TOPICS 2026.03.06 │ 12:00

『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』特集③ 劇場版としての説得力を求めて
監督・村瀬修功インタビュー(前編)

『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』特集の第3弾は、監督・村瀬修功への全3回にわたるロングインタビューをお送りする。前編では、3Dレイアウトの導入と「引き」の画の魅力、さらに本作で描かれる「ν(ニュー)ガンダム」に求めたものについて聞いた。

取材・文/森 樹

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

『キルケーの魔女』では、客観的なカメラを意識した

――第1章の制作や評価を経て、第2章となる『キルケーの魔女』ではどのようなコンセプトを立てたのでしょうか?
村瀬 第1章は『機動戦士ガンダムUC』など、それまでのサンライズ第1スタジオのガンダムシリーズの制作スタイル――とくに3Dの使い方を大きく変えました。『ガンダムUC』の頃は2D(手描き)でレイアウトを取ったものに当てはめるかたちで3Dのモビルスーツを動かしていたのですが、『閃光のハサウェイ』では第1章から(複雑な地形が多い)地上戦が多かったこともあり、レイアウトの段階で3Dを使う方法にシフトしました。僕が監督を務めた他の作品ではすでにそういうことをやっていたので、自然な流れと言えるかもしれません。

――ガンダムシリーズの映像制作に、村瀬監督が培ってきた手法を取り入れたと。
村瀬 そういう枠組みの転換を、第1章では制作をしながら進めていくことになったのですが、第2章は最初から取り入れています。現在では3Dでレイアウトを起こす作品も増えてきており、それがアニメ制作での標準になりつつあります。なので、できる限り3Dでガイドを出せる体制でスタートした、というのが、第2章の制作では大きな部分ですね。

――モビルスーツにせよキャラクターにせよ、そちらのほうが村瀬監督の理想に近づく、という面もありますか?
村瀬 それもありますし、今回のモビルスーツのデザインは手で描くようには作られていません。10年前だったら「ふざけるな」と言われかねない(笑)。なんとか作画ができたとしても、動画・仕上げが難しいでしょうね。第1章で見通しが立ったおかげもあり、今回のアリュゼウスのような、隙間のある複雑な面構成のモビルスーツも表現することができました。

――なるほど。先ほどのレイアウトの話にもつながりますが、監督は「今回は『引き』の画を増やした」と公開記念舞台挨拶でも話していました。これは映画館という大スクリーン、かつIMAXⓇなどのラージフォーマットを前提にした考えだったのでしょうか?
村瀬 そうですね。3Dでレイアウトを取るときに、モデリングだけでなく質感もある程度加えたライティングを試しています。そうすると、その段階で最終的な画も見えてくる。しっかりと意図を持って画面の切り取りができれば、引いたほうがレイアウトとしても引き締まる。これが手描きだと、見せたいところから描いていくので、自然とカメラが寄ってしまう。第2章では客観的なカメラを意識しているので、少し引いた絵が多くなりました。

―― 一方で第2章はハサウェイ・ノアやギギ・アンダルシアの心情を目線や表情、振る舞いで表現するところもあったと思うのですが、引きで全体を見せるところと、キャラクターにフォーカスしたところのメリハリは意識したのでしょうか?
村瀬 もちろん、引きの画だけでずっとやっていると表情が見えず、すべてが客観的になってしまいます。だからキャラクターの心情を描く際は、内面を映すようにカメラが寄っていく。ただ、そのあたりもレイアウトを決める段階、もっといえば絵コンテを切る段階から3Dで作っていました。3Dのデータを見ながら試行錯誤してカット割を決めるやり方でしたね。

ハサウェイの「秘密」を引き出すトリガーとしてのνガンダム

――第2章では、本作が小説『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア ベルトーチカ・チルドレン』の続き(※)ではなく、映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア(以下、逆襲のシャア)』に続く物語として描かれていることが明らかになりました。これは早い段階で決まっていたのでしょうか?
村瀬 じつは第1章を制作するときから、あくまで『逆襲のシャア』の続編として進めることを決めていました。ただ、第1章の段階では大筋が変わることがなかったので、あえて言及はしませんでした。

※『閃光のハサウェイ』の小説は映画『逆襲のシャア』ではなく、その小説版である『ベルトーチカ・チルドレン』の続編として描かれており、ふたつの前日譚でハサウェイの行動に違いがある

――第2章でそれを明らかにすることになったと。
村瀬 全3章分の構成を作った時点で「チェーン・アギとのやりとりが登場する第2章の終盤で『逆襲のシャア』の続きであることをはっきり示そう」と決めていました。ハサウェイの過去の行動に違いがあるとはいえ、それは彼の内面の問題のことであって、第2章で起きる具体的なイベントに影響を与えるわけではないので。

――今回、『逆襲のシャア』パートも新規で描き起こされていますが、これも現代的なルックに合わせるための工夫だったのでしょうか?
村瀬 いや、そこは昔の映像を使っていいのかがわからなかったのが大きな要因です。もし、最初に「昔の映像を使ってください」といわれて、当時の素材が残っていればできたかもしれませんが、そうでなければ描き起こすしかありませんでした。ただ、『逆襲のシャア』の映像は今見ても素晴らしいものですし、描き起こすにしてもあまり変えないようにしたいと思っていたので、該当シーンは絵コンテも尺も動きもほぼ引用するかたちになっています。自分としてはもっと精度を上げたかったのですが、当時の制作手法と現在の手法があまりに違うので、あの頃の迫力を再現するのはなかなか難しかったですね。

――最終盤では、ハサウェイのΞ(クスィー)ガンダムとレーンのTX-ff104 アリュゼウスによる高速戦闘が見せ場となりますが、モビルスーツ戦闘のポイントはどこに定めていましたか?
村瀬 第1章では、ミサイルを駆使した遠距離での撃ち合いにフォーカスしました。今回は、モビルスーツ同士の白兵戦をメインに、構成的にももう少しじっくりと戦闘を見せていこうと考えていました。本当は、2本脚で立った状態のアリュゼウスをもっと長く映すつもりだったのですが、想定よりもその直前の戦闘パートが厚くなりましたね。

――アリュゼウスと、そのコアパーツとして量産型νガンダムを見せるというのは、当初から決めていたのでしょうか?
村瀬 それも構成の段階で決めていました。描きたかったのは、νガンダムそのものを見せたいというよりも、ハサウェイの心の中にある「秘密」を引き出すトリガーとしてのνガンダムでした。その意図をメカニカルデザインのカトキハジメさんに伝えて、試行錯誤のうえで完成したのがアリュゼウスです。内部から量産型νガンダムが現れたとき、かつての戦場の象徴であるνガンダムがハサウェイの中でフラッシュバックする。それが第2章におけるクライマックスなので、カトキさんも時間をかけてデザインをしてくれて、思った以上にうまくいった場面となりました。endmark

村瀬修功
むらせしゅうこう アニメーション監督、演出家。監督作に『虐殺器官』『Ergo Proxy』『GANGSTA.』など。映画『ブレードランナー2049』に連なる『ブレードランナー ブラックアウト2022』のキャラクターデザイン、作画監督、原画なども手がける。
中編は3月7日公開
作品情報


『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』
全国劇場にて絶賛上映中!

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