「フラ」と「アイドル」をつなぐもの
――本作では日羽(ひわ)がアイドル「いついろディライト!!」のステージを見て元気をもらい、後半の展開につながっていきますが、このステージはまるで別のアイドルアニメが始まったかのようでした。
水島 アイドルに行き着いたのは半ば偶然でした。制作途中、映画として飛躍させるために何か変化を描きたくて、そこに収まるピースをずっと探していたんです。主人公の日羽が「こういう新しいフラをやろうよ」とみんなに提案する姿を見せることで彼女の成長を描こうと思っていたのですが、それがどんな「新しいフラ」なのかが見つかりませんでした。たくさんの音楽を聞いて探していたのですが、あるとき、でんぱ組.incの『サクラあっぱれーしょん』というお祭りソングを聞いたら、ピタッとハマったんです。
――どんな要素がハマったのですか?
水島 「フラ」は、もともと豊穣をお祈りする、土着的な信仰をベースとした踊りでもあって、つまり「お祭り」の一種です。『サクラあっぱれーしょん』も「お祭りの歌」を現代のアイドルソングに落とし込んだ曲ですから、それを「日本のハワイ」と呼ばれるスパリゾートハワイアンズで踊るのは、文脈的に合致すると思いました。作中でオハナが「ロック・ア・フラ」(ロックでフラを踊るエンターテインメント)を説明するのですが、そのことを教えてくださったフラの先生曰く、「ロック以外の現代的な音楽ジャンルでフラを踊ることもありますよ」とのことでした。ただ「さすがにアイドルソングはこれまで聞いたことがない」とおっしゃったので、新規性という意味でも「よし、いいぞ」と(笑)。
――なるほど。
水島 だから日羽たちが踊る「新しいフラ」は『サクラあっぱれーしょん』を作った玉屋2060%さんの曲で、振り付けもでんぱ組.incを担当しているYumiko先生しかない。この人たちにお願いすれば絶対にクオリティが高いものに仕上がるという確信もあったし、映画の軸として非常に有効に働くと思ったので、プロデュースサイドに自らプレゼンをしたんです。
自分の濃度が高い作品になったのは、題材と相性がよかったから
――第1回から、水島さんならではの人脈や座組作り、アイデアの出し方を聞いていて、まさしく「総監督」のお仕事だったのだなと感じます。
水島 すべてがスムーズに進んだわけではありませんが、バンダイナムコピクチャーズの伊藤(貴憲)プロデューサーは、僕のそういう動き方まで理解して総監督の仕事を振ってくれたんじゃないかなと思います。これまでも別の企画で相談を受けたときは、とにかく前向きにアイデアを出していました。そんな関係と経験を経ての今作だったので、自分としてはいちばん自信が持てるかたちに落とし込まなければと思い、いろいろな人と話をして、何を目指しているのかを積極的に伝えていきました。ただ、僕が中心になって作品作りをコントロールしたことは間違いありませんが、これだけの作品に仕上げられたのは、関わってくれた人がみんな同じほうを向いて、しっかりと各々の仕事に打ち込んでくれた結果だと思っています。
――水島さんは本作以外にも多くの作品で監督を務めてきましたが、自分から企画を提案することと、今回のように相談されてたずさわることのどちらが多いのでしょうか?
水島 基本的には「一緒にこの作品を作りましょう」と声をかけられて参加することが多いですね。そして話を聞きに行くと「中身を考えてください」と言われる(笑)。ただ、『フラ・フラダンス』が特別だったのは、今までであればアニメ業界内の「人」や「もの」で作品を組み立てていたのが、先に述べた音楽に関わる部分のように、外側に話が広がっていったところです。それでも結果的に自分の濃度が高い作品になりましたが、相性が良い題材だったからだと思います。その題材から“お仕事青春もの”という方向性が決まって、それを成立させるために自分でアイデアをいろいろ出しているうちに、周りは「これだけ熱く語ってるし、『確信がある』って言っているんだから、ついていくしかないか」みたいなモードになっちゃったんじゃないでしょうか(笑)。
「総監督」として最後まで真摯に向き合えた
――本作は一般の方からコアなアニメファンにも楽しんでもらえるよう、間口を広く取った、とのことです。『Febri』の読者はコアなファンが多いと思うのですが、その観点での見どころを教えてください。
水島 地に足がついたアニメを見たい方には必ず喜んでもらえるはずです。細やかなドラマ運びを通じて主人公たちの気持ちや成長に注目しつつ、この作品が作られた背景が少しでも頭に入っていると、さらに深みが増すと思います。アニメらしいフックを追い求めず、「ずっとおうえん。プロジェクト2011+10…」の一環として「僕であればこういう作品にしたい」というバランスを最後まで守れたと思いますし、総監督としての責任を持って、真摯に向き合いながら作ることができた作品だと思っています。
- 水島精二
- みずしませいじ 1966年生まれ。東京都出身。アニメーション監督。主な監督作に『鋼の錬金術師』『機動戦士ガンダム00』『UN-GO』『楽園追放 -Expelled from Paradise-』『D4DJ First Mix』など。