TOPICS 2022.06.30 │ 12:00

『正解するカド』5周年
シリーズ構成・野﨑まどによる書き下ろし短編小説

人類と異方存在とのファーストコンタクトを描いた、東映アニメーションのオリジナルSFアニメ『正解するカド』は、その衝撃的なストーリー展開で多くのアニメファンを驚かせた。カドの出現。異方存在・ヤハクイザシュニナとの邂逅。そして、真道幸路朗の決断……。オンエアから5年を経て、人類の世界はどうなったのか。ここでは、本編のシリーズ構成を手がけた野﨑まど氏による、『正解するカド』のその後を描いたオリジナルショートノベル『カド -ゴ-』を一挙掲載する!

著/野﨑まど イラスト/有坂あこ

11/11ページ

   ○

「警察がいい。向いている」
 
 あの日、花を切ってしまった子を家に返してから、いつものように二人で飲んでいる時に真道が言った。俺はすぐ否定したが、あいつは絶対に向いていると言って聞かなかった。

「さっきの話を聞いた時、俺はあの子が、命について知りたがってると思った」

 俺は首を振った。真道は言葉を額面通りに受け取り過ぎていた。

「俺にはあの子が、助けてほしがってるように見えたよ」

 真道は納得したように頷いた。

「やっぱり向いてるよ、浅野。お前の中には正義がある。助けを求められたら応えられる。そうするようにできてる。だからお前は正しい仕事に就くべきだと思う」
「お前は違うのか」
「多分」

 真道はか細い声で言った。

 あいつと暮らしてわかったことが、もう一つあった。

 あいつと俺は違う人間で、俺があいつを羨んだように、あいつもまた俺の何かを羨んでいた。俺達はあのボロい部屋で、互いが持っていないものを目を細めて見合っていたらしかった。

 あの頃、俺達は毎日、何かを探していた。

 先に見つけられたのは俺のほうだった。

 そして真道は。

 あれからずっと。

「まだ三年だ」

 あいつはコップの中を見ながら呟いた。

「もうちょっと探してみるさ」

   ○

 落ちてきた缶コーヒーを取り出した。当たり前だが庁舎内の自販機に酒は売っていない。
 
 全国の警察と公安を飛び回った出張行脚が落ち着き、ようやく霞が関の日々が戻ってきた。今回の出張を機に異方案件の処理系統を改善できたので、自分のところまで届くメールは少なくなりつつある。件数の減少は社会が正常化している証でもあり、まだしばらくは0にならないだろうがそれを目指さなければならない。

 メールボックスを開くと本日分はまだ0件で留まっている。これから事務官の彼が持っていくるだろうと思っていると先に携帯が鳴った。御船先生は律儀にも俺が持ち込んだ晶洞をラボで検査してくださった。これで健勇君に結果報告ができる。

『二つは石英』
「ええ」
『最後の一つはこちらのものじゃない』
「こちら、とおっしゃいますと」
『徭君に見てもらったんだが、鉱石質の容器、つまるところ《瓶》だと言うんだよ……中に』
「浅野さんっ」

 突然呼ばれて顔を上げる。事務官が真剣な顔でタブレットを渡してきた。電話を保留にし、流れる映像を確認する。

「まだおおやけではありません。米国から外務省づての映像です。場所は北太平洋ミッドウェー島近傍」

 最初に見た時、そこに何が映っているのかまるで理解できなかった。

 海。海上。ヘリかドローンの映像と思われる。周辺に陸地は見えない。その広大な海洋から大きな物が突き出している。正確なサイズは摑めないが波と見比べる限りでは、巨大な、とにかく巨大な物体だった。

 それは根本が太く、先に行くほど反るように細くなり、先端は鋭く尖っていた。頭が混乱していて見た物の理解に時間を要している。中でも俺の理解を最も拒んだのは、その形ではなく、大きさではなく、物体の表面だった。
 
 それは初めて見るような特殊な表面構造を有していた。不規則に入り交じる曲線と直線、絵の具を中途半端にかき混ぜたような汚い色、法則性が一切見えない混沌のうねり。できの悪い悪夢のようなそれは、そう。

 壊れたカドのようだった。 

 映像が切り替わる。カメラが物体に寄っている。細くなった先端部分の切っ先が映し出される。そこに人が立っていた。だがすぐ自身の考えを否定する。人間はそんなところにはいない。そんなところにいるのは間違いなく、ただ人の形態をしているだけの、人間でない存在。

 それは全裸の、男性様の存在だった。その外見を表現するならば“雄々しい”となるだろう。分厚い筋肉の形が見て取れる。肩幅は広く、腕も足も太く、屈強な身体つきはギリシャ神話で獅子をほふる英雄のようだ。しかし同時に、髪の毛と顔中を覆う髭が無造作に伸び乱れている。それは人間というよりも、自然のままに生きる動物にも似た、野生の熊のような存在に感じられた。

「御船先生……」携帯を耳に当て直す。「“瓶”の中には何が……」
『徭君が開けた。中に情報を含んだ信号が封入されていた。つまりこれは《メッセージボトル》なんだと』

 映像が流れ続ける。

 獰猛な光を宿した野生の瞳が。

 カメラを睨んだ。

「メッセージの内容は?」
『《人よ》』

 御船先生が短い言葉を読み上げる。

 それが異方存在・アォリアォエルシンヴァローハの最初の言葉となった。





「《助けを!》」

                        『カド - ゴ -』了endmark

イベント情報

『正解するカド』オンエア5周年記念関連イベント

■7月9日(土)19:00
YouTubeプレミア公開
『正解するカド12.5話 KADO:Beyond Information』
東映アニメーションミュージアムチャンネル

■7月9日(土)21:00
「東映アニメーション主催3作品合同VRイベント」開催
『正解するカド』『怪獣デコード』『Zombie Zoo Keepers』

 『正解するカド』5周年イベント
  登壇/三浦祥朗、赤羽根健治
  進行/野口光一P

スマートフォンやPC、VR機器など、さまざまなバーチャル空間に集って
遊べるメタバースプラットフォーム Cluster にて開催!!

  • © TOEI ANIMATION,KINOSHITA GROUP,TOEI