TOPICS 2022.06.30 │ 12:00

『正解するカド』5周年
シリーズ構成・野﨑まどによる書き下ろし短編小説

人類と異方存在とのファーストコンタクトを描いた、東映アニメーションのオリジナルSFアニメ『正解するカド』は、その衝撃的なストーリー展開で多くのアニメファンを驚かせた。カドの出現。異方存在・ヤハクイザシュニナとの邂逅。そして、真道幸路朗の決断……。オンエアから5年を経て、人類の世界はどうなったのか。ここでは、本編のシリーズ構成を手がけた野﨑まど氏による、『正解するカド』のその後を描いたオリジナルショートノベル『カド -ゴ-』を一挙掲載する!

著/野﨑まど イラスト/有坂あこ

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   ○
 
 捕まえた男児の手には鋏があり、足元にはキンセンカが横たわっていた。茎の根本から一太刀で、植木鉢にはほとんど何も残っていない。

 いったい何が起きたのかはひと目でわかる。けれど何故それが起きたのかがわからなかった。

 罪人のような顔で俯く子供に、俺と真道は理由を聞いた。男の子は、自分の心の奥底の声を振り絞るようにして、少しずつ形にしていった。

 クラスで飼っていた魚が死んでしまったこと。

 けれどその時、自分は泣けなかったこと。

 死ぬということがうまくわからなかったこと。

 知りたいと思って。

 花を切ってしまったこと。
 
 話し終わった時には彼は泣いていた。俺は何か声をかけなければと思った。年上として、大人として、幼い子供に言ってあげられることを考えた。けれど先に真道が何か言うような気がして、隣の男の顔を見遣った。
 
 だが真道は。

 ぼんやりとしていた。
 
 薄く口の開いた、ぼんやりした顔で子供を見下ろしていた。それは何かを考えていて、心がどこか遠くに離れている顔だった。砂漠の真ん中で途方に暮れているようにも見えた。真道も子供も、どうしていいのかわからなくなっていた。そこに立っていたのは大学生と小学生ではなく、二人の子供だった。

 あの時。

 俺は三年前に真道と出会ってから初めて、あいつを下に見たのだと思う。

 俺は心底から。

 こいつは馬鹿なんだと思った。

「命が何かを知りたい気持ちは間違いじゃない」
 
 少年に向かって強い言葉で語りかける。同時に隣の子供にも聞かせなければならない。

「でもそのために命を奪っちゃいけない。命は一度無くなったらもう戻らない。取り返しがつかない。だから命を取らずに、命のことを学ばなきゃいけない」

 俺は当たり前のことを言っていた。当たり前のことを伝えた。誰でも知っていることで、誰でも必ず学ぶ。目の前の子供はその最中というだけだ。
 
 彼はひと言だけ、できるの、と聞いた。

 俺はできるよと答えた。それで十分だった。それから俺は彼を連れて大家さんに謝りに行った。大家さんは許してくれて、子供は反省して家に戻っていった。話はそれで終わった。

 真道はその間、拾ったキンセンカの花をじっと見つめていた。

イベント情報

『正解するカド』オンエア5周年記念関連イベント

■7月9日(土)19:00
YouTubeプレミア公開
『正解するカド12.5話 KADO:Beyond Information』
東映アニメーションミュージアムチャンネル

■7月9日(土)21:00
「東映アニメーション主催3作品合同VRイベント」開催
『正解するカド』『怪獣デコード』『Zombie Zoo Keepers』

 『正解するカド』5周年イベント
  登壇/三浦祥朗、赤羽根健治
  進行/野口光一P

スマートフォンやPC、VR機器など、さまざまなバーチャル空間に集って
遊べるメタバースプラットフォーム Cluster にて開催!!

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