TOPICS 2021.09.21 │ 12:00

『白い砂のアクアトープ』のキャラクターメイキング秘話
U35インタビュー

沖縄県南城市にある小さな水族館を舞台に繰り広げられる青春群像劇『白い砂のアクアトープ』。なかでも目を惹くのは、繊細で透明感にあふれたビジュアルだろう。ここではキャラクター原案を手がけたU35に、メインキャラクターそれぞれができあがるまでの過程やデザインのポイントを語ってもらった。

取材・文/編集部

アニメの画がとても好きで、繰り返し見ちゃう

――本作に関わった経緯はどういったものだったのでしょう?
U35 (本作のプロデュースを手がける)infiniteの永谷(敬之)さんから、SNSのDMで連絡をいただきました。キャラクター原案を誰にお願いするか話し合うなかで、私が描いた海を背景にした女の子の絵が印象に残ったそうで、監督からも「お願いしたい」というお話があったそうです。

――オファーが届いたときはどのように思いましたか?
U35 最初は「誤DMかな? 間違いじゃないのかな?」と思い、何度も文面を読み返しました。私にとってアニメのキャラクター原案はいちばんやりたい仕事だったので、うれしさと驚きと「本当なのかな?」と思う気持ちと、いろいろな感情がありました。

――原案作業に入った段階では、どれくらいの情報があったのでしょうか?
U35 スタッフとの顔合わせのときに文字資料をいただいたのですが、そこに各キャラクターの性格や境遇、導入部分のストーリーなどが書いてありました。舞台が沖縄だということもそのときにお聞きして、そこからイメージを膨らませて描いていきました。

――「沖縄が舞台だから自分のところにオファーがきたのかな」と思ったりは……?
U35 夏が好きなのと、海や青い空が好きでずっと描いていたので、そこを見てくださった人がいたんだ、という喜びはありました。自分が好きでいたものを評価していただけたのはうれしかったです。

海咲野くくる(みさきのくくる)

――ここからは各キャラクターについて聞かせてください。まず、くくるについては、どのような方向で作業しましたか?
U35 くくるちゃんは、元気はつらつさが見た目でもわかるようにしたいというのが第一にありました。海が似合う女の子にしたかったのと、活発さ、さわやかさを印象づけたかったので、髪の毛はショートカットをベースに考えていきました。

――ラフには日焼けバージョンがありますね。
U35 これはオーダーがあったわけではなく、自主的に提出しました。自分の好みが出すぎているかなとも思ったのですが、スタッフさんからは「いいね」と言っていただけました(笑)。

――おヘソが出ていますが、このあたりも……?
U35 おなかが少し見えると活発そうな印象がよりプラスされると思ったのと、あとは隙も意識しました。鎖骨や肩まわりも出ていると「よく動きそうな子だな」と思ってもらえそうかな、とか。くくるちゃんはおしゃれにはあまり興味がなくて、水族館の仕事やお魚たちの世話に熱が入る子なので、靴やサンダルはシンプルにデザインにしました。

宮沢風花(みやざわふうか)

――もうひとりの主人公・風花についてはいかがですか?
U35 風花ちゃんはいちばん難しかったです。元アイドルという設定だったので、キレイで画面に映える子にしないと……という考えに最初はとらわれてしまって、キャラクターらしさ、儚さをどう表現していくか悩みました。美人キャラは難しいですね。

――他のキャラクターと比べると髪の長さが際立ちます。
U35 くくるちゃんがショートなので、並んだときに違いがわかるように風花ちゃんは最初からロングにしようと考えていました。そのうえで、キャラクターの個性を出すにはどうしようかと考え、前髪にクセをつけてみたり、くくるちゃんには海のものである貝殻モチーフのアクセサリーをつけたので、風花ちゃんにも何かワンポイントでアクセサリーを付けるのもありかもしれないと思い、元アイドル、可愛いもの、柔らかい印象…フリフリしたもの…リボン…など風花ちゃんに合いそうなものを色々試してみました。

――ラフではパンツスタイルの画が多いですね。「アイドル」のイメージからは、スカートかなとも思ったのですが。
U35 空港に降り立つところからストーリーが始まるので、歩きやすさを優先してパンツスタイルで考えていました。最初、スタッフの方とも「空港にいるアイドルは意外とパンツスタイルが多いですね」とお話ししていたのですが、最終的に「スカートのほうがかわいいですね」ということで、スカート姿の私服に落ち着きました。

