「メイド×任侠」に感じた無限の可能性
――竹中プロデューサーがこの企画を思いついたきっかけは何だったのでしょうか?
竹中 企画の発端だけでいうと13~4年前ぐらいです。メイド喫茶ブームもちょっと下火になりかけていた時期に、秋葉原で等間隔に並んでチラシを配るメイドさんを見て「この距離感に意味を持たせることができたら面白いものになる」と考えたことがありました。そのときはオシャレな映像作品をイメージしていたんですけど、時代を経て、むしろ昭和任侠ものっぽい泥臭い映像のほうが面白くなりそうだなと、イメージが変わっていった結果が現状の『アキバ冥途戦争』という感じです。
――当時はアニメの企画を考えていた時期だったんですか?
竹中 いえ、そのときに考えていたのは遊技機の企画でした。
――そこに任侠ものを持ってくるんですね。
竹中 常に思い描いているものとして「なんかワケわかんないけど面白いものを作りたい」というのがあって、『ゾンビランドサガ』もそういうところから考えた企画だったんですけど、任侠ものを入れようとした発端は……わかんないですね(笑)。頭の中で「メイド×任侠」をかけ合わせることにより無限の可能性があると感じたし、アイデアもいろいろと広がっていったんです。それで一度、形にしてみようかなと。企画立ち上げ段階から第1話(「ブヒれ!今日からアキバの新人メイド!」)の音ハメ(※注:音楽にキャラクターの動きをはめること)や、前後編となった第6話(「姉妹盃に注ぐ血 赤バットの凶行」)と第7話(「獣抗争史!秋葉外生命体血戦!!」)は作品イメージとしてあって、似たような作品はきっとないだろうなと思っていました。
――第1話、ゆめちの歌が流れているなかで嵐子のアクションシーンが展開する流れは最初から頭にあったのですか?
竹中 そうですね。あれはもう脚本が出来たら映像よりも先に楽曲を発注していたんです。出来上がった映像は、増井(壮一)監督の発想が冴えに冴えていて「さすが!」と思いました。
――1999年を作品の舞台にしたことについて、竹中プロデューサーの狙いをあらためて聞かせてください。
竹中 最初、時代感はあまり気にしていなくて、脚本会議の後半で最終的に設定したんです。増井監督から「携帯電話がそこまで使われていない、原色のネオンがある時代設定にしたい」という話があったのですが、たしかに古いほうが任侠ものとしても活気が出るし、ビジュアル的にも合う。監督のその要望があってすごく良かったと思います。映像の古めかしい感じとか寂れた雑居ビルの雰囲気、メイド喫茶の汚さなどは、やっぱりベースに1999年があったからだと思っているんです。
――エンディングのテロップにはたくさんのメイド喫茶の店名が並んでいます。
竹中 取材させていただくときに「メイドが殺し合いをする作品なんです」とは説明しづらかったですね(笑)。当時は最終的にどうなるかもわからなかったので、あやふやな相談をしていたんじゃないかな。タイトルだけはP.A.WORKSさんに企画を持っていったときから変更していないので、そこは伝えていました。
――ロケハンではどんな収穫がありましたか?
竹中 一日の仕事の流れとかバックヤードは設定に活きていますね。あとメイドさんの仕事に対するモチベーションを聞いていろいろな人がいるなと思いましたし、嵐子の年齢のリアリティラインを探ったりしました。企画当初は32歳ぐらいだったんですけど、それだとリアルでも全然いる可能性のあるラインでした。だから35歳に引き上げました。
とりあえず、やりきってみようという気持ちが強かった
――シナリオ会議は当初、シリーズ構成を立てずに脚本家チームと進めていたんですよね。
竹中 『ウマ娘』の第1期でシリーズ構成に入られていた杉浦(理史)さんと「別の企画もやりたいね」と話していたんです。その後、P.A.WORKSの辻(充仁)プロデューサーと『アキバ冥途戦争』をやることになった際に、辻さんから杉浦さんを提案いただいたので、お声がけさせていただきました。当時、杉浦さんはシリーズ構成を立てずに複数の脚本家で物語を作るハリウッド方式をやってみたいとのことだったんですけど、回を重ねてもうまく作品のイメージがつながらなかったんです。比企(能博)さんはその打ち合わせの中に脚本家のひとりとしていらっしゃって、僕が話していることをいちばん理解してくれている感じがすると思って、杉浦さんに「比企さんをシリーズ構成にして進めたいです」とお伝えしました。それから比企さんと僕で全12話の大まかな流れを作っていきました。
――比企さんは初めてのシリーズ構成になりますが、気にせずにお願いしたんですね。
竹中 全部が終わったあとに、あるインタビューの際に比企さんが「アニメ初脚本、初シリーズ構成だったんですよ」と言ったので、ものすごくびっくりしました(笑)。全然意識していなかったんです。
――本作は出血など、過激な描写がある作品ですが、表現の仕方は意識しましたか?
竹中 まず企画のはじめに「P.A.WORKSさんでは作ったことのないものを作りましょう」と辻さんには伝えていて、この企画は人を選ぶ作品になるということはわかっていました。人の生き死にを笑いに変えることや逆にそれをシリアスなドラマに仕上げることについての指針はありますが、その指針は最終的には勘なので、苦手な人は離脱するだろうなと思いながら作っていました。
――第1話で嵐子がチュキチュキつきちゃん店長の額を撃ち抜いたあとの血の吹き出し方で、不条理と滑稽さがある世界であり、その中で人は死ぬんだということが的確に伝わってきました。
竹中 あそこでダメだったら、この作品は絶対楽しめないと思いますね。世間的な善し悪しを考えると、結局自分たちが面白いと思うことができませんでした、ということになって本末転倒かなと思ったので。どうなるかわからないけど、とりあえずやりきってみよう、みたいな気持ちが強かったかもしれないです。
- 竹中信広
- たけなかのぶひろ 株式会社Cygamesアニメ事業部 事業部長及び株式会社CygamesPictures代表。主なプロデュースアニメ作品に『ゾンビランドサガR』『神撃のバハムート』などがある。