TOPICS 2021.10.08 │ 12:00

映画『神在月のこども』
スタッフが語る波乱万丈の制作秘話①

現在公開中のオリジナル劇場映画『神在月のこども』では、八百万の神が集う「神在月(かみありづき)」にあわせて、小学生のカンナが神に供えるご馳走を集めながら出雲への旅をする、という物語が描かれる。ここでは、監督の白井孝奈とプロダクションマネージャーの里見哲朗に、作品同様に波乱万丈な制作過程について聞いた。

取材・文/福西輝明

不安だらけの監督業をベテランスタッフ陣に支えてもらった

――監督をまかされた白井さんの心境はいかがでしたか?
白井 指名を受けたときは「私なんかが監督をできるのか?」という不安でいっぱいでした。アニメ制作の現場を知っていたとはいえ、作画マンとしての経験しかなく、全工程を俯瞰で見たことも、演出経験もまったくなかったので。『神在月のこども』の制作に参加したときも「演出補佐あたりをやらせてもらえたらいいな」くらいに思っていましたから。その一方で、公開日まで時間がないのに監督がいないせいで全然進まない……という焦りもあったので「ようやく監督が決まった!これで進められる!!」と踏ん切りがついた感じもして、気持ちとしては複雑でしたね。やっと監督が決まったけれど、本当に私でいいの!?みたいな(笑)。

――クリエーション監督に坂本一也さん、絵コンテに望月智充さん、音響監督に岩浪美和さんなど、各界のベテランの方々が制作スタッフに名を連ねています。白井監督はどのようなスタンスでそういった方々と制作をともにしたのでしょうか?
白井 私は監督として何をどう指示すればいいのかもわからない状態だったのですが、みなさんは監督である私の意思を尊重する姿勢を貫いてくださいました。具体的にどんなものにしたいのかパッと浮かばないときも、漠然とした方向性さえ示せば「それを形にするならこうしたほうがいいのでは」と目標へと導いてくださったんです。とくに坂本さんには多くの場面で支えていただきましたね。
里見 まるで坂本さんが先生で、白井監督が生徒みたいな感じだったよね(笑)。
白井 わからないところがあったら「坂本さん! ここはどうしたらいいんでしょうか!?」とバンバン疑問をぶつけていました(笑)。なにしろ私は打ち合わせの仕方もわからなかったので……。「じゃあ、俺が監督役をやるから、白井さんがスタッフ役をやってみて」と、発注打ち合わせの練習にも付き合っていただきました。本当にありがたかったです。

里見 側で支えてくれる坂本さんの存在があったからこそ、僕らも白井さんを監督として立てることにそれほど不安はありませんでした。「どんな作品を作りたいのか」を決定する監督が決まれば、監督の頭の中にあるものを形にする演出家をあとから連れてくることはできます。監督経験のない白井さんには苦労をかけるけれど、『神在月のこども』のイメージが固まっていて、制作スタッフも含めた全体像を把握している白井さんが旗頭(はたがしら)になってくれることで、制作上は意思決定がしやすくなるんです。だから、いきなりポイと白井さんに監督という役割を投げたのではなく、ちゃんと勝算があったからこその指名だったんですよ。
白井 逆に言うと、私は演出はできないけれど、監督ならできたというわけです。

完成したこと自体がひとつの奇跡

――では、ベテランスタッフが何人も参加しているので、里見さんとしては大船に乗った気持ちで見ていられたと。
里見 いや~、そこまで安心はできなかったかな(笑)。そもそも僕が企画に合流した時点でスケジュールに余裕がなく、戦力的にもそろっていないという危機的状況からのスタートでしたから。最短でゴールを目指すには「白井さんに監督をやってもらって、ベテランスタッフが支える」という道しかなかったんです。こうしてなんとか完成にこぎつけて、劇場で公開されただけでもすごいことだと思いますよ。
白井 自分でもふと思いますよ。この映画が完成したのは奇跡だって(笑)。
里見 本編だけでなく、その制作過程もかなり特殊で面白いです。四戸さんは「作品の中身も、制作自体も、『人の縁』によって紡がれるものにしたい」とおっしゃっているのですが、まさしく人と人のつながりで成り立っている作品だと思います。公式サイトには「制作追体験」という形でメイキングが詳細に紹介されていますが、これだけでもかなりのボリュームがあります。完成までの道のりも含めて楽しんでいただきたい作品なんです。

――すべてを作り終えた今の思いはいかがでしょうか?
白井 このインタビューを受けている時点では、まだ映画が公開されていないので、正直なところ終わったという実感がないんです。それでも、なんとか初めての監督作品を最後まで作り終えることができて、ものすごい安心感だけはありますね。endmark

白井孝奈
しらいたかな 学生時代にcretica universalが企画・実施した産学連携企画「STUDIO4℃×京都精華大」でグランプリを獲得。卒業後、STUDIO4℃のアニメーターとして『おおかみこどもの雨と雪』『かぐや姫の物語』『ハーモニー』などの作品に参加し、『海獣の子供』では作画監督助手を担当。
里見哲朗
さとみてつろう バーナムスタジオ代表取締役社長、ライデンフィルム代表取締役。これまでにプロデュースを手がけた作品に『サムライチャンプルー』『テラフォーマーズ』『うしおととら』『モンスターストライク THE MOVIE はじまりの場所へ』などがある。
作品情報

神在月のこども

絶賛上映中

  • ©2021 映画「神在月のこども」製作御縁会