照屋月美(てるやつきみ)

――作中ではもっぱら「うどんちゃん」と呼ばれていますが、あだ名は最初から決まっていたのですか?
U35 発注時点で「うどんちゃん」という名前があったと思います。「月見」だから「うどんちゃん」って、面白いなぁと思いました。本人もあだ名を快く受け入れているのが明るくていいですよね。

――彼女もくくると同じく、細かいことはあまり気にしないタイプですよね。
U35 いつも明るくて、友達の背中を押してくれる面倒見のいい女の子、を意識しました。飲食店の娘なので、清潔感を大事にしつつ、くくるちゃんとはまた違う「元気さ」「はつらつさ」を出したいと思い、髪の毛を結ぶ案とおでこ出しで下ろした案の3パターンを提出しました。

――お店での仕事着は何か参考にしたものがあったのでしょうか?
U35 実際に沖縄にある居酒屋さんの服を参考にしました。こんな感じの前掛けをしているお店を見つけて、可愛いなと思い取り入れました。

久高夏凛(くだかかりん)

――夏凛のラフは「胸は控えめ」「泣きボクロついています!」など、ディテールに関する書き込みが印象的です。
U35 夏凛ちゃん自身はわりとシンプルなキャラクターなので、そのなかでどのような個性を出そうかと考えたり、メインの女の子4人のなかではいちばん年上という印象を持たせるためにどうしようか、と考えたうえでの書き込みですね。

――他のキャラクターと比べると手足が長いのも目を引きます。
U35 そうですね。どうやって年上らしさを出そうかと思って、身体のパーツの長さを変えようと。泣きボクロは、ホクロがあるとセクシーに見えるかなと思ったんです。目元のホクロ、いいですよね(笑)。

仲村 櫂(なかむらかい)

――次は櫂のラフですね。女の子がメインの作品に出てくる男の子キャラクターは扱いに悩んだりするのかな、とも思うのですが。
U35 いえ、そのあたりはあまり気にならず、迷うことなく描いていきました。櫂くんはキャラクターとしての立ち位置よりも「漁師の息子」という設定を意識しています。漁のお手伝いもしている、という設定だったので、肩まわりがしっかりとした沖縄の海と合うような、体格のいい男の子として描きました。

――微妙に渋みのあるキャラですよね。10代の男の子で女の子たちに囲まれているわりには……。
U35 落ち着いていますよね。優しい雰囲気も出ていて、男らしいというか、静かに見守っているというか。くくるの幼馴染という立ち位置の彼ですが、くくるのことをよく見ています。櫂くん、本当にいい子です。「女性キャラクターメインの作品に出てくる男の子」という立ち位置なので、女の子たちに華をもたせるような雰囲気を意識していたのかもしれないですね。

屋嘉間志 空也(やかましくうや)

――空也は私服だけ見ると完全に「チャラ男」ですね(笑)。
U35 そうですね。アクセサリーはここからさらにピアスをつけようかと迷いましたが、やりすぎかなぁと思い、やめました。やりすぎないようにはしたのですが、こうやって櫂くんと並ぶとチャラさが目立ちますね(笑)。でも見た目とは裏腹に仕事は手を抜くことはなく、根は真面目で静かに熱い心を持った空也くんもとても素敵なキャラクターなんです。

――クセのある変わったキャラクターですよね。美青年なのに、その美青年ぶりが本人の役には全然立っていなかったり。
U35 屋嘉間志くんはいただいた文字資料から「こういうビジュアルにしたい」というイメージがすぐにわきました。トラウマがあって女性と目を合わせてしゃべれない、目を合わせたくないのだったら前髪を長めにしてカーテンみたいにしようと。なので長髪にしたのは、自分の顔を隠せるようにできるためです。彼が猫背なのもそこからきています。

――紫色の服って簡単には着こなせないですよね。
U35 紫は確かに難しいですよね。色は、他のキャラクターとかぶらないように決めていました。紫は誰にも使っていない色だったので試しに入れてみたのですが、案外似合うな……と思いながら描いていました。

南風原 知夢(はえばるちゆ)

