TOPICS 2022.12.09 │ 19:00

アニメ『万聖街』スタッフが語り尽くす 魅力的なキャラクターたち①

心優しい悪魔、オタクな吸血鬼、堅物な天使……etc。人ならざる者たちが同居する1031号室の日常を描いたシェアハウスコメディ『万聖街』。中国での再生数が2億回超えという大ヒットアニメが、日本語吹替版となっていよいよ日本上陸。シリーズ構成・脚本を務める徐碧君(FENZスタジオ)、監督の呆尾(HMCHスタジオ)、小榕(HMCHスタジオ)の3人に、作品とキャラクターの魅力について全3回のインタビューを通して思う存分に語ってもらった。

取材・文/岡本大介

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

相容れない存在が同居することで起こる化学反応が面白い

――『万聖街』は2016年から連載中のWebマンガ『1031万圣街」をアニメ化したものですが、皆さんはどんなところが本作の魅力だと感じていますか?
呆尾 登場するキャラクターのほとんどは中国ではなく西洋出身で、そんな彼らが中国で共同生活を送っているという設定がまず面白いなと感じます。それぞれが異なる考え方や文化を持ちつつ、それが交わることで心温まるストーリーや独特なコメディが生まれていくんですよね。
小榕 しかも、彼らはそもそも種族がバラバラなんです。天使と悪魔、吸血鬼と狼人間など、本来であれば相容れない存在が同じ部屋に集まって仲良く生活していて、そこで起こる化学反応が魅力だと思います。さらにいえば、人間ではない彼らが普通の人間社会に溶け込んで生活しているという構造も面白いなと感じます。
徐碧君 キャラクターがみんなユニークで面白いんです。彼らはそれぞれの種族のコミュニティではうまくやっていけない人ばかりで、いわゆるはぐれものの集まりなのですが、この1031号室では楽しく暮らすことができている。そんなほのぼのした雰囲気も魅力的だと思います。

――ちなみに中国では1031号室のようなシェアハウスというのは一般的な存在ですか?
小榕 無きにしもあらず、という感じでしょうか。私自身は、大学を卒業したばかりの頃、友人たちと離れるのが寂しくて10人くらいでいっしょに住んでいた時期があるんですけど、ほとんどのシェアハウスは4~5人規模だと思います。

――マンガをアニメにするにあたってとくに気を配ったことはありますか?
徐碧君 原作からあまり逸脱しないようにということは意識しつつ、それでもアニメならではの表現やストーリー性を持たせたかったので、アニメで追加したオリジナル要素もいくつかあります。たとえば、ニールの中に魔王の力が眠っているという設定はアニメオリジナルのものですね。
呆尾 映像面でいえば、カメラワークやカットのリズム、セリフのテンポなど、アニメーションならではの表現を意識しました。
小榕 原作はいわゆる4コママンガなのですが、コマをそのまま順番に映像化していくわけではなくて、コマとコマのあいだを付け加えたり、あるいは違うコマ同士をくっつけたりなど、絵コンテの段階でいろいろな工夫をしています。アニメで見たときに気持ちのいい表現にすることを意識しました。

強い信頼関係で結ばれた2社だからこそスムーズだった制作

――本作は寒木春華スタジオ(HMCHスタジオ)と非人哉工作室(FENZスタジオ)というふたつのスタジオがタッグを組んで制作しています。こうした手法は珍しいですよね?
徐碧君 少なくとも中国においては非常に珍しいです。そもそも同じ会社であっても、部署が違えばうまく協力できないことも多いですから(笑)。今回、こういった形でお互いに良い信頼関係を築けて協力できたことは素晴らしい体験でした。
小榕 お互いへの信頼関係があったので、制作はとてもスムーズに進みました。結果として、とてもいい作品になったと思います。
呆尾 それぞれのスタジオのいい部分を、作品内にうまく組み込めたんじゃないかなと思っています。

――寒木春華(HMCH)スタジオが手がけた映画『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)』もそうですが、近年の中国アニメーションは日本でも話題に上がっています。海外での反応についてはどう受け止めていますか?
徐碧君 海外の方から寄せられるコメントや反応も見させていただいていますが、『万聖街』をきっかけに中国語の勉強を始めたという声もあって、とてもうれしいです。
小榕 まさか海外の皆さんに見てもらえるなんて、制作当初は考えてもいませんでした。『万聖街』が日本語吹替版になってテレビ放送されたり、こうして日本のメディアからインタビューを受けることも予想外で、日本で宣伝してくださっている方々にはすごく感謝しています。
呆尾 日本のような、アニメ文化がとても発達している国で自分たちの作品が受け入れられるというのはとてもうれしいです。これに満足することなく、皆さんからのご意見をしっかりと受け止めて、足りないところは改善していきながら、これからもより良い作品を作っていきたいなと思っています。

