TOPICS 2023.07.26 │ 19:00

TVアニメ『BANANA FISH』放送5周年記念
監督・内海紘子×キャラクターデザイン・林明美 スペシャル対談②

TVアニメ『BANANA FISH』の放送5周年を記念して、監督・内海紘子監督とキャラクターデザイン・林明美の対談をお送りするスペシャル企画。後編では、シリーズ後半からふたりがとくに印象に残ったエピソードをセレクト。当時の思い出を振り返りつつ、解説してもらいました。この機会にもう一度アニメを見直そうと思っている方、初めて見る方も必読です!

取材・文/宮 昌太朗

アッシュが17歳らしくいられるのは英二の前だけ

――内海さんが選んだ2本目のエピソードは、第18話「海流のなかの島々」です。
内海 この話数を作るのをずっと楽しみにしていたほど、いちばん好きな話数です。最初のアッシュと英二の朝食場面なんかもそのひとつで。ふたりの楽しい生活が見られるのは、これがもう最後なんですよ……。だらしないアッシュの様子とか、英二のお母さんみたいな立ち居振る舞いとか(笑)。ただ、尺が足りずに泣く泣くカットしているところもあるんですけど……。

 映像をあらためて見てみると、ふたりが着ているTシャツの柄が気になる(笑)。
内海 このあとはひたすら苦しい展開がずっと続くので、このシーンは本当に楽しみにしていました。それこそ「Tシャツは何を着せよう」みたいな(笑)。たぶん、アッシュは英二が買ってきたのを着ているよね、とか。
 ヘタしたら、背中の柄に気づかずに着ている可能性もあるな、と(笑)。
内海 そうそう、置いてあったら勝手に着るだろうから、英二がわざと置いて着せているんだ、とか(笑)。家でしかこういうアッシュを出せないので、ここぞとばかりにやりましたね。

――アッシュがこれだけ笑顔なのも、なかなか珍しいですよね。
内海 そうですね。本人はいろいろ抱えているのに、英二の前では出さないのが辛いんですけど……。英二に対して、ちょっとからかったりするのもいいですよね。アッシュが17歳らしい、少年の姿でいられるのも英二の前だけなんだな、と感じられて。
 そう、まだ17歳なんですよね……。
内海 あと、夜、アッシュと英二がふたりで寝室にいるシーンも好きなんです。演出さんが作ってくれたロングの構図が、すごく効いていて。このときの会話の内容がまたすごく切なくて。

 見ている人もみんな「このまま日本に行ってくれ!」と思ったんじゃないですか?(笑)
内海 私もそのひとりです! しかもアッシュが珍しく、話に乗ってくるんですよね。いつもだったら「そんなの無理だ」ってバッサリいくと思うんですけど、そうじゃない。このアッシュの「いいな、行ってみたいな」というカットは、林さんに「絶対に修正を入れてください」ってお願いしたカットです。
 指示が入った、ものすごく厚いカットが回ってきました(笑)。
内海 憧れているんだけど、自分には行けないのがわかっている。林さんの描くアッシュ――ただ純粋に、楽しみっていうだけじゃない、とても繊細で切ないアッシュの表情が素晴らしいんです。

息をするように描かれたブランカの色気

――次の第19話「氷の宮殿」は、おふたりともから挙がったエピソードです。
 まさかこの話数がかぶるとは(笑)。
内海 私もそう思いました。監督という立場を離れて選ぶとしたら、この第19話かなって。というのも、追い詰められたアッシュが言う「これがアメリカンドリームってヤツ?」がめちゃくちゃ好きなんですよ。このシーンの原画の滝山(真哲)さんの動きもすごくよくて。林さんはどこがよかったですか?
 同じです(笑)。
内海 あはは! あと月龍(ユエルン)のところもすごくよくないですか? ブランカがお風呂に入ってくるところに月龍が乱入してくるシーン。
 いいですよね。(月龍とブランカの対話シーンを見ながら)ここはふたりの顔が西澤(千恵)さんっぽいね。
内海 西澤さんの原画に、岸(友洋)さんが総作画監督ですね。
 ブランカがひざまずいて、月龍の手にキスをするところはアニメオリジナルなんですけど……。

内海 あのカットの岸さんの修正を見て、みんなで「うわーっ!」って(笑)。あれを男性が描いているっていうのが、衝撃だったんですよね。しかも、岸さんってそんなに深く考えるタイプじゃないじゃないですか。
 そうですよね。たぶん、本人は息をするように描いている(笑)。
内海 それで、あの色気が出せるのはやばい!

