――映像作品としては映画『劇場版 響け！ユーフォニアム〜誓いのフィナーレ〜（以下、誓いのフィナーレ）』以来で、約4年ぶりとなりましたね。
安済　そうなんですよね。今回は正直、「どうしよ〜」って思いましたね。
黒沢　その心は？
安済　シンプルに演じるのが久しぶりっていうのもあるんですけど、それ以上に「経験値問題」ですね。最初に麗奈を演じたときから数えると7年以上経っていますから。これまでに積み重ねてきた人生の経験値を削ぎ落とすべきなのか、あるいは盛り込んでいくのか、すごく迷いました。そういうことってない？
黒沢　どうかなあ？　ただ、私にとってこの作品が特別な存在なのはたしかです。それは長く続いているシリーズだからという理由だけではなく、特別な想いがあるんです。作品やキャラクターに誠実に向き合うことだけを考えながら臨んだので、そこまで迷いやブレというのはなかったですね。
安済　誠実さかあ……それが足りなかったのかな（笑）。
黒沢　そんなことはないでしょ（笑）。それで、知佳ちゃんは結局はどうしたの？
安済　変に考えすぎたものを現場に持っていくよりも、一緒にやってきたみんなのことを信じて、現場で新しい麗奈を作るくらいの気持ちで臨みました。まあ、ひと言でいえば「開き直り」です（笑）。
黒沢　でも、今回は「久美子チューニング」していなかったよね。
安済　そう言えば、そうだね。

――「久美子チューニング」とは？
安済　以前はよく「久美子!!」って名前を呼びかけることで麗奈の声の感覚を取り戻していたんですよ。でも、今回はそれをしなくても麗奈に戻れたんです。
黒沢　そう言えば、めちゃくちゃ面白い話があって。以前の収録で久美子と麗奈のシーンが別録りだったことがあったんですね。そうしたら知佳ちゃんが「久美子がいないから麗奈の声が出ない！」って（笑）。
安済　そのときは久美子がいないと本当にできなかったんです（笑）。

――今回の特別編では、久美子は新部長、麗奈はドラムメジャーに就任しています。おふたりから見て、この選定はいかがですか？
黒沢　久美子は優子と夏紀とかなり近い関係だったので、その流れで選ばれたのかなと思いました。そもそもユーフォニアムという楽器を選んだのも、これまで吹奏楽を続けてきたのも「なんとなく」な久美子なので、そこは一貫しているような気がしますし、意外ではなかったですね。

安済　私も妥当かなと思いつつ、麗奈が部長で久美子が副部長っていうパターンもあるかなと予想していました。麗奈がひとりで仕切るとヤバいことになるから（笑）、久美子がうまく緩衝材になって、裏部長としてまとめていくのもアリかなって。
黒沢　たしかに。それで言うと、私は最初、緑輝（さふぁいあ）かなとも思っていたんですよね。
安済　わかる！
黒沢　でしょ？　でも、ここに来て思ったのは、緑輝は（田中）あすか先輩路線だったんだなって。技術もあって面倒見も良くて。
安済　それでいて、つかめないところもあるしね。たしかにそうかも。

――麗奈のドラムメジャー就任についてはいかがですか？
黒沢　一般的には、マーチングバンドの指揮者の呼称らしいですね。麗奈の場合はおそらく演奏面での責任者みたいな役割なんじゃないかと。
安済　そうそう。まわりから「幹部」って呼ばれていて「幹部なの？」って思いながらも納得しちゃいました（笑）。

――今回、それぞれのキャラクターに成長や変化は感じられましたか？
安済　今回のエピソードで急激に変化したわけではないですけど、入学当初から比べるとかなり変わってきたなと思います。特別な存在になって滝先生に認められたいだけの女の子ではなく、高校生らしい言動や表情を見せるようになって、演じていてうれしかったです。
黒沢　久美子は部長になったこともあって、視野がどんどん広がっているような気がします。中学生の頃は、すぐ隣にいた麗奈のことすらまったくわかっていなかった久美子が、今や何十人もの部員たちを気にしているわけですから。

――今回の特別編では、アンサンブルコンテストのチーム編成を巡り、久美子と麗奈の関係性もあらためてピックアップされていますね。
安済　麗奈と久美子が駆け引きのようなことをしていたのが驚きでした。これまではもっと直情的で、とにかくお互いの気持ちをぶつけ合うっていう感じだったのが、今回はお互いを探り合う展開で「おや？　急にどうした？」って。

黒沢　なんだか主導権が変わった感じがしますよね。これまでは久美子が「麗奈の特別」に振り回されることが多かったのですが、『誓いのフィナーレ』でようやく対等な関係が築けた印象があったんです。そうしたら今回の『特別編』では麗奈のほうがちょっと脆（もろ）くなっていて、その微妙な変化が面白いなって思いました。
安済　麗奈は、久美子にもっと求められたいんじゃないかと思います。久美子の愛を確認したい、ちょっとめんどくさい彼女みたいな（笑）。
黒沢　たしかにそんな感じ。それで言うと今回の久美子って、彼女を学校に残して、ひと足先に社会人になった彼氏みたいな立ち位置ですよね（笑）。
安済　そうそう。もう演奏のことだけを考えてはいられない立場になりましたからね。
黒沢　仕事で忙しいけどきっと彼女は大丈夫だろうって、どこかで麗奈に甘えている状態。だけど思った以上に麗奈が誘ってこないから、だんだんと危機感が出てくる感じが面白いですよね。
安済　ホント、面白かったですね。