SERIES 2021.06.10 │ 12:02

大暮維人インタビュー②

その繊細かつ大胆な画力で、読む人すべてを夢中にさせるマンガ家・大暮維人。『天上天下』や『エア・ギア』など、そのビジュアルセンスに圧倒された人も多いだろう。現在、西尾維新原作の話題作『化物語』を連載中の大暮に、これまでのキャリア、そしていまだ続く「理想の絵」への試行錯誤を聞いた。

取材・文/宮 昌太朗

※雑誌Febri Vol.54(2019年4月発売)に掲載されたインタビューの再掲です。

突っ走り続けた週刊と月刊での同時連載

――『天上天下』と並行して『エア・ギア』の連載が始まります。マガジン編集部から依頼があったということですが、引き受けたときの印象は?
大暮 できるかどうかというのはもちろんあったのですが、当時はすごく野心に燃えていて、「よし、やろう」という、それだけでした。ただ、実際に載せてもらえるかどうかというハードルがまずあって、最初に描いた読み切り数本のアンケート結果があまり芳しくなかったんです。それで結局『マガジンSPECIAL』で『魔人〜DEVIL〜』を連載しながらスタッフを集めて、週刊連載ができる体制を整えて。ようやくネームが通って『エア・ギア』の連載がスタートしました。

――週刊と月刊で同時連載というのは、かなりの作業量になると思うのですが、当時はどんなスケジュールで動いていたのでしょうか?
大暮 そこはかなり厳密に決まっていて、『天上天下』が1ヵ月のうちの10日。残りの20日で『エア・ギア』を4週分仕上げる、というスケジュールです。当時、スタッフにいつも言っていたのは『エア・ギア』はスケジュール優先でやろう、と。やっぱり引き算を考えないと絶対に終わらないんですよ。同じ10日で『エア・ギア』は40ページ仕上げるわけですけど、『天上天下』は30〜32ページ。その10ページ少ない分のエネルギーをクオリティに、というのはいつもスタッフに話していました。『エア・ギア』はペース配分がとにかく難しくて、しかも僕にとってすべてが新しいチャンレンジだったので、単純に手も頭も追いつかないことが多く、完全に無酸素運動で突っ走っている状態でした。

――どちらも長期の連載になりましたが、どうやって連載を終わらせようと考えていたのでしょうか?
大暮 これは作家としてすごく幸せなことなのですが、どちらも「とにかく満足がいくまで描いてほしい」と言われていました。その結果、自分のなかで「ここが区切りかな」と思ったところまで、思いきり描かせてもらえた。そこはありがたい話でした。『エア・ギア』は、じつはもっと早く終わるはずでした。この作品で言いたかったことを言うだけであれば、カズとニケが戦うところで終わってよかったんです。

――たしかにそうですね。
大暮 でも、そうするとイッキと空が戦わないままになってしまうわけで、それはどうなんだ、と。もちろん、後日談として処理するとか、戦わないで和解させるとか方法はあったと思うのですが、やっぱりそこはクライマックスがほしいということで軌道エレベーターの話を描くことになって……。実際「なかったほうがよかったんじゃないか」って言われることもありますし、僕のなかで今でも「どちらがよかったんだろう」と思うときはあります。

ビジュアル開発に挑んだ『バイオーグ・トリニティ』

――『天上天下』『エア・ギア』を筆頭に、大暮先生の作品と言えば、登場する女の子がかわいいのですが、「かわいい女の子」を描くコツみたいなものはあるのですか?
大暮 きっと「これがかわいい女の子だ」という、すごい信念を持って描いていらっしゃる方はたくさんいると思うのですが、僕にはそれがないんです。作品ごとに違うのはもちろん、毎話ごと、ひとコマごとに違います。たとえば、「美しいな」と思うモデルさんや俳優さんが持っているバランスってあるじゃないですか。でも、それを絵にしてしまうと、目が小さすぎたり離れすぎたりして、どうしてもかわいいと思えなくなってしまう。で、なんとなく理想的な形に整えていくと、結局、どれも「同じ顔」になってしまうんです。

――なるほど。
大暮 僕からすると、そのあたりの感覚がこの20年くらい、まったく変わっていなくて。変化はしているんだけども、進化はしていないというか。僕はそういう「同じ顔」を古く感じてしまうし、そこに収まりたくないという気持ちもある。僕のなかで理想にいちばん近いのは江口寿史先生なんですが、僕にはあの絵で連載を続けることは不可能です。でも、答えはどこかに必ずある。そう思いつつ、僕自身まだそこにはたどり着けていなくて、そのチャレンジをずっと続けています。

