SERIES 2021.11.23 │ 12:00

『デストロ016』連載中
マンガ家・高橋慶太郎 インタビュー①

世界を股にかける武器商人・ココと元少年兵・ヨナの壮大な旅物語を描いた『ヨルムンガンド』。女子高生殺し屋たちのド派手なドンパチが魅力の『デストロ246』。そんな「静と動」を巧みに操るマンガ家・高橋慶太郎。インタビュー前編は、ゲームデザイナーを目指して美大に入学した高橋が、マンガ家になるまでのストーリー。

取材・文/岡本大介

小さい頃からリアルなガジェットが好きだった

――神奈川県のご出身ですが、幼少期はどんなお子さんでしたか?
高橋 普通の子供だったと思います。小学生の頃はリトルリーグに所属していて、主に野球がメインの生活でしたから、あまりマンガやアニメに触れた記憶はありませんね。

――では、幼少期にハマったエンタメ作品というのはとくにはないんですか?
高橋 あったかもしれませんが、思い出せません(笑)。『週刊少年ジャンプ』も毎週買っていたわけではなかったですし、決まって見ていたアニメもなかったと思います。どちらかと言えば、ゲームのほうが好きだったかもしれません。

――世代で言うと、ファミコン全盛期ですよね。
高橋 そうなんですが、なぜか僕の家にはファミコンがなくて、かわりにMSX(エムエスエックス)というゲーム機があったんです。

――MSXですか。マニア向けすぎてまわりで持っている人はいませんでした。
高橋 ですよね。だからゲームの話も友達と噛み合わなくて(笑)。結局、家ではゲームをやらず、友達の家に行ってファミコンで遊ぶことが多かったです。

――絵についてはいかがでしたか? 子供の頃から絵を描くのは好きだったのでしょうか?
高橋 いや、それがべつに好きでもなかったんですよ。

――でも、大学は多摩美術大学に進学していますよね?
高橋 高校2年生になって将来の進路を考えたとき、とにかく受験勉強はしたくないなと思って、それで美術系の大学に進もうかと(笑)。とくに絵を描くのが好きというわけではなかったのですが、美術の成績は良くてほめられたこともあったので。

――何か賞歴があったりするんですか?
高橋 はっきりとはおぼえていないのですが、学校の授業で描いた絵が警察のポスターに選ばれたことがあったと思います。

――薬物撲滅などのいわゆる啓蒙ポスターですね。
高橋 そうです。たしか、そのときは拳銃を描いたと思います。

――銃火器の類は子供の頃から好きだったんですね。
高橋 そうですね。小学生の頃は拳銃のプラモデルを作って遊んでいました。クルマやロボットなどの大型メカにはあまり興味がないんですけど、リアルなガジェットは昔から好きなんですよ。カメラなんかも一時期すごくハマっていましたし、今は釣り道具を集めるのが好きです。

――高橋先生の作品にはリアルな小物が多く登場しますが、それが理由だったんですね。ちなみに美大の受験はすんなりと?
高橋 いえ。美大は美大でハードルがすごく高いんですよ。座学こそ少ないですが、本気で目指す人は高校1年生の頃から準備を始めるものなんです。僕はかなり始動が遅くて、結果的には一浪して多摩美術大学に進みました。

――美大受験を志した当時は、どんな職業を目指していたんですか?
高橋 『ファイナルファンタジー』シリーズのデザインワークが好きだったので、漠然とゲームデザイナーになりたいなと考えていましたね。

――では、在学中にゲームデザイナーからマンガ家に目標が変わったということですね。初めてマンガを描いたのはいつでしたか?
高橋 浪人時代です。友達に誘われてコミケに出品することになり、初めてマンガというか、イラストの寄せ集めのようなものを描きました。そのときにちょっと面白いなと思い、大学では漫研に所属したんです。部誌を制作するためにマンガを描く必要があるんですけど、それもとても楽しかったんですね。ゲームは大人数で作るものですが、マンガはひとりで作るじゃないですか。それがいいなと思い、気づけばマンガ家を目指すようになっていきました。

殺し屋とガンアクションのルーツは『あぶない刑事』!?

――漫研時代はどんなマンガを描いていたんですか?
高橋 デビュー作の『Ordinary±』の原型のような作品を作っていました。もともと殺し屋ものやガンアクションが好きだったんです。銃や女の子を描くのも好きなんですけど、当時はそういう世界観を描きたかったような気がします。

――殺し屋ものやガンアクションを好きになったきっかけは何ですか?
高橋 ひとつに特定するのは難しいのですが、おそらく『あぶない刑事』の影響が強いかと思います。高校生の頃、夕方に再放送していた『あぶない刑事』を帰宅したらまず見るのがルーティンでした。キャラクターやストーリーはあまりおぼえていないんですけど、舞台となっている横浜の雰囲気が好きだったんです。

――中華街や山下公園、元町など、横浜らしいオシャレな街並みのオンパレードでしたね。
高橋 そうなんです。そのオシャレな雰囲気と、そこで繰り広げられる銃撃戦という組み合わせのビジュアルが刺激的で、強く印象に残っています。

――なるほど。『Ordinary±』が講談社のアフタヌーン四季賞に準入選したのが1999年です。これは大学在学中のときですか?
高橋 いえ。大学を中退したあとだったと思います。漫研の部誌のために描いたマンガをそのまま四季賞に送ったら、一次選考を通過したんです。それで「これはイケるのでは?」と思いまして(笑)。続けてすぐに『Ordinary±』を描いて、それが入賞するかどうかの結果待ちの時点で中退したと思います。

