3Dの強みが逆にいちばんネックになることも
――「3Dでドラマができるのか」という点についてもう少し聞かせてください。2Dの手描きアニメと比べて、3DCGでドラマを描くときには、どのような点が壁になるのでしょう?
酒井 3Dでやるにあたってのいちばんの懸念材料というか、僕の中で消化しきれていなかった部分は「動き」です。『ガルクラ』では画はフル3D、「動き」はフルアニメーション(フルコマ)という形式に挑んだわけですが、これはそれまでいろいろなフル3Dのアニメーション作品を見てきて、僕の中で作品のジャンルや物語の内容とは関係なく「見られる作品」と「見ていられない作品」の差は何なのかを考え抜いた結果なんです。
――気になります。
酒井 僕の中でフル3Dの作品は、長時間、見続けても平気な作品と10分も耐えられない作品とに分かれるんですけど、最初のうちはその違いがわからなくて。たとえば、『スパイダーマン:スパイダーバース』や『モンスターズ・インク』は、途中で画面から興味を失うことなく、最後までちゃんと見られる。そうでない作品との差は何だろう?と。
――『ガルクラ』でも作画パートに参加していますが、酒井さん自身、そもそもセル(手描き)アニメーターとしてキャリアを積んできたわけですから「動き」の感覚には鋭敏ですよね。どのように違いを分析したのですか?
酒井 語弊があるかもしれませんが、「見ていられない作品」は、少し不気味だったり、生っぽすぎるような気がしました。それを『ガルクラ』ではどう解決するのか。そこまで気づいても、解決策はわからなかったです。作り終えた今でも、何がその差を生むのか謎な部分はいっぱいありますけど、いちばん大きかったのはやはり「動き」。それから「質感」ですね。どちらもある意味では、フル3Dがもっとも得意としているところなんです。それが手描きアニメでやってきたようなドラマを描いて、自然にお客さんに見てもらう上では、かえって足枷になることがある、ということですね。質感がよかったり、動きが滑らかすぎることが、逆にストーリーに入り込む邪魔をするんじゃないか。いちばんのストロングポイントが、いちばんネックになるかもしれない……となると、もう「どうすればいいんだ!?」という気持ちでした(笑)。結局のところは、とにかくまずは作ってみるしかなかったですね。
――最初に作ったのは、どういうものだったのでしょうか?
酒井 実験的にひとつ作ってみよう、という話になって制作したのが「名もなき何もかも」のMVでした。まず、このMVではフルでブロッキング(キャラクターモデルを使って、キーポジションの動きを作ること)を作って、そこから動きの間をちゃんとレンダリングする、従来通りのフル3D制作の流れで一度、映像を作ってみようか、と。そして、完全に同時進行ではないんですけど、もう一本、涌元トモタカさんにディレクターに立っていただいて、別のアプローチでの映像も作っておいて、この2ラインでまずお客さんに問うてみよう、と。2本の違うアプローチの作品を見ていただいて、その中で好評だった部分と、少し嫌悪感があるところを探ろうとしたんです。だから、何かものすごく新しい、エポックメイキングな映像を最初から作ろうとしたというよりは、今、世間で普通に作られている3DCG作品の「動き」の中で、何が広くお客さんたちに受け入れられて、何が嫌われるのかを検証していたようなかたちになりますね。
――MVを一種のパイロットフィルム的なものにしていた?
酒井 ああ、そうです。それに近い発想です。
3Dスタッフには「とにかくかわいくして」と要望した
――3DCGへの懸念以外に、本編の実作業に入っていく段階で現場に出した要望はあったのでしょうか?
酒井 とにかく3D現場の人には「かわいくして」と。「かわいくないと見てもらえないんだ」ということを繰り返し伝えましたね。その点だと、アニメーションスーパーバイザーの関祖輝さん、中村有希恵さん、竹中佑城さんやCGディレクターの鄭載薫さん、大曽根悠介さんを筆頭に、皆さん、とくにフェイス(表情)のCGを各3Dアニメーターの皆さんとの間で揉んでくださったと思います。そこがいちばん大事でしたから。自分の絵コンテが結構、表情がコロコロ変わるので、それに一生懸命対応してくださった。「かわいい」だけじゃなくて、「表情が動く」というのも自分が作るアニメの特徴なので、そのあたりを3Dでしっかり再現していただけたのも大きかったです。これは要望を出したというよりは、絵コンテに描いてあったものを忠実に汲んでいただいた結果、そうなった感じですね。
――表情は大量のアセット(テンプレート)を作ったのではないか、という説が出ていましたけど、そうではない?
