10/11ページ
○
東に面した海に夕日は沈まず、代わりに空だけが橙になっていた。
終わりの時刻は迫っていて、石は見つからない。いつのまにか近くで探していた植原巡査長と目が合い、くたびれた顔で同時に息を吐いた。
「どうしてあの子の話にここまで肩入れを?」
そう聞いてみると巡査長はごく普通に、困っていたので、と答えた。
「地域住民の不安を取り除くのは警察の業務の一つですから」
その通りだった。そしてそれは警察庁勤務の俺も同じだ。今日の仕事は特別でもなんでもなく、ただ骨が折れるというだけの事案だ。
「おまわりさあぁん」
浜に大声が響き渡る。健勇君がぶんぶんと両手を振っている。巡査長と顔を見合わせ、二人で走った。
その石は。
表と裏が反対になったように見えた。
元は丸かっただろう石が二つに割れて半球型になっている。外側は白色で滑らかだが内側に空洞があり、中にはおとぎ話に出てくるような透明の水晶が無数に並んでいた。まるで鉱石全体をぐるりと裏返したような、異次元で作られたような構造体。
写真を撮って送信する。
『《晶洞(ジオード)》という』
電話のスピーカーが簡単に解答を読み上げた。日本学術会議の御船哲人先生はお忙しい中すぐに折り返してくれた。
『自然結晶じゃ。菖蒲沢なら石英ではないかな。その辺りは熱水鉱床で、瑪瑙や金なんかも見つかるぞ』
通話を終了して二人の顔を見遣る。異方の石ではなかったという安堵と、勘違いで俺を振り回してしまった申し訳なさが入り混じり、二人は非常に複雑な顔をしていた。俺は偉そうに咳払いしてみせる。
「捜査本部はひとまず解散とするが、まだこの石が異方のものでないとは断定できない。こちらは証拠品として警察庁が押収する。以降の科学検査で詳細が明らかになるだろう」
健勇君に笑いかける。
「結果がわかったら報せるよ」
そこで彼は、今日はじめて笑ってくれた。
奇妙なもので、一つを見つけて目が慣れたのか帰りしなに同様の石を二、三個拾うことができた。一個を彼に渡し、残りの三つを持ち帰る。
棒のような足で車を走らせて、三島駅で新幹線に乗り換えてようやく帰路につく。車内で買った缶ビールを開けたが、ほとんど飲まないうちに眠くなってきた。
閉じかけた視界の中で、焼酎のコップを傾ける姿が見えた気がした。
『正解するカド』オンエア5周年記念関連イベント
■7月9日(土)19:00
YouTubeプレミア公開
『正解するカド12.5話 KADO:Beyond Information』
東映アニメーションミュージアムチャンネル
■7月9日(土)21:00
「東映アニメーション主催3作品合同VRイベント」開催
『正解するカド』『怪獣デコード』『Zombie Zoo Keepers』
『正解するカド』5周年イベント
登壇/三浦祥朗、赤羽根健治
進行/野口光一P
スマートフォンやPC、VR機器など、さまざまなバーチャル空間に集って
遊べるメタバースプラットフォーム Cluster にて開催!!
- © TOEI ANIMATION,KINOSHITA GROUP,TOEI