TOPICS 2023.07.25 │ 19:00

TVアニメ『BANANA FISH』放送5周年記念
監督・内海紘子×キャラクターデザイン・林明美 スペシャル対談①

吉田秋生の名作コミックをもとに、ニューヨークのストリート・ギャングを束ねる少年・アッシュと日本人の青年・奥村英二の絆を描いたTVアニメ『BANANA FISH』。その放送5周年を記念して、内海紘子監督とキャラクターデザイン・林明美の対談が実現! 制作当時を振り返りつつ、オススメのエピソードについて聞きました。

取材・文/宮 昌太朗

『BANANA FISH』のおかげで忍耐力がついた

――放送から5周年ということで、まずはあらためて今の率直な気持ちを聞かせてください。
内海 『BANANA FISH』以降もずっと作品を作ってきましたが、あそこまで制作的に大変だった作品はなかったように思います。連続2クールの作品を監督するのも初めてでしたし、ずっと荒波の中をもがいていました。それこそ最後は、浜に打ち上げられた魚みたいな状態で(笑)。しかもストーリーがすごく重厚じゃないですか。あそこまで人の生き死にを描いた作品、シリアスな作品に関わることは、もう二度とないかもなって。今、楽しい作品をやりたくて仕方ないのは、きっとその反動だと思います(笑)。

 人が死なない作品がやりたいって言っていましたしね(笑)。
内海 そうなんですよ。そういう意味では『BANANA FISH』のおかげで忍耐力がつきました。他の仕事をしていてしんどいことがあっても、『BANANA FISH』に比べれば全然ましだ、みたいな(笑)。
 私も、今はもう連続2クールの作品は体力的にできないと思ってます……。カットをチェックすると、つい修正を入れたくなってしまう性分なんですけど、TVシリーズを完全にコントロールするのは不可能なんです。だから、どうやって自分の納得のいくように作業配分をしていくか、ということになるんですが、この作品においてできることはやったかなと思います。内海さんの要求が高いので、大変は大変でしたけど。

――林さんはキャラクターデザインの他、「シーン作画監督」としてもクレジットされていますね。これはどういう作業だったのでしょうか?
 いわゆる総作画監督って、ひとつのエピソードに深く関わるのが、立場的に難しいんです。私としては毎エピソード、必ずどこかに入りたいと思っていたので、ちょっとずつでもいいので、どの話数にも必ず入れる方法を模索していたんです。

――具体的に言うと、ひとつながりのシーンをまるっとチェックするということですか?
 そうですね。まず、内海さんに「ここは林さんに修正を入れてほしい」というカットを選んでもらったうえで、そのカットを含む前後の流れをまとめて見るというかたちです。ひとつながりのシーンじゃないと、表情も描けないですし。毎回、50~60カットくらいだったと記憶しています。
内海 そうですね。
 最初の頃はそれくらい見ていましたが、後半に行けば行くほど、スケジュールが大変になってきて(笑)。なので、手を入れているカット数は話数によりますね。担当してくださる作画監督さんが信頼できる方であれば、おまかせしてカット数を絞って見るようにしていました。

「キャラクター押しがスゴい」内海監督の絵コンテ

――なるほど。今回、おふたりには事前に3本、印象に残っているエピソードを挙げてもらっています。まず林さんの1本目は第1話「バナナ・フィッシュにうってつけの日」です。
 第1話はやっぱり作品の「顔」なので。原作を知っている人が見て、アニメーション版がどういうふうに受け取られるのか、心配半分、期待半分みたいな感じでした。第1話の絵コンテは内海さんが担当されているんですけど、初めて読んだときの印象は「やっぱり、キャラクター押しがスゴい」。
内海 顔のアップが多いですよね(笑)。
 そうそう。興味があるところとないところの差が、わりとはっきりしているというか(笑)。「この表情を見せたいんだな」というのが、すごくわかりやすいんです。なので「この顔が見たいんでしょ!!」と思いながら描いていました。第1話でいうと、路地裏にいるアッシュが初めて顔を見せるところとか。このカットはPVにも使っていましたよね。
内海 もちろんです。大事なシーンなので、原画を山田(歩)さんにやっていただきましたね。

――お気に入りのシーンは?
 加々美(高浩)さんが担当してくださった、地下のバーでのアクションシーンのあたりですかね。動きがすごくいいんです。カウンター下に隠れた英二がスキップとやり取りしているところが、ちょっとコミカルで、そこがまたいいんですよね。
内海 ちょっとアメリカンな感じの芝居づけが入っていたり(笑)。
 そうそう。めちゃくちゃ大変な原画だったと思うんですが、動きもすばらしいし、シリアスになっちゃいそうな場面でも、こういうコミカルな芝居を挟むと見やすくなりますしね。

英二のことを初めてちゃんと見るアッシュの瞳

――次の第2話「異国にて」は、内海監督が選んでいますね。
内海 第1話は、絶対に林さんが選んでくださると思っていたので……。
 読まれてた(笑)。
内海 でも、ふたりとも選んでいなかったらどうしようと思っていました(笑)。じつは第3話も、無理をしてでもコンテをやったくらい好きなので悩んだのですが、やっぱり第2話は外せないなと。とくに英二が棒高跳びをするシーン。原作にもある場面ですが、アニメーションでしかできない方法で高い壁を飛び越える躍動感を表現できたかな、と。このシーンでなにより大切だったのは、アッシュが初めて英二のことをちゃんと見るところだったので、よりアッシュの感情も伝わるものにできたのかなと思います。

――空を跳んでいる英二を見る、アッシュの瞳のアップがありますね。
内海 この出来事がきっかけとなって、それまではとくに興味もなかった英二に対して、アッシュの対応が変わっていくんですよね。ふたりの関係が本当に始まるシーンだと思っているので、特別な思い入れがあります。その流れから、後半の病室のシーンで、初めてアッシュの本音が垣間見える。あの病室のカットはレイアウトを含めてすごくこだわりました。何回、リテイクを出したんだっていうくらい。

――ふたりが真正面から会話するのは、この病室のシーンが初めてですね。
 窓に鉄格子がはまっていて。
内海 囚われのアッシュ、っていう演出ですね。鳥の位置に何回もリテイクを出していました(笑)。
 スライドスピードが間違っていて、最初は鳥が全然進んでいなかったりしました(笑)。
内海 そうかと思えば、今度は鳥の動きが速すぎてすぐフレームアウトしちゃったり(笑)。自分の演出担当ではない回だったんですけど、このカットにアッシュのすべてが詰まっているように感じていたので、納得いくまでリテイクを重ねましたね。endmark

内海紘子
うつみひろこ アニメーター、演出家として『けいおん!!』『日常』などに参加したあと、TVアニメ『Free!』で初監督。吉田秋生原作の監督2作目『BANANA FISH』に続いて、初のオリジナル作品『SK∞ エスケーエイト』を発表。こちらも大きな反響を呼んだ。
林明美
はやしあけみ 愛知県出身。アニメーター、演出家。『少女革命ウテナ』『フルーツバスケット』『BANANA FISH』など、数多くの人気作にアニメーター、演出家として参加。ガイナックス、カラーに所属したあと、現在はフリーで活動中。
作品概要

『BANANAFISH』
好評配信中

  • © 吉田秋生・小学館/Project BANANA FISH