「何をどれだけ匂わせるか?」のさじ加減にこだわった
――お芝居についてですが、『響け!ユーフォニアム(以下、ユーフォ)』シリーズはとても生っぽい芝居が特徴です。そこはどのように感じましたか?
戸松 実写作品のような雰囲気のリアルなお芝居で、初めて収録に参加したときはいろいろ衝撃を受けました。『ユーフォ』って、アフレコ時にはもう絵が完成しているんです。普段の現場ではそんなことはなかなかないので「さすがは京都アニメーションさんだ」と思いながらアフレコさせていただきましたね。
――完成した絵に声を入れる場合、お芝居も少し変わったりするものですか?
戸松 そうですね。京アニさんの作画は本当に表情が細やかに描かれているので、お芝居的に何も足す必要がなくて。むしろ抜いたりすることのほうが多かったです。とくに真由はセリフの端々で「何をどれだけ匂わせるか?」のさじ加減が大切な役どころなので、たとえば「表情でここまでしっかりと出ているなら、芝居は少し抑えたほうがいいかな」とか、こちらとしても細かい調整がしやすくって。そこはすでに絵が完成している強みじゃないかなと思います。
©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024
――なるほど。一方で、絵が出来上がっていると尺やタイミングの自由度は少なくなりますよね。
戸松 それはそうですね。なので、テクニカル的な部分の難易度という意味では、他の現場よりも少し高いのかなと思います。とはいえ、役者の気持ちを優先してくださる場面も多いので、私としては思いっきり自由にやらせていただくことができました。
――ディレクションを含めて、真由を演じるうえで戸松さんが意識したことはどんなことですか?
戸松 第1話の収録に入る前に、石原(立也)監督から「真由は異物です」といわれたので、根っこのところにあるテーマは「異物」ですね。ただ、異物感がありすぎても「裏表のある腹黒い子」というイメージになってしまうので、それはそれで真由ではないなと。なので、最初はフラット気味に演じて、ストーリーが進行するにつれて徐々に異物感を出していきました。とくに後半は真由のセリフで久美子を揺さぶるシーンもあるので、音響監督さんから「ここは佳境だからもっとぶつけちゃっていいよ」っていわれたりもしました。それでも真由の場合、怒ったり抗議したりというよりは、お願いをしている気持ちが強かったりもするので、彼女の感情のベクトルがどこに向けられているのかを探るのは大変でした。単純な喜怒哀楽ではないところにあったりするので。
「本当に?」は真由の性格をよく表しているセリフ
――なるほど。真由は久美子との掛け合いが多かったと思いますが、実際に黒沢ともよさんと掛け合った感触はどうでしたか?
戸松 楽しかったですね。(黒沢)ともよって、テストと本番で出してくる芝居がまったく違うので、本当に飽きないんですよ。本番でも、仮にリテイクが入ると、次は1回目とは全然違うお芝居が来る。毎回想像以上のものが出てくるので、いつも「そう来るか」と驚きながら返していますね。第5話くらいの時点だとセリフ的にはまだまだお互いにジャブを打っている感じなのですが、役者としては最初からずっと刺激的で、楽しませてもらいました。
――第5話までで、とくに印象に残っているセリフやシーンはありますか?
戸松 真由ってよく「本当に?」って聞いてくるじゃないですか。個人的にはそれがとても印象的で、彼女の性格をよく表しているセリフだなって思うんです。
――言われてみれば、たしかによく聞いていますね。
戸松 真由はとにかく「伺う」。でも、言われるほうとしては、なぜそんなに確認したがるのかよくわからないじゃないですか。真由が必要以上に警戒されてしまう理由のひとつだと思うのですが、物語が進むにつれてその真意が明らかになっていけば、彼女に対する印象が変わっていくのかなとも思っています。
©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024
――真由と久美子の関係性は今後だんだんとヒートアップしていく感じでしょうか?
戸松 そうですね。全国金賞を目指す以上、部員みんなが一丸にならないといけない中で、真由のジャブがジワジワと効いてくる感じです。そのうえで、真由もこれまで以上に感情が見え隠れするシーンもあるので、それを久美子がどうやって処理していくのかが見どころになると思います。ただ、最初にも言いましたが、真由は決して悪い子ではないんです。だからこそ、やっぱり人間関係って難しいな、とあらためて感じました。
――では、最後に今後の見どころを聞かせてください。
戸松 ここまででも十分そうなのですが、ここからはもっと心がキューってなります(笑)。北宇治高校に限った話ではないかもしれませんが、吹奏楽部って小さな社会そのものですよね。真由も含め、部員の誰が悪いというわけでもないし、かといって先生が悪いわけでもない。みんなの気持ちもすごくわかるだけに「自分が久美子の立場だったらどうするだろう?」ってすごく考えさせられますね。高校3年生って、もう子供ではないけど、かといって社会経験もないじゃないですか。クラスや部活というごく限られたコミュニティしか知らない状態で正しい決断をしていかなきゃいけないのってすごく難しいと思うんです。だからこそ、久美子はすごいですよね。私が高校生だったら絶対に無理だと思います。
――高校生どころか、大人になってもなかなか久美子のようには振る舞えませんよね。
戸松 本当にそう(笑)。みんなの意見をくみ取りながら、誰も傷つけない最適解を模索するなんて。私も久美子みたいな上司が欲しいです(笑)。
- 戸松遥
- とまつはるか 愛知県出身。ミュージックレイン所属。2007年に声優デビュー。主な主演作に『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(安城鳴子役)、『ソードアート・オンライン』シリーズ(アスナ役)、『妖怪ウォッチ』シリーズ(ケータ役)、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』(アイリス・カナリー役)などがある。