最後の最後まで難航したライオス役のキャスティング
――声優陣のキャスティングに対するこだわりも聞かせてください。
宮島 原作を読んでいたときに僕の中にあった「このキャラクターはこんな声だろう」というイメージに近いものを、ひたすら探し続けていく仕事でした。ライオス、マルシル、チルチャック、センシに関してはそれぞれ100人以上の声優さんにオーディションに参加していただいたのですが、そのおかげもあって、ピタリとキャラクターに当てはまるキャストの皆さんに出会うことができました。
――オーディションで印象に残っている出来事はありますか?
宮島 ライオスに関してはかなり難航しました。ちょっと異様なくらい魔物への関心があるだけでなく、パーティを率いる頼もしいリーダーでもあり、さらに妹思いの兄という3つの要素を自然に溶け込ませるとなると相当難しい。さらに付け加えると、ライオスの異様な部分は天然由来なので、演技100%で表現すると原作のイメージから離れてしまうんですね。ライオスの「変なところ」を天然気味に演じられる方が必要だったんです。
――最終的に熊谷健太郎さんが選ばれるまでには、どのような経緯があったのでしょうか?
宮島 ライオス役で最終オーディションまで残った方たちをひとりずつ呼んで、すでに決まっていた3人のキャストとかけ合いをしていただきました。納得いくまで、ギリギリまで時間をかけて選び抜こうという思いでした。そのオーディションの中で熊谷さんだけ空気感がちょっと違ったんです。他のキャスト陣とは見知った間柄にもかかわらず、一定の距離を置いて接している。その距離感に「ライオスらしさ」を感じたのが決め手になりました。『ダンジョン飯』は仲のいい4人が冒険をする話ではなく、ちょっとずつお互いのことを知ってチームワークが出てくる話なので、キャスト陣もそのくらいの距離感からスタートしたほうが自然な演技になるだろうという期待がありました。
じつはすごく贅沢な作りになっている劇場上映版
――実際のアフレコでは、どのようなディレクションをしたのでしょうか?
宮島 キャラクター同士の距離感が少しずつ近くなるようにしてください、ということと、ギャグパートでは芝居感を出しすぎないようにとお願いしました。個性がバラバラな4人がダンジョンで魔物を食べるという、そのシチュエーションがすでに面白い作品だから、キャラクターにとって自然な演技をするだけで笑いを誘うことができるんです。だからギャグシーンだからといって「よし、やるぞ!」と気合を入れるのではなく、自然体で演じていただければそれでOKです、と伝えました。
――アフレコで印象に残っている出来事はありますか?
宮島 チルチャックは見た目が幼いので子供扱いされていますが、じつは立派な大人という少し難しい役回りなんです。そんなチルチャックを泊明日菜(とまりあすな)さんが毎回パーフェクトに演じてくださっています。もちろん、他の皆さんもすごくうまいので、アフレコは毎回納得のいく仕上がりです。原作を知っている方もすんなりと受け入れてくださるのではないでしょうか。
――1月からの放送に先駆けて、12月8日から劇場上映がスタートしています。
宮島 劇場ではTVアニメの第1話から第3話にあたる部分を見られるのですが、この劇場上映版、じつはすごく贅沢な作り方をしているんです。第3話までを完成させたあとに再ダビングして、あらゆる面で劇場にあわせた細かな音響調整を入れているので、TV放送用のものとは全然音が違います。BUMP OF CHICKENさんのOP主題歌「Sleep Walking Orchestra」も劇場用のミックスになっているので、アーティストのファンという方にもぜひ足を運んでいただきたいです。BUMP OF CHICKENさんの曲を劇場用の5.1chで聞くことができる機会ってなかなかないと思いますから。ただ、OPとEDの映像は劇場上映版には入っていないので、そこはTVアニメの放送を楽しみにしていただきたいです。
『ダンジョン飯』の入り口として最高のものを届けられる
――放送開始まで残りわずかというタイミングですが、あらためて現在の心境を教えてください。
宮島 自分の大好きな作品がTVシリーズ監督デビュー作になる。これはものすごく幸せなことです。原作の大ファンだからこそ緊張しながら制作に臨んでいますし、TRIGGERで作ることができるのもすごくうれしいです。僕はTRIGGERの黎明期から所属して経験を積んできたので、長く一緒に制作してきた彼らとともに作品に取り組めるという点で充実した気持ちでいっぱいです。
――まさに最高の環境で作られたアニメということですね。
宮島 作業するうえでのやり取りがスムーズに進むというのがとくに大きいです。制作面で苦労を感じたことはまったくないです。TRIGGERも立ち上げから12年を経て、環境的にもスタッフ的にもいちばんいい状態で制作したアニメ本編をぜひ見てもらいたいです。
――最後に原作ファンの方と、アニメから新たに『ダンジョン飯』に触れる方へのメッセージをお願いします。
宮島 原作を読んだことがある方は、アニメになったことでキャラクターたちがどのように動くのかを楽しみにしていただきたいです。また、僕が心がけていることのひとつに「マンガを初めて読んだときの驚きや感動と同じものを、アニメを見た方にも届けたい」というものがあります。ですから、原作を読んだことがない方にもぜひアニメを見ていただきたいです。『ダンジョン飯』の入り口として最高のものになっているので、楽しんでください。
- 宮島善博
- みやじまよしひろ アニメ制作会社・TRIGGER所属の監督、演出家。2014年にTVアニメ『異能バトルは日常系のなかで』で演出家としてデビュー。2021年にTVアニメ『SSSS.DYNAZENON』で助監督、2023年の『劇場総集編 SSSS.DYNAZENON』で監督を務める。2024年放送スタートの『ダンジョン飯』が初のTVシリーズ監督作となる。