監督の趣味がしみ出たキャスティング秘話
――初監督作『戦国BASARA弐』に始まり、『ジョーカー・ゲーム』『風が強く吹いている』『憂国のモリアーティ』と、監督が言う「男たちの世界」が続いていますね。
野村 僕は外国映画が好きなんですが、そういう趣味が仕事にしみ出ているのかもしれないと最近思います。『ジョーカー・ゲーム』を手がけたときに思い出したのは、マット・デイモンがポーカーのプレイヤーを演じた『ラウンダーズ』という映画。ポーカーの勝負師って、他人から見たらただのギャンブラーじゃないですか。でも、主人公は自分の生き様をまっとうする。そういうストーリーと空気感がとてもいい作品で。第1話のポーカーのシーンなど、明確に『ラウンダーズ』を参考にしながら作りました。
――ものすごく納得しました。私も洋画が好きなので『ジョーカー・ゲーム』を初めて見たとき、各話キャストの顔ぶれに「洋画吹替えの世界だ……」と惹きこまれたんです。
野村 そう、あれは完全に吹替えのキャスティングなんですよ(笑)。自分が子供の頃に見ていた日曜洋画劇場とか金曜ロードショーの世界。「アーノルド・シュワルツェネッガーの声は玄田哲章さん」という世代なので、アニメで30分の映画っぽいものを作ろうぜと、当初から黒木さんと盛り上がったんです。居酒屋で黒木さんと飲みながら「キャストは哲章さんや銀河万丈さんにお願いしたいよね」「(大塚)芳忠さんもいいですね!」みたいな(笑)。
――すごい。完全に実現している(笑)。MI6の芳忠さん、ナチ将校の万丈さん、痺れました。
野村 普通ならその場のノリで終わりそうですが、そのときは自分も黒木さんも本気だったので実現できました。メインとなる8人のスパイには落ち着いた魅力があって、どこか陰がある声の方を選びました。たとえば、波多野なら、愛嬌や生意気さも体現できる梶裕貴さんを、というふうに純粋に声だけでキャスティングしたんです。最も反響があったのは、三好役の下野紘さん。下野さんは当時、ノリの軽い役が多かったらしく、三好のような渋い役をやること自体が珍しかったそうなんです。
渋くて、重みがあって、陰のある男性の声が好き
――純粋に声で選んだからこそ、下野さんが潜在的に持つ陰を掬い上げられたのかもしれませんね。
野村 作品の世界観から、いつもより低めの声でオーディションテープをいただいたと思うので、それもよかったんだと思います。これがきっかけで下野さんの役の幅が増えたとしたら、すごくうれしいです。櫻井孝宏さんや森川智之さんなど、過去の作品で関わったことのある方々にはもう、安心しておまかせしましたね。
――元・陸軍少尉という異色の経歴を持つ小田切役に、細谷佳正さんというのも納得でした。実際、吹替えでも活躍している、土臭さと深い陰影がある声です。
野村 細谷さんと初めてお仕事させていただいたのは『ROBOTICS;NOTES』でしたが、若いのにこんなに渋い声が出せる、いい役者がいるのかと一瞬で大好きになりました。そのとき主演を務めた木村良平さんもすごくいい声で。『ジョーカー・ゲーム』では神永役で、ふたり揃って出てもらいました。『ROBOTICS;NOTES』関連だと、第8話で殺される中国人、張さん役の上田燿司さんの声もすごく好きです。最近では『憂国のモリアーティ』にも出てもらいました。結局、渋くて、重みがあって、陰のある男性の声が好きなんですよね。
――本当に声がお好きなんですね(笑)。とくに印象深かった話数はありますか?
野村 第9話の、結城中佐が変装してやってくる回。(堀内)賢雄さんが、まったく別人の声と芝居を目の前で演じてくださったのを見て感動しました。あと第5話は、大塚芳忠さんと木村(良平)さんがほぼふたりだけでしゃべっているんですよね。二人芝居という雰囲気で、これほど耳が幸せな回もないなと、監督でありながら終始ニヤニヤして聞き惚れていました(笑)。
「間」と「しゃべりすぎない」ことで重厚感を演出
――洋画の空気感、独特の重厚感を作る際に気をつけていたことはありますか?
野村 おそらく、「間」は間違いなくあるだろうなと思います。あと「しゃべりすぎない」こと。セリフはもちろん重要なんですが、本当に必要なこと以外はしゃべらないようにすることで、重厚感につながっていくのではないかと考えています。もちろん、それが飽きにつながらないようには気をつけていますし、あとは音楽の力や音響監督の岩浪(美和)さんの力に助けられていると思います。
――あと、やっぱりアニメーションには絵の力がある。それは強いですよね。
野村 そうですね。絵でわかるだろう、と。それでもわからない方には「ゴメンね。ちょっと置いてけぼりにしちゃうけど、こっちの作りたい空気感を優先させて」っていう。
――そういう作品があってもいいですよね。私はアニメを見てから原作小説を読んで、詳しく書かれているんだなと驚いて。アニメ『ジョーカー・ゲーム』の説明しすぎない空気感の魅力に気づかされました。
野村 今は説明しすぎるくらいじゃないと、なかなかわかってもらえないことが多いみたいですね。『ジョーカー・ゲーム』のときは、これを見るのは自分と同世代かそれ以上の男性だ、なんて考えながら作ったんです。同世代の疲れた男たちが、夜中に酒を飲みながら見て味わうものだから、わからなくてもいい、なんてね(笑)。
――そんな監督の思惑をよそに『ジョーカー・ゲーム』は性別も年代も超えて愛される作品になりました。後編では、背景美術へのこだわりについても探っていきたいと思います。
- 野村和也
- のむらかずや 1978年生まれ、長野県出身。アニメ監督、演出家。STUDIO 4℃を経て、フリー。『戦国BASARA弐』で監督デビュー。主な監督作品に『ROBOTICS;NOTES』『攻殻機動隊 新劇場版』『風が強く吹いている』『憂国のモリアーティ』など。
『ジョーカー・ゲーム展』
会期 2021年11月3日(水・祝)~11月28日(日)
開場時間 11:00~20:30
※最終入場は閉場の30分前まで。
※最終日11月28日は17時閉場。
開催会場 有楽町マルイ8F イベントスペース
(東京都千代田区有楽町2-7-1)
主催 ムービック
入場料 当日入場券 1,800円(税込)
記念コイン引換券 1,000円(税込)
※当日券は会場のみでの販売となります。
※前売券で予定数を達した場合、
当日券の販売はございません。
お問い合わせ 有楽町マルイ 03-3212-0101
(受付時間11:00~19:00)
※運営状況や当日券の販売状況については
公式Twitterをご確認ください。
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