酒井 違うんです。原型のモデルをみんなで力技で変形させて、カット単位でそれっきりのモデルを大量に作っていました。第1話の目が点になる表情も、あれっきりなんです。絵コンテに描いておいたら、あのシーンを担当していたCGアニメーターの山口洋平さんが「酒井さん、作りました!」と見せてくれて。そういう感じで、どの表現にもほぼ再現性がありません。各話数それぞれの3Dアニメーターさんたちによる一点ものだと聞いております(笑)。表情に関しては、声の芝居が入ってからそれにあわせて直したものもあります。
――『ラブライブ!サンシャイン‼』でもやっていた手法ですか?
酒井 ですね。手描きならなんとか対応できるんですけれども、本来、3Dでそんなことをやっていたらダメなんですけどね……(笑)。
――酒井さんのように3DCGに慣れている演出の人だと、絵コンテを描く際に「こういう表現は3DCGは苦手だから避けておこう」と判断することも多いと聞きますが、今回、そこは意識せずに作業したということでしょうか?
酒井 基本的にはそうですね。そこにプラスして、現場の3Dのプロデューサーと「こういうことはできるのか?」とディスカッションをしながら絵コンテを作っていきました。もちろん、話し合いの結果、技術的な判断で落としていったカットもあるんですが、逆に3Dなら手描きよりやりやすいという理由で膨らんだカットもあります。通常の作画でやるアニメでもそういう判断はするので、少なくとも僕の意識としては、仕事のやり方は変わらないですね。ただ、3Dだと思ってちょっと調子に乗っていろいろ作った部分もありますが……第1話の冒頭の新幹線のところとか。あれはCGとはいえ、大変だったと思います。
――グーッとカメラが新幹線の車内を動いて、仁菜に寄っていくところですね。作画でやろうと思うととんでもない労力のカットですが、CGでも重いカットでしたか。
酒井 あとは、第2話の冒頭(仁菜の完全主観のショット)とか。あれは本当に3Dらしい表現だと思います。作画でもやろうと思えばできますが、大変だし、印象がだいぶ違うと思うんですよ。そういうカットをもっといっぱい作れるかなと思っていましたが、さすがにあのくらいの分量になりました(笑)。でも、少ない箇所であっても、ああいうカットが見せられたのは、今回、フル3D作品を初めてやった上での収穫だと感じています。
――ちなみに東映アニメーションの3DCGチームは『プリキュア』シリーズに主に携わってきたスタッフや『THE FIRST SLAM DUNK』に長く関わってきたスタッフ……といった参加作品の流れがあるのではないかと思うのですが、今作はどういった方々が集まったのでしょうか?
平山 これは僕のほうからお話ししましょうか。もしかすると現場の認識とは差があるかもしれませんが、僕はこの作品には、東映アニメーションに在籍するCGアニメーターのほとんど全員に入っていただいたと認識しています。おっしゃるとおり、東映アニメーションにはいろいろなCG作品がありましたが、そのすべての制作ラインから集まっていただいた、総力戦的なメンバーですね。
酒井 打ち合わせをしている際も「『THE FIRST SLAM DUNK』のときは……」とか「『プリキュア』のときはこうしました」といった話がちょくちょく出ましたね。他作品でのお話を聞きながら、その結果を踏まえてトライアンドエラーをしたところもあって、他作品での経験値を活かしていただいたところも当然あります。
- 酒井和男
- さかいかずお 1972年生まれ。熊本県出身。アニメーターを経て演出家となり、2007年に『ムシウタ』で初監督を務める。主な参加作品に『ラブライブ!サンシャイン!!』(監督)、『機動戦士ガンダムAGE』(助監督)、『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』(絵コンテ)など。
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