TOPICS 2022.09.22 │ 12:00

映画『雨を告げる漂流団地』石田祐康監督が作品に込めた思い②

石田祐康監督初のオリジナル長編作品『雨を告げる漂流団地』の公開を記念したインタビュー。この後編では、本作の舞台でもある「団地」に対する憧れ、そして観客の心を鷲づかみにするずっと真夜中でいいのに。による主題歌&挿入歌について。さらに、本作をより深く楽しむためのポイントも聞いた。

取材・文/宮 昌太朗

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

「団地」への憧れがあった少年時代

――今回の『雨を告げる漂流団地(以下、漂流団地)』は、タイトル通り、老朽化した団地が舞台なのですが、監督自身も現在、団地に住んでいるそうですね。
石田 そうですね。じつは少し前から団地に対する憧れみたいなものがあったんです。僕の実家は昔ながらの平屋の日本家屋で、子供の頃から団地のそびえ建っている感じとか、窓が並ぶ感じなどわくわくする感覚がありました。団地に住んでいる友達の家に遊びに行くと、自分が慣れ親しんでいるのとはまったく違う異空間が広がっていて、ウチと比べると、こっちは整っていてキレイだなあ、とか(笑)。

――あはは。整然としている感じがあった。
石田 団地というと、画一化された建物がいっぱい建っている、みたいな――ある種、ネガティブなイメージも昔はあったと思うんですよ。たとえば、高畑勲監督の『平成狸合戦ぽんぽこ』の中で、多摩ニュータウンの開発が批判されていたりとか。ただ、僕らの世代にとっては、そういう団地がふるさととしての風景になっているところがありますし、最近は古い団地もうまくリノベーションされたりしていて、むしろ住み心地がよかったりする。まあ、「団地が漂流」というのはネタとしてわりとトリッキーなので、やり方によってはもっとB級映画みたいなノリになる可能性もあったんですけど、描いてみたらものすごく真面目にやってしまいました(笑)。

懐かしさと、ずとまよさんが持っている現代的な感覚が同居した楽曲

――本作の魅力のひとつに、ずっと真夜中でいいのに。(以降、ずとまよ)さんが提供している主題歌「消えてしまいそうです」と挿入歌「夏枯れ」がありますね。どちらも作品の世界観に合った、素敵な曲でした。
石田 じつをいえば、ずとまよさんのことを知ったのは、今回の映画の制作が始まってからなんです。でも、これまで、ずとまよさんが歌われていた曲を聞いて、すぐに好きになりました。曲がいいというのはもちろんなんですけど、ちょっと懐かしい感じというんですかね。とくに自分の世代にとっては。そこも今回の『漂流団地』にうまくハマるんじゃないかな、と思いました。

――主題歌の制作にあたって、どんなオーダーをしたのでしょうか?
石田 今回の映画では「団地」というモチーフが出てきて、しかもそこで扱っているのが「過去」にまつわる感情というか、どういうふうに過去と折り合いをつけるのか、という部分です。団地というのは昭和に生まれて、その後、平成、令和とリノベーションを繰り返しつつ、一部は取り壊されながらも、まだまだ人の住まいとして生きている。今回の物語は、そういう時間軸を大切にしながら作っていったところがあって。

――人々が団地で過ごした営みや時間を、優しく切り取るような映画ですよね。
石田 それこそ昭和から令和まで横断するような、ある種の懐かしさと、あとは、ずとまよさんが持っている現代的な感覚ですね。それが同居している曲を書いてほしいな、と。それによって、今回の映画で描こうとしている物語――現代の子供たちが、昭和生まれの団地という舞台の上に、どういう思いで立っているのか。それを表現するのにぴったりの曲になるんじゃないかな、と考えていました。

――なるほど。
石田 それに加えて、挿入歌の「夏枯れ」に関しては、みんなで修学旅行だったり、林間学校に行って、残りの日程もあとわずかになったときの気持ち。楽しいんだけど、終わりが近づいてきたときの気分を表現してほしいとお願いしました。一方、主題歌の「消えてしまいそうです」は、この作品が持っている暗さみたいなものですね。夏芽は気持ちを抱え込んだまま、それを表に出せないところがあるキャラクターですが、そういう辛さを抱えながらも、あえて力強く前進する。そういう曲になるといいな、と。「夏枯れ」が旅の途中をモチーフにした曲なら、こちらは旅が終わった後の曲というか。そういうお願いをしまして、上がってきた曲はまさにそれにぴったりの曲で……本当にありがたかったですね。

夏芽の気持ちを追いかけながら見てほしい

――では、最後にもう一度見ようと思っている方へ向けて、より楽しんでもらえるポイントを教えてください。
石田 一度目の方は、きっと基本的なストーリーを追うのでいっぱいいっぱいだと思うんですけど……。この映画は、航祐の目線を借りながら、夏芽のことを追いかけるという構成になっていて、僕自身、なんとか彼女を助けてあげたい、背中を押してあげたいという一心で作っていました。夏芽の暗い気持ちゆえに見る人を選んでしまうのかも……と作りながら、正直、心配していたこともあったのですが、もう作り終えてしまったのでほんとうにもう”当たって砕けろ”の心境です。でもそんな彼女を通して投げかけられる、場所に対する想い、という点で、見る方おのおのが記憶する場所につなげてもらえたらいいなと思いました。

――なるほど。
石田 あと、場所といえば、この映画には団地の他にもデパートとか観覧車とか、いろいろな懐かしい建物がたくさん出てくるんです。それらがこの先、どんな運命を迎えるのか。これまでにどんなことがあったのか。本編ではほとんど描かれていないので、そういったことに想像を膨らませてもらうのも、楽しいのかなと思います。ちなみに、ノベライズ版にはそのあたりも少し補足して書かれているので、興味を持っていただいた方は、そちらを読んでいただければ、と思います。endmark

石田祐康
いしだひろやす 1988年生まれ、愛知県出身。大学在学中に制作した短編「フミコの告白」で数々の賞を受賞。大学卒業後、新設されたスタジオコロリドに参加し、2018年に森見登美彦の同名小説をもとにした初の長編監督作『ペンギン・ハイウェイ』を公開。こちらも大きな話題を呼んだ。
作品情報

9月16日(金)日本全国ロードショー
Netflixにて独占配信中

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