――かなり思いきりがいいですね。
高橋 当時、すでにゲームデザイナーになるつもりがなくなっていたので、それなら大学にいる意味がないなと思ったんですよね。今振り返ると若気の至りってやつです(笑)。

――ちなみに四季賞の一次選考を通過した作品は、どんな内容だったんですか?
高橋 17ページくらいの短編で「ふたりの男女がお酒を飲んで家に帰る」という内容だったと思います。のちに講談社の担当さんから「この投稿作を推したいと言ったら、まわりから『マンガをバカにするな!』と怒られた」と聞きました(笑)。当時はマンガの描き方もよくわからずに作っていたので、おそらくマンガの体裁にすらなっていなかったんだと思います。

『ヨルムンガンド』はおっさんばかりでつらかった(笑)。

――デビュー作『Ordinary±』は殺し屋もので、女子高生・伊万里が主人公です。少女を主人公に据えたのはなぜですか?
高橋 何より僕がかわいい女の子を描きたいからです(笑)。描いていて楽しいというのは僕にとってすごく大切なことで、描きたいものだけを描きたいという欲求が強いんです。

――でも、次の『ヨルムンガンド』は男性キャラクターがかなり多いですよね。
高橋 なので、あれは作画的には本当につらかったです(笑)。そもそも僕はおっさんを描きたくないので、原稿はいつもおっさんキャラを先に描き、あとに女の子たちを残すことでなんとかモチベーションを保っていました(笑)。

――なるほど。その『Ordinary±』は連載誌が休刊となり、単行本は小学館のサンデーGXコミックスから出ることになりました。出版社を移ったことになりますね。
高橋 そうですね。『Ordinary±』以降、ネームを切っても切っても連載にはつながらず、僕自身もかなり焦っていたんです。そんな折に小学館の担当さんから声をかけていただいたんですよ。それからも『アフタヌーン』での連載を目指したんですが、ある日「これはもう連載できそうもないな」と感じて、小学館の担当さんに「武器商人の話が描きたいです」と連絡をしたんです。

――それが『ヨルムンガンド』ですね。
高橋 そうです。すでに同人誌用にキャラクターを何人か作っていたので、それをそのまま『月刊サンデーGX』に持ち込みました。

――『ヨルムンガンド』はTVアニメ化もされ、高橋先生の代表作となりました。全11巻を一気に走り抜けた印象ですが、連載当初はどこまでの展開を想定していたのですか?
高橋 最初から10巻程度で終わらせたいと思っていたので、ボリューム感としてはほぼ想定通りです。武器商人・ココの私兵はヨナを含めて9人いるので、1巻でひとりずつフィーチャーして、出し終わった頃に物語を畳む算段でした。ただ、ストーリー的にはアールがCIAのスパイだったというエピソードまでしか考えていなかったので、8巻以降の4巻分に関しては、描きながら考えていきました。

――チーム全員をしっかりと描写し、それぞれのキャラクターを立てるのは最初から考えていたことだったんですね。
高橋 そうですね。でも、振り返ってみると、ルツに関してはスポットライトを当てきれなかったなと思います。彼は元警察官という設定があるのですが、そこを広げても面白くなりそうもなくて。弱ったなと思っていたら、そのまま終わっちゃいました(笑)。

白土晴一さんとともに作り上げたココの壮大な計画

――ちなみに、3巻からは「情報・考証協力」として白土晴一さんが参加していますね。
高橋 そうですね。後半は諜報戦が主流になってきたこともあり、スパイ小説や軍事小説に精通している白土さんにはとても助けられました。とくにクライマックスの構想に関しては白土さんのアイデアが大きいです。ココが夢見る究極の野望について相談したところ「それなら量子コンピューターでしょう」との答えが返ってきて、それでああいう形になりましたから。

――高橋先生自身は、スパイ小説や軍事小説はあまり読まないんですか?
高橋 そもそも僕は小説自体をほとんど読まないので……。マンガを描くうえで情報収集はもちろんしますけど、決して得意ではないですね。

――『ヨルムンガンド』は軍事小説や軍事映画のテイストが強いので、てっきり好きなのかと思っていました。
高橋 読者さんからも「映画的だね」って言われることが多いんですけど、そこはあまり意識したことはないんです。ただ、描いているうちにミリタリーそのものはかなり好きになりました。もともとガジェット好きなので、それこそアフガニスタン紛争時の特殊部隊の装備とかをいろいろと集めて、それを作中に出したりしています。

――なるほど。さて前編はここまでです。後編では『ヨルムンガンド』をさらに掘り下げていくとともに、最新作までのお話を聞かせてください。
高橋 よろしくお願いします。endmark

高橋慶太郎
たかはしけいたろう 神奈川県出身。1999年に投稿した『Ordinary±』が講談社のアフタヌーン四季賞に準入選し、『アフタヌーンシーズン増刊』に掲載されてマンガ家デビュー。2006年に『月刊サンデーGX』にて『ヨルムンガンド』を連載開始、シリーズ累計300万部を突破するヒット作となる。他には『デストロ246』『貧民、聖櫃、大富豪』などを発表。現在は『デストロ016』を連載中。
書籍情報

『デストロ016』
第1巻好評発売中!(サンデーGXにて連載中)
著/高橋慶太郎
発行/小学館

  • ©高橋慶太郎/小学館