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植原巡査長の言った通り、二時半頃には交番に児童が訪ねてきた。石の発見者・四年生の永田健勇(ながたけんゆう)君にもう一度事情を聞かせてもらう。
「ほんとに消えたんです。絶対箱にしまったのに」
「家族の誰かが君の箱から持ち出したりは?」
「僕しか知らない箱なので」
健勇君は揺るぎない目で訴えた。子供の証言をどこまで信頼するかは判断が難しい。小学校低学年程の年齢ならば勘違いや記憶違いも日常的にある。四年生ならば不確実性は減ってくるだろうが、自分だけしか知らない宝箱というのも本人の思い込みかもしれない。
「あれ、絶対異方の石です」
健勇君が二度目の絶対を口にする。植原巡査長はそれを難しい顔で聞いている。
自分も彼もよくわかっている。この子の力になろうとしても、肝心の石がない限りは異方事案として取り扱うことはできない。警察や公安が正式に動くためには最低限の手続きと段取りが必要だ。すでに報告書という手続きは終わり、更に先へ進めるための材料は存在しない。この事案はここで終了となる。
溜め息を一つ吐く。それを聞いた巡査長と少年がこちらに向いた。お世辞にも明るい表情とは言えない。俺は片手を上げて何か言いたげな二人を制した。時計を見ると三時前だった。
「健勇君もう少し大丈夫かな」
「六時までに帰れば、大丈夫です」
「ならもう菖蒲沢海岸しか無いか……」
それを聞いた二人の目に光が入るのが見えた。巡査長がパトカーを用意すると健勇君はさらに目を輝かせていた。六時には自分も東京に戻らないといけないと釘を差し、三人で時間制限付きの石探しに向かう。
格好をつけようとしたわけじゃない。異方の石という話を頭から信じられたわけでもない。一番の理由を上げれば、たまたま今日、大学時代のことを思い出していたからだ。
先ほど自分に向けられた児童の目に、俺と真道は出会ったことがある。
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「なあ」アパートの窓下を指差しながら俺は真道に言った。「あれって中に入れた方がいいのかな」
「何を」
「植木」
三年の冬。冷たい空気が壁の隙間から入り込み始めた頃。庭木の世話係がすっかり板に付いた俺は、大家さんの鉢が枯れてしまわないかを心配していた。
「中って玄関か?」言いながら真道も窓際に寄ってくる。「入り切らないだろ」
狭い窓から雁首揃えて植木鉢置き場を見下ろした。もう陽も落ちていてよくは見えないが、アパートの庭の様子なら互いによく解っている。
「なら外に温室を作ったらどうだ」真道が庭の一角を指す。「木枠を組んで、ビニールを張って」
「どうだって、お前もやるんだろうな」
「俺はこの前、洗面所の詰まりを直したから……」
言葉尻がすぼんで真道の視線が庭へと落ちた。釣られて見下ろすと、暗い庭に一人の子供が入り込んでいた。小学生くらいの背格好の男の子が植木鉢を見下ろして止まっていた。上から見られていることに気づかないまま、彼は鞄から何かを取り出してしゃがみこんだ。
パチン、という音が聞こえたところで真道と俺は部屋を飛び出した。
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