――第8話の最後に登場した新しいキャラクターですね。
U35 年長のお姉さんで、物事をはっきりというタイプの女性です。

――ブレスレットとか、身につけているものも他のキャラクターとはちょっと雰囲気が違いますね。
U35 そうですね。大人っぽさと同時に沖縄在住っぽさも出したいなと思いながら考えました。「誰かに頼らず、自分の力で生きていきたい」と考えているキャラクターなので、髪型はさっぱりしすぎず、かつ女性らしさも大事にして「バリバリ働けます」感が出せていたらいいなと思いながらデザインしました。ちなみに、髪型はエイをモチーフにしています。

――よく見ると鎖骨の少し上にホクロがあるんですね。
U35 このホクロは、水族館で働いているときには見えないんです。私服になったときにだけ見えるものがあるってすごくいいな、と思いまして。

――日焼けバージョンとか、泣きボクロとか、ところどころにU35さんの好きな要素が入りますね(笑)。
U35 首もとにホクロがあったら、少し大人の雰囲気というか、魅力が増すような気がしたので、こっそりつけさせてもらいました(笑)。なので、私服の案はすべて首元・鎖骨まわりが見えるようにデザインを考えました。南風原さんのホクロは、本編で気づいてくれた人がいたらうれしいポイントですね。他にも、空也くんの大きく口を開けない限り見えない八重歯もポイントなんです。

くくるたちが通う高校の制服

――制服のデザインですが、モデルにしたものはあったのでしょうか?
U35 とくにこれといったものはないです。沖縄の暑さを考えると、ブレザーはあまり着ないかなと思い、セーラー服案をふたつ、シンプルなシャツのバージョンをひとつ提出しました。セーラー服感とオリジナル感をどう組み合わせようかと悩みつつ、誰が着ても違和感がでないようにシンプルでかわいいものを目指しました。セーラー服は袖にカフスがついていることが多いのですが、ここでは外して、Tシャツのようにさわやかな袖まわりになっています。

がまがま水族館のユニフォーム

――がまがま水族館のユニフォームは、何か参考にしたものはあったのでしょうか?
U35 とにかくいろいろな水族館の動画を見て、めちゃくちゃ悩みました。ユニフォームとして嘘があってはいけないし、かといって既存の水族館を想像させるものにしてもいけないので。とくにラフではいちばん右の、前かけと一体になったズボンがどういう構造をしているのかがわからなくて、動画をめいっぱいアップにして調べました。背中のバックルが三角の形状をしているのはほとんどの水族館ユニフォームで共通だったので、そのままデザインに取り入れています。

――実際にご自身が原案として描いたキャラクターがアニメで動いているのを見て、どう感じていますか?
U35 私が原案として渡したキャラクターは全員、髪にグラデーションが入っているのですが、大変な作業なのにアニメでもグラデーションを入れていただいて、再現してくださるのがとてもありがたいなと思っています。透明感を出すことにも力を入れてくださって、キャラクターデザインの秋山(有希)さんをはじめ、関わってくださっているみなさんに感謝しかないです。

――あれだけ丁寧に描かれていると、キャラクター原案冥利に尽きますよね。
U35 月並みですが、とにかくうれしくて幸せだなと思います。放送が終わっても繰り返し見ちゃうんです。見るたびに新たな発見があって、キャラクターの仕草や表情がとにかく細かくて丁寧なんです。ちょっとした目線の動きやセリフと表情など、見ればみるほどみんなのことがどんどん大好きになっていきます。目の輝きも、どうやって処理しているのかわからないくらいにキレイで丁寧ですよね。あと原案から起こしていただいたアニメのデザイン画がめちゃくちゃ好きなんです。設定画を見せていただくたびに「すごい!」と感動してしまいました。表情パターンを見て「わ、こんな顔するんだ!」とか。それも楽しみのひとつになっていました。変なことを言っているかもしれませんが「生きてる!」と思ったんです。endmark

U35
うみこ 島根県出身。イラストレーター、マンガ家。数多くの小説・ライトノベルの挿絵を担当する他、現在、マンガ『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝 アナザーストーリー』を連載中。キャラクターデザインとしての参加作品には『ラピスリライツ 〜この世界のアイドルは魔法が使える〜』などがある。
作品情報

『白い砂のアクアトープ』
好評放送・配信中

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