですね。
横谷 僕は浦沢義雄さんの脚本が好きなんですよ。浦沢さんのお話には無生物が活躍するエピソードが多いんですよね。東映不思議コメディーシリーズの『ペットントン』という作品で、チャーハンとシューマイが駆け落ちする「横浜チャーハン物語」とか、いい意味で突拍子もないなと思っていました(笑)。だから、この話は完全に浦沢義雄さんリスペクトとして書いたのですが、とにかく書いていて気持ちが良かったです。それまでは脚本家としてやっていくことにいまいち自信を持てなかった部分もあったのですが、『カスミン』で初めて「僕はずっとこういうのが書きたかったんだな」と実感したんです。第3期はパッケージが販売されていなくて視聴する手段がないのが残念なのですが、もし今後配信される機会などがあれば、ぜひ見ていただきたいです。

――横谷さんは物語を緻密に構成するタイプの脚本家という印象があったのですが、実際ははっちゃけた作品が好きなんですね。
横谷 好きですね。もちろん、僕が好きなように書けたのは世界観やキャラクターの強度がしっかりとしていたからこそですし、なによりシリーズ構成の吉田玲子さんやメインライターの池田眞美子さんが締めるところをちゃんと締めてくれたおかげなんですけど、その脇で自由に遊べた『カスミン』は本当に楽しかったです。

『カスミン』に参加してからの

4~5年間は、脚本家人生で

いちばん楽しかった

時期かもしれません

――横谷さんも今ではシリーズ構成を務めることが多いですが、各話ライターとして思いっきり遊べる機会というのはあるのですか?
横谷 機会は減りましたけど、ちょうど現在放送されている『ミュークルドリーミー』はまさにそれですね。シリーズ構成の金杉弘子さんがメイン回を担当されていて、僕には自由にできる話数を振ってくれるので、めちゃくちゃ楽しく書かせてもらっています。金杉さんには感謝しかないです。

――そう言えば『ミュークルドリーミー』でも「恐怖のプチトマトマン」(第17話)でプチトマトを擬人化させていますよね。
横谷 僕自身、そんなに引き出しは多くないですし、好きなパターンというのもだいたい決まっているんですよね。だから小ネタと小ネタを組み合わせたり、工夫しながら書いています。ただ、過去に自分が書いたものを読み返すと、「今はとてもできないな」と思うことも多いですね。

――どうしてですか?
横谷 今では「これをやったらきっと怒られるよな」というセンサーが無意識に働いてセーブしちゃうんですよ。でも、当時は怖いもの知らずで「面白ければいいだろう!」と突っ走っているので、振り返ると危ないことをやっていたなと思います。

――なるほど。冒頭で『カスミン』が転機になったとのことでしたが、具体的にはどのように状況が変わっていったのですか?
横谷 『カスミン』をきっかけに、ようやく仕事が安定し始めました。それは『カスミン』でご一緒した方が、また別の作品で呼んでくださったのが大きいんです。とくに池田眞美子さんには『デ・ジ・キャラットにょ』や『おじゃる丸』『ケロロ軍曹』などたくさんの作品で本当にお世話になりましたし、そのどれもが本当に楽しかったです。あの4~5年間というのは、脚本家人生においていちばん楽しかった時期かもしれません。

――それまで実写の世界でなかなか先が見えなかったことを思うと、その変化は大きいですね。
横谷 そうなんですよ。気づけば毎週のように何かの打ち合わせがあって、脚本家として仕事をするってこういうことなんだなと(笑)。今の自分があるのは『カスミン』で再びアニメ業界に呼んでもらえたからだと思っているので、やっぱり忘れられない作品です。endmark

KATARIBE Profile

横谷昌宏

横谷昌宏

脚本家

よこたにまさひろ 大阪府出身。大学卒業後、エンジニアを経て1996年に『怪盗セイント・テール』で脚本家デビュー。シリーズ構成を担当した主な作品に『ケロロ軍曹』『Free!』『トロピカル~ジュ!プリキュア』などがある。

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