――それではここからは各キャラクターについて伺っていきます。皆さんが思うキャラクターの魅力について聞かせてください。

●ニール

徐碧君 悪魔なのにふわふわした感じで、どちらかと言えば天使みたいですよね。どのキャラクターにもギャップがありますが、ニールもそうしたギャップが最大の魅力かなと思います。

――ニールの中に魔王の力が眠っているというのはアニメで追加した設定とのことですが、この狙いについて教えてください。
徐碧君 原作は日常系マンガなので、とくに大きな事件というものが起こらないんです。でも、アニメにするからにはやっぱりアクションやバトルシーンも作りたい、ミステリアスさもほしいよねということで加えました。

小榕 ストーリー後半でニールに宿った魔王が出てくるシーンがあるんですけど、もともととっても可愛らしいニールだけに、魔王になった姿はめっちゃカッコよくて、ギャップがすごいんです。あのシーンはお気に入りですね。あとニールがリリィの大学のバレエに出演するエピソードは私が担当しているのですが、ここはニールのリリィへの想いだったり内面的な優しさ、努力する姿など、ニールのいろいろな面を表現することができて、個人的にとても思い出深いです。
呆尾 ニールはとても善良で素直な子だと思います。女の子と仲良くなるための秘訣をアイラに尋ねた際、リリィのことが好きだと見抜かれたときの恥ずかしそうな表情は、ニールらしくて好きです。それでいて、リリィとの約束よりも友達のピンチに駆けつけることを優先するシーンもあったりして「とにかくいい子だな」って。

――たしかにニールは表情やリアクションがとても可愛らしいキャラクターです。可愛く描くコツはあるのでしょうか?
小榕 絵コンテの時点でかなり可愛いのですが、アニメーターさんたちがそれをさらに最大限にまで引き上げてくださっていますね。
呆尾 動きとしては、カートゥーンっぽさを意識して芝居をつけているのが特徴じゃないかなと思います。

●アイラ

徐碧君 吸血鬼といえば高貴なイメージがありますが、彼はそれとは真逆の俗っぽいキャラクターです。オタクでイタズラ好きで、作中のトラブルメーカーという位置付けです。ダーマオをよくからかっていて、とくに髪の毛のエピソードが大好きです。
小榕 彼は吸血鬼の家を継ぐ必要がなく、それに幸せを感じているんです。Tシャツとカップ麺だけで生きていけることがどれだけ幸せかを語るシーンがあるんですけど、そういった自由を謳歌する気持ちというのは作品全体でも意識したところですし、アイラの魅力だと思います。

呆尾 彼はゲーム実況者で、昼は寝ていて夜に配信しているんですよ。そこは吸血鬼という種族の特徴とすごく合っていて面白いですよね。イタズラ好きではありながらも、同時にとても友達想いなところも好きです。
小榕 あとアイラは吸血鬼でありながらオタクなので、彼の自室の装飾にはとてもこだわっているんです。フィギュアなどが並びつつロウソクもあったりなど、アートワークにも注目していただけるとうれしいです。

――アイラの着ているTシャツも面白いものばかりですよね。
小榕 そうですね。アイラのTシャツは全部で約10種類のデザインを作っていて、シーンや彼のテンションに合わせて着せています。アイラはオタクで映画好きでもあるので、わりと映画ネタが多いですね。endmark

徐碧君
XuBijun 中国芸術研究院卒。「非人哉」、「万圣街」漫画版編集。アニメ映画「私たちの冬季オリンピック(我们的冬奥)」一部シナリオ担当。
呆尾
DaiWei 1993年中国福建省漳州市生まれ、四川美術学院映像アニメーション芸術科卒業。寒木春華スタジオに就職。主な代表作品は『羅小黒戦記』『万聖街』シリーズ。主に演出、原画を担当。
小榕
XiaoRong 1994年中国の北京で生まれ。中国伝媒大学アニメーション学科卒業後、アニメーターとして寒木春華スタジオに就職。主な作品は大学卒業作品『老歌』、『羅小黒戦記』、『万聖街』シリーズ。
作品情報

日本語吹き替え版『万聖街』
好評放送・配信中

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