――2本の長期連載を終えたあと、今度は小説家の舞城王太郎氏を原作に迎えた『バイオーグ・トリニティ』が始まりました。
大暮 もともと担当編集が舞城さんのファンだったのと、僕も青山景さんが描かれたコミカライズ版の『ピコーン!』がすごく面白くて気になっていたので、こちらから原作をお願いしたいとオファーを出しました。当時、僕はすごく疲弊していて、精神的にも肉体的にも限界で……これまで自分がやってきたことに対して、少し否定的な気分だったんです。絵についても、自分のなかでは「もうこれ以上は描き込めない」というところまできちゃったし、ちょっと違う方向で考えよう、と。

――ある意味、リセットするような感覚があったわけですね。
大暮 当時、マンガの世界も徐々にデジタルに移りつつあったので、デジタルだからこそのよさを生かしたビジュアルにシフトしようと、スタッフともそんな話をしていました。だから、言葉を選ばずに言うと、個人的には実験作のつもりでした。もちろん、実験作だから軽く見ているというわけではなくて、むしろ僕のキャリアのなかで大きな転換点になるだろうと考えていたんです。

――どちらかと言えば、ビジュアル開発が主眼にあったのですね。原作ものを描くときに、先生が大切にしているポイントはどこなのでしょうか?
大暮 ストーリーや世界観設定はすでにあるので、自分がやるのはもっと別のことになります。『バイオーグ』のときにチャレンジしようと考えていたのは「小説とマンガの融合」。舞城さんのあの独特の世界観をいかに絵で表現するか。小説のマンガ化ではなく、マンガの形態をとった小説でありたいと思っていました。

小説ともアニメとも違う雰囲気を目指す『化物語』

――では『化物語』は?
大暮 あの原作のすさまじい文字圧をマンガにできるのかという不安や、ファンが納得できるクオリティを供給できるのか。そこは今でもチャレンジしている最中です。あと、わかりやすい例だと忍野メメなどがそうなのですが、『化物語』ってキャラクターのイメージが小説とアニメで少し違っている。このことが僕のなかですごく大きなウェイトを占めています。原作ファン、アニメファンの両方が持つ「漠然としたメメのイメージ」を自分なりに包括して再構築できれば、と。正直、そんなことが可能なのかどうかもわからないですし、論理的な道筋があるわけじゃない。でも、だからこそ楽しいというのはあります。

――連載開始から1年ほど経ちましたが、手応えはいかがですか?
大暮 自分的に満足できる部分もある一方で、読者が求めている場所はわかっているけど、まだ満足させられていないんだろうな、という自覚もあります。あと、雰囲気的にホラーテイストというか、普通の高校生たちが少しだけ何か、後ろに暗いものを引きずっているという感じをやりたいんですよね。毎回少しだけそういう影の部分、何かに引っ張られている感じを入れ込んでいるのですが、それが結果的に小説ともアニメとも違う雰囲気につながればいいな、と。そこが本当に成功するかどうかは終わってみないとわからないですが、これからも楽しみに読んでいただければと思います。endmark

大暮維人
おおぐれいと。1972年生まれ、宮崎県出身。白夜書房主催の「ホットミルク漫画大賞」に入賞し、1995年にマンガ家としてデビュー。1997年に『BURN-UP W』で初めて一般誌に進出し、同年にヒット作『天上天下』の連載をスタートさせる。現在は『週刊少年マガジン』にて西尾維新の人気小説をコミカライズした『化物語』を連載中。
作品名掲載誌(掲載年)
SEPTEMBER KISSホットミルク(1995年)
CITY OF BANDITホットミルク(1995年)
百鬼丸のゆううつホットミルク(1995年)
蝉しぐれホットミルク(1995年)
TUES–dayホットミルク(1995年)
Peterpan Syndrome stageホットミルク(1995年)
REVENGEホットミルク(1996年)
青輝丸ホットミルク(1996年)
世紀末英雄伝 超救世主伝説漫画ばんがいち(1996年)
JUNK STORY –鉄屑物語–ホットミルク(1996年)
Cせん竹田コミック・ジャンキーズ(1996年)
BURN–UP W月刊少年キャプテン(1996年)
ある一夏の恋ホットミルク(1997年)
天上天下ウルトラジャンプ(1997年)
Ma Belleホットミルク(1997年)
世紀末英雄伝 超救世主伝説2ホットミルク(1997年)
BURN–UP EKXCESS&W 光芒の絆編月刊アニメージュ(1998年)
one selfCOMIC零式(1998年)
火魅子伝〜恋解〜 臥雲の章月刊コミックドラゴン(1998年)
魔人–Devil–週刊少年マガジン(1999年)
はねCOMIC零式(1999年)
A+週刊少年マガジン(1999年)
豊死魔区西部戦線ウエストサイド・ストリート月刊少年エース(2000年)
エア・ギア週刊少年マガジン(2000年)
NAKED STARホットミルク(2004年)
バイオーグ・トリニティウルトラジャンプ(2013年)
化物語週刊少年マガジン(2018年)
※挿絵、イラスト寄稿等は割愛しています。