刺されたときの瞳のハイライトは内海監督のこだわり

――最後は林さんが選んだ最終話「ライ麦畑でつかまえて」です。
 前半の見どころは、やっぱりアクションシーンです。久木(晃嗣)さんが担当してくださったコンテの上がりがすごくよくて。凸凹コンビ(シンとブランカ)のあたりはアニメオリジナルだったんですが、やりたがるアニメーターさんがめちゃくちゃ多かったんですよ(笑)。
――ブランカのアゴを持って引っ張り出そうとするあたりとか。
 そこはもう他のスタッフにまかせて、私は最後のパートに集中しました。

――ホワイトハウスの記者会見の場面からですね。ここからは内海さんがコンテ、林さんが作画監督として入っています。
 ここまで一緒に頑張ってきてくれたアニメーターさんばかりだったので、レイアウトから上がりがすごくよかったんです。時間がないなかで、皆さん心のこもったカットを上げてくださいました。

――林さんにとって、とくに力が入ったシーンはどこですか?
 いちばんしんどかったのは、アッシュが刺される一連のシーンですかね。ああいう場面を描くときは、描く側も気が引き締まります。横顔の瞳のハイライトがキュルルンと回るところは、内海さんのこだわりです。

内海 そうですね、普通の光り方じゃないだろうと。その後のアッシュが刺される数カットだけは、無理を言って平松(禎史)さんにやっていただきました。豪華すぎますよね。

――監督は最後のパートのコンテを担当していますが、大変だったところというと?
内海 とくに悩んだのは、手紙のシーンですね。映像でカラーになるときに印象が変わってしまうので、どうしようかとすごく悩んで。背景を白くすれば、手紙の感じがうまく出せるし、バックに英二の手紙の文字を流せるな、と。原作の印象的なシーンを、アニメでどう表現するかは非常に悩んだところです。

原作とアニメ、ふたつの『BANANA FISH』を楽しんでほしい

――では最後に、あらためて振り返って、おふたりにとって『BANANA FISH』はどんな作品になりましたか?
 ありがたいことに、今でも「見てました」「大好きです」と言われることが多い作品で。『BANANA FISH』が好きだったからMAPPAさんを希望した、という話もけっこう聞くんです。内容も濃いし、決してハッピーエンドではない作品なので「見返してください」とはなかなか言いづらいんですけど(笑)、放送から5年経った今でも、こうしていろいろな展開があるのはすごくうれしいです。

内海 見ているといろいろな意味でつらくなる作品ではあるんですけど(笑)、でも大変だった分「好きです」と言ってもらえると、作ってよかったなと思います。原作から舞台をあえて変えて、現代に移しましたが、最初はやっぱり不安がすごくあったんです。私の判断が正しいのか間違っているのか。それは作品が出来ないとわからなかった。でも、こうやって今、受け入れてもらえているのを聞くと、やっぱりうれしいですね。原作は原作でひとつの完成した作品として楽しんでいただいて、その一方でアニメもある。ふたつの『BANANA FISH』を楽しんでもらえるとうれしく思います。endmark

内海紘子
うつみひろこ アニメーター、演出家として『けいおん!!』『日常』などに参加したあと、TVアニメ『Free!』で初監督。吉田秋生原作の監督2作目『BANANA FISH』に続いて、初のオリジナル作品『SK∞ エスケーエイト』を発表。こちらも大きな反響を呼んだ。
林明美
はやしあけみ 愛知県出身。アニメーター、演出家。『少女革命ウテナ』『フルーツバスケット』『BANANA FISH』など、数多くの人気作にアニメーター、演出家として参加。ガイナックス、カラーに所属したあと、現在はフリーで活動中。
作品概要

『BANANAFISH』
好評配信中

  • © 吉田秋生・小学館/Project BANANA FISH