TOPICS 2026.03.07 │ 12:00

『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』特集③ 劇場版としての説得力を求めて
監督・村瀬修功インタビュー(中編)

『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』の監督を務めた村瀬修功へのロングインタビュー。中編では、「青春映画」としての側面が強い第2章を彩るオープニングテーマ・エンディング主題歌とともに、音響や実写的な映像の志向性とそれにともなう演出について聞いた。

取材・文/森 樹

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

青春ものとしてふさわしいラストを

――第2章は、ハサウェイ・ノア役の小野賢章さんやギギ・アンダルシア役の上田麗奈さんも「青春物語」と表現するような、ある種の爽快さも感じられる終幕となっていますね。
村瀬 第1章に取りかかる際、富野由悠季さんに挨拶へうかがったのですが、数本の映画を勧められたのと同時に「青春ものにしなさい」と言われました。ですが、小説を読み直してみても、やっぱり青春ものではない(笑)。ただ、第2章の物語を考えると、ハサウェイが本当の顔を見せる内容ではあります。ギギの視点からも、ふたりの再会がひとつのピークになっている。それがゴールになると考えた場合、今回のような締めくくり方もアリかなと思いました。小説ではあのあとにもハサウェイとギギのやり取りが続くのですが、そこを描かなければ、青春ものにふさわしいラストになるのでは、と。

――そこでガンズ・アンド・ローゼズの「スウィート・チャイルド・オブ・マイン」が流れることも含めて。
村瀬 使用許可が取れたのはうれしかったですね。ちゃんと青春映画だという気分にお客さんを持っていくことができるので。構想時点で使いたいと思っていたのですが、数年前に別の映画作品(マーベル作品の『ソー:ラブ&サンダー』、2022年公開)で使われていたので、無理かもしれないと思っていたんです。もっとも、使えたのはその別作品から3年後の公開となってしまったから、ということもありそうですが(笑)。

――なるほど。一方で、オープニングテーマにはアメリカのR&Bアーティスト・SZAの「Snooze」が使われています。
村瀬 オープニングに関しては他にも候補曲がありましたが、SZAの楽曲が歌詞も含めていちばんイメージに近いものでした。ただ、こちらはエンディングよりも許諾が難しいのでは、とも考えていました。彼女の持つイメージと、ガンダムシリーズに対するイメージが重なるのかどうか……。

――日本のアニメーションに対する評価が底上げされている時代ですから、許諾が下りたのかもしれませんね。
村瀬 ええ、それはあったと思います。

――ハサウェイの心境を表すような海中のシーンからオープニングに入るところは、高揚感や広がりを感じました。
村瀬 冒頭からそこまで、ハサウェイが船の中で悩み、ウダウダしている様子でかなり尺を使っていますからね。ですが、ゆっくりとハサウェイとΞ(クスィー)ガンダムが水中(過去)にダイブしていくオープニングはイメージしたものになったと思います。

小説の読後感とは一致したものにしたい

――洋楽が使われていることも含め、映像の質感は日本のアニメーションよりも、洋画的・ハリウッド的な志向も感じますが、そこは意識的なものでしょうか?
村瀬 洋画的、ということは考えたことがないですね。いわゆるアニメ的な表現があまりしっくりこない部分があるので、それが実写的な表現につながっているのかもしれません。ただ、第1章に関しては物語の構成上、少し「007シリーズ」を意識していました。

――第2章ではハサウェイ、ギギ、ケネスだけでなく、マフティーやオエンベリ軍など、より群像劇としての要素が増しています。マフティーの描き方に関しては、かつて日本で起きた学生運動を下敷きにして取り込んでいるそうですね。
村瀬 自分で新たにイメージを加えたというよりは、小説を読んでいてそのように彼らが見えたところがあります。地球連邦軍側との対比を考えても、若者が結成した環境団体のような素人感があるように見せたかった。そういう雰囲気を、キャラクターひとりひとりのデザインにもまとわせていきました。

――そんなマフティーや共闘関係を築くオエンベリ軍は無残に命を落としていきますが、映像では戦闘の全体を描かない演出が取られていました。これは観る側に「描かれていない部分」を想像させる意図があったのでしょうか?
村瀬 そうですね。小説の読後感と一致したものとして映像化したいと思っていました。そういう狙いではあったのですが……オエンベリの戦いに関しては、もう少しきっちりと見せたほうがよかったのかな、という思いはあります。

――冒頭の、オエンベリ兵の主観でカメラが動くシーンは印象的です。
村瀬 そこも含めて、ですね。背景の暗いところにさらに暗いシルエットが入っているので、もう少し映像的にもコントロールして演出したかったところはあります。オエンベリの戦闘は状況の説明にあと数カットは必要だったのではないかと。

――物語的には、ハサウェイとギギ、ケネスという3人の関係を軸にしつつも、組織の一員としての視点や心境の変化がクローズアップされています。一本の映画として構成する難しさがあったのではないでしょうか?
村瀬 構成はたしかに難しかったですね。第1章あっての第2章ですし、予備知識がなければわからない部分が多い。とはいえ、前作を見ていなくてもわかる作劇は、この第2章に関しては無理だと考えていました。本作の冒頭に第1章の振り返り映像がありますが、ここはもう甘えさせてもらいました。

――映像面を支える音響部分も、ラージフォーマットの対応をより意識したのですか?
村瀬 大きくは第1章と変わっていないと思いますし、うまくいっている部分はそのまま第2章にも引き継いでいます。第1章に続いて今回もかなり厳しいスケジュールで音を付けていただいたのですが、最初に聞いたところから、ほとんど変えていません。音響演出の笠松広司さんは、絵としてわかりにくいところには潔くSEを付けない、という選択をされました。それが逆に、演出として効果的なものになりましたね。

――あえて付けないというチョイスが功を奏することに。
村瀬 同時に、笠松さん自身でいろいろと試してくださることも多かったです。たとえば、最初は音楽が付いていたけれど、笠松さんの判断で外してもらった状態を見させてもらったときにしっくりきたシーンがあって、それは非常に助けられました。ラージフォーマットへの対応など、専門的なことはご本人に聞いていただければと思いますが、本来であればレンタル・ビルの中での音響など、もっと細かくやってみたかったというお話はされていましたね。endmark

村瀬修功
むらせしゅうこう アニメーション監督、演出家。監督作に『虐殺器官』『Ergo Proxy』『GANGSTA.』など。映画『ブレードランナー2049』に連なる『ブレードランナー ブラックアウト2022』のキャラクターデザイン、作画監督、原画なども手がける。
後編は3月8日公開
作品情報


『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』
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