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捕まえた男児の手には鋏があり、足元にはキンセンカが横たわっていた。茎の根本から一太刀で、植木鉢にはほとんど何も残っていない。
いったい何が起きたのかはひと目でわかる。けれど何故それが起きたのかがわからなかった。
罪人のような顔で俯く子供に、俺と真道は理由を聞いた。男の子は、自分の心の奥底の声を振り絞るようにして、少しずつ形にしていった。
クラスで飼っていた魚が死んでしまったこと。
けれどその時、自分は泣けなかったこと。
死ぬということがうまくわからなかったこと。
知りたいと思って。
花を切ってしまったこと。
話し終わった時には彼は泣いていた。俺は何か声をかけなければと思った。年上として、大人として、幼い子供に言ってあげられることを考えた。けれど先に真道が何か言うような気がして、隣の男の顔を見遣った。
だが真道は。
ぼんやりとしていた。
薄く口の開いた、ぼんやりした顔で子供を見下ろしていた。それは何かを考えていて、心がどこか遠くに離れている顔だった。砂漠の真ん中で途方に暮れているようにも見えた。真道も子供も、どうしていいのかわからなくなっていた。そこに立っていたのは大学生と小学生ではなく、二人の子供だった。
あの時。
俺は三年前に真道と出会ってから初めて、あいつを下に見たのだと思う。
俺は心底から。
こいつは馬鹿なんだと思った。
「命が何かを知りたい気持ちは間違いじゃない」
少年に向かって強い言葉で語りかける。同時に隣の子供にも聞かせなければならない。
「でもそのために命を奪っちゃいけない。命は一度無くなったらもう戻らない。取り返しがつかない。だから命を取らずに、命のことを学ばなきゃいけない」
俺は当たり前のことを言っていた。当たり前のことを伝えた。誰でも知っていることで、誰でも必ず学ぶ。目の前の子供はその最中というだけだ。
彼はひと言だけ、できるの、と聞いた。
俺はできるよと答えた。それで十分だった。それから俺は彼を連れて大家さんに謝りに行った。大家さんは許してくれて、子供は反省して家に戻っていった。話はそれで終わった。
真道はその間、拾ったキンセンカの花をじっと見つめていた。
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