お客さんの中で色褪せないどころか現在進行形の作品
――5周年。早いものですね。何回見ても、結城中佐の「馬鹿か貴様」を聞くたび、震えるように感動がよみがえります。
野村 『ジョーカー・ゲーム』という作品は、お客さんの中でも色褪せないどころか、つねに現在進行形ですよね。じつは『憂国のモリアーティ』をやっている最中「配信で全部見たんですけど、すごく面白かったです」というお手紙をいただきました。『憂国のモリアーティ』かと思ったら5年越しの『ジョーカー・ゲーム』のことで。そういう熱い想いにお返しができなくて申しわけないといつも思っていたので、今回のイベント開催はうれしいです。
――原作との出会いは、Production I.Gのプロデューサーである黒木(類)さんからの紹介だったんですよね?
野村 はい。2013年頃かな、「昭和初期が舞台のスパイものです」と黒木さんから原作小説を手渡されて。とっつきにくそうだと思って、1年以上読まなかったんですよ。ところが、手に取ってみたら驚くほど面白い。なにより「人間の物語」がちゃんと描かれているなって思ったんです。結城中佐以外のキャラクターは、顔や名前が明確には描かれていない。それなのに、ひとりひとりの個性がちゃんとある。常人離れした彼らがいざ窮地に陥ったとき、その個性――それまでの人生とか過去とか考え方とかが表に出てきて、それがストーリーを動かしていく。原作の時代背景では、国のために命を捧げるのが当然のことだとされていましたよね?
――はい。第1話に登場する陸軍中尉・佐久間の立ち位置ですね。
野村 そうです。それが常識だった時代に「死ぬこと、殺すことは、最悪の選択だ」と語り、未来の日本や世界を見据えていたのが結城中佐だったわけで。彼はたぶん、そこで生き残っていける人材を育てようとしていたんだと思うんです。でも、かなり放任主義じゃないですか、結城中佐のやり方って(笑)。ある程度の情報は与えるけど、具体的な任務や真意までは伝えずに世界各地に放り込む。あれはたぶん、成功するかしないかも含めて、その先の判断を個人に完全にまかせるってことなんですよね。そこに大きい意味があるし、なんだろう――生きることに対しての強い意志を感じました。死ぬことが当たり前の時代に、生き残れる人間をちゃんと育てようとしたんだなって。だから、この作品を引き受けるにあたって、“死生観”をテーマにしたいですと言いました。それが、この作品を作る上での背骨になるだろうと思ったんです。
結城中佐は、すごく懐が深くて優しい人間なんじゃないか
――その背骨は、全編にすーっと通っていました。結城中佐への愛と信頼も。中佐はいかにも明治生まれの玲瓏(れいろう)な軍人ですが、その考え方は現代の私たちのほうが共感しやすい。
野村 そう、すごく先進的な考え方の持ち主だと思います。当時はもちろん異端でしょうけど、今なら非常に優秀な上司にあてはまるだろうなって思ったんです。厳しい人だし、敵から見たら恐ろしいと思うんですけど、実際にはすごく懐が深くて優しい人間なんじゃないかな。
――原作では「死ぬなよ」で終わる最終話の幕切れを、第1話冒頭のセリフ(「馬鹿か貴様、背広姿で敬礼する奴があるか」)のリフレインで飾ったのも、そういったこだわりですか?
野村 あの話をラストにしたのは、たしかにこだわりの延長です。ただ、セリフをリフレインさせたのは僕ではなく、I.Gのベテラン編集の方のアイデアなんです。編集さんは、お客さん第1号。先入観なしで物語を見て、お客さんの目線から教えてくださることが多いんです。その中から生まれたアイデアで、目から鱗じゃないですが、ニクイこと考えるなあって思いましたね。
――音楽と同じで、リフレインは痺れるようなカタルシスと余韻をもたらしますよね。そういう土壇場の変更があることって、名作の条件なのかもしれません。
野村 はい。アニメって生き物だっていつも思うんですよね。数十分の作品を作っていく過程で、どんどん変化していく――僕はそれがすごく好きです。
『ジョーカー・ゲーム展』
会期 2021年11月3日(水・祝)~11月28日(日)
開場時間 11:00~20:30
※最終入場は閉場の30分前まで。
※最終日11月28日は17時閉場。
開催会場 有楽町マルイ8F イベントスペース
(東京都千代田区有楽町2-7-1)
主催 ムービック
入場料 当日入場券 1,800円(税込)
記念コイン引換券 1,000円(税込)
※当日券は会場のみでの販売となります。
※前売券で予定数を達した場合、
当日券の販売はございません。
お問い合わせ 有楽町マルイ 03-3212-0101
(受付時間11:00~19:00)
※運営状況や当日券の販売状況については
公式Twitterをご確認ください。
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