TOPICS 2022.12.11 │ 12:00

衝撃作『アキバ冥途戦争』の制作舞台裏 監督・増井壮一インタビュー①

10月より放送が始まったオリジナルアニメ『アキバ冥途戦争』は「メイド×任侠もの」という思いがけないかけ合わせと先の読めない(斜め上の)展開、遊び心にあふれつつ、しっかりした人物描写など、見る者を高揚させるエッセンスが詰まっている。第10話の放送を終えたタイミングで、作品の中心で手腕を発揮している増井壮一監督に話を聞いた。

取材・文/細川洋平

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

毎日を必死で生きているメイドたちを描いた

――増井監督が参加したタイミングは、企画の立ち上げから少し進んだ状況だったとのことですが、あらためて経緯を聞かせください。
増井 僕が入る前に、プロデューサー陣と脚本家チームでアイデア出しやストーリーの流れをもんでいた期間が1年近くあったそうなんです。P.A.WORKSの辻(充仁)プロデューサーからお話をいただいたときには、細かいところまで書き込まれた物語の流れや企画書を提示していただいて、面白かったし、協力したいということでお受けしました。

――最初から面白いという印象があったのですね。
増井 博打をやったり格闘技をやったり野球をやったり、毎回お題が変わるというか、1話完結のエピソードが並んでいるブラックコメディと捉えていましたけれども、そのバラエティ豊かな感じが魅力的で。あとは比企さんを始めとした脚本家チームがまとめられたストーリーが緊張感があっていいんですよ。そこが面白いなと。

――いろいろなところで話しているかと思いますが、「メイド×任侠もの」というかけ合わせに関してはどんな印象を持っていましたか?
増井 これは竹中(信広)プロデューサーの発案なんですけど、最初はどんな映像になるのか思いつかなかったんです。女の子が殺し合いするようなゲームは見かけた気がするんですけど、アニメではイメージできなかった。だから、ライターさんたちのイメージをあとから入った僕がどうやったら映像にできるのか一緒に探っていきました。

――どんなポイントを大事にしようと考えましたか?
増井 登場人物が全員、真面目に生きているというのは大切にしたいと思いました。傍(はた)から見れば「昔の話」という語り口で、ありえないナンセンスな世界観ですけど、この恐ろしい街で生きている人たちは何もふざけていなくて、毎日を必死に生きているんだというところは外さないようにしました。

――比企さんもやはりそこを大事していると話していました。
増井 選択肢があまりない街という前提なので、みんな生きていくのに精一杯。秋葉原というか「アキバ」と呼んでいる街ですけど、他の街はほとんど出てこないし、アキバから出るというのは死ぬことを意味する。少なくとも大変な目に遭うんじゃないかと思うんですよね。そういう縄張りの中での不文律、暗黙の了解の中で生き抜いているので、「アキバを出る」ということは脱出に近いものとして捉えています。

見た目は萌え萌えでも、生き方は任侠

――舞台となる1999年のアキバの街の空気感も、相当気を使っていますよね。
増井 実際の1999年の秋葉原はメイドがいなくてシロモノ家電の街、Windowsが広まってきた頃でした。時代としては平成なんだけど、昭和を意識して昔のアニメでよくやった処理とか、いろいろとアイデアを出していただいて、撮影で古臭い感じのフィルターを乗せてもらうなど、必要以上に画面を汚してもらいました。

――出﨑(統)作品ばりのハーモニーも多用されています。
増井 70年代かよ、ってくらい昔の昭和の気分で。昭和の任侠ものに近づきたいと思って使っています。

――演出も際立っています。クエンティン・タランティーノばりのド派手な銃撃戦や死に対するドライな距離感など、作品全体の質感はどのように意識しましたか?
増井 世界観を丁寧に説明するわけでもなく、「メイド同士の抗争や殺し合いが当たり前の街」という舞台でみんなが生きているのを見せたいと思っていました。第6話(「姉妹盃に注ぐ血 赤バットの凶行」)のねるらはなごみのお友達なので時間をとりましたけど、他のキャラクターの死に方はドライになりました。やらないと自分が殺(や)られるという世界ですから、しょうがないのかなと思っていて。

――そんな中でも、第1話(「姉妹盃に注ぐ血 赤バットの凶行」)でチュキチュキつきちゃん店長が脳天を撃ち抜かれ、その血しぶきがありえない軌道を描いてなごみにかかる描写で、あ、こういうことが起きる世界なんだという方向づけがされていたのが見事でした。
増井 ゆめちが歌っている間に嵐子が追手と撃ち合いをするんですけど、そのシーンを変な画面にしたいという提案だったんですよね。で、ゆめちの曲『純情メイドぶっころ主(しゅ)KISS』を先にいただいた時点で「この歌が来るのね。じゃあ、早めにバカバカしい方向に振らないといけない」と思いました。そこで店長を撃つところから奇妙なことをしようとあーだこーだ考えた結果、噴水みたいになっちゃった。3回やればさすがに視聴者の方も気づいてくれるだろうって……。

――すぐに気づきました(笑)。全体をまとめる際に、イメージした任侠ものの先行作品はあったんですか?
増井 昭和の映画やテレビドラマの名作の数々を手がかりにしました。1960年代から80年代までの、高倉健さん、菅原文太さん、梶芽衣子さんが出演したものと『極妻』(極道の妻たち)シリーズはよく見ましたね。ブラックコメディでいうと、企画書をもらったときに最初に話題に出したのは『ダウンタウン物語』(1976年 主演/ジョディ・フォスター)でした。ギャングが殺し合うんですけど、登場人物が全員子供なんです。そういうありえないナンセンスな世界はヒントになりました。

――萌えと任侠のバランスはどう考えましたか?
増井 萌え……? 萌えてたかなあ……思い出せない(笑)。

――はははは。
増井 ひとりひとりが必死で生きるしかない世界で、シノギとしてご主人さまに向かって萌え萌えする……。見た目は萌え萌えでも、生き方としてはやっぱり任侠になっちゃいますね。endmark

増井壮一
ますいそういち 埼玉県出身。アニメ監督、演出家。多くの作品で絵コンテを担当。主な監督作に『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ黄金のスパイ大作戦』『サクラクエスト』『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』などがある。
作品情報

TVアニメ『アキバ冥途戦争』
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  • ©「アキバ冥途戦争」製作委員会