TOPICS 2021.10.11 │ 12:00

映画『神在月のこども』
スタッフが語る波乱万丈の制作秘話②

10月8日に公開を迎えた完全オリジナル劇場映画『神在月のこども』。監督の白井孝奈とプロダクションマネージャーの里見哲朗の対談・第2回は、登場キャラクターの成り立ちや物語のテーマなど、作品内容に深く切り込んだ話を聞いた。

取材・文/福西輝明

カンナの走りで心の動きを表現

――白井監督は『神在月のこども』をどのような作品にしようと考えたのでしょうか?
白井 作品のモチーフとしては、「八百万(やおよろず)の神」という日本独特の神様に対する考え方を軸としています。東京から出雲への道中をたどりながら、神様に捧げるご馳走を集めていくお話のなかで、主人公であるカンナを中心としたドラマを物語の核にしたいと考えていました。さまざま葛藤とともに走ることに対して抵抗感を持っているカンナの心が、神使のウサギのシロや鬼の少年・夜叉との出会いを通じて、少しずつ変化していきます。その関係性の変化やカンナの心の成長を、ていねいに描くことを念頭に置きながら制作に臨みました。

――カンナの心の在り方によって、走るフォームが変わっていくのが印象的でした。
白井 カンナの走る姿は、制作でいちばん大変な部分でした。セリフで説明せずとも、動きひとつで内面が変わったことが伝わるように作らなければなりませんから。
里見 「走る」という動きに対してイメージする姿は、ひとりひとり少しずつ違いますよね。だからたくさんのアニメーターが参加する作品では「動きのイメージ」の意思統一をするのが非常に難しいんです。
白井 まずカンナのフォームのイメージを統一する必要があったので、制作の初期段階で総作画監督の佐川遥さんにモデルとなるフォームを、ノーマルの走りと本気走りの2パターン作っていただきました。それをスタッフで共有しつつ、中割りを動画マンにまかせず、原画マンレベルでコントロールすることを目指しました。そして、すべてのシーンひとつひとつをチェックして、フォームのモデルとつきあわせて調整を加えていったんです。「走る物語にする」と決めた時点で「これは大変なことを始めてしまった」と思いましたが、その作業は最後まで苦労しました。

主人公3人のコンセプトは迷いなく固まっていた

――カンナをはじめとするメインキャラクターの3人は、どのような人物として描こうと考えたのでしょうか?
白井 カンナは「なりたい自分」「家族の中での自分」「友達にとっての自分」など、自分自身について悩みを抱えている少女として設定しました。総作監の佐川さんの第1稿は、もっと眉が細くてナチュラルな印象の女の子でした。でも、内に何かを抱えているという部分や、一本通った芯があるところをビジュアルに込めてほしくて。それで眉が太くて目力(めぢから)が強く、立ち姿にキリっとした雰囲気のある子に修正してもらいました。
里見 男の子と見まごう、キリっとしたデザインが目を引きますよね。学校でも明るいムードメーカーだけど、どこか陰(かげ)を感じさせるところがある。そんな複雑な内面がビジュアルにもあらわれていると思います。

――シロについてはいかがでしょうか?
白井 シロはカンナを神様たちの世界へといざなうナビゲーター役です。3人が並んだときのバランスを考えて小さくてかわいらしく、そして柔らかさが伝わるような存在としてデザインしてもらいました。丸い眉をしていたり鈴のついた首輪をつけていますが、作品の世界観と照らし合わせて、あまりデフォルメはせず、身体の構造は現実的でありながらも細かいところまでは追わず、シンプルなデザインにまとめていただきました。

――夜叉についてもお願いします。
白井 夜叉は人外の「鬼」ですが、種族の違いを超えてカンナと対等の立場でやりとりできる存在にしたいと思っていました。同時に、カンナのお母さんである弥生とも対等に付き合える存在であってほしかったんです。弥生が母としての顔ではなく、ひとりの女性であり「韋駄天」としての一面を見せるのは、夜叉とのシーンだけですから。カンナと並ぶと夜叉のほうが少しお兄さんに、そして弥生と並ぶと年の離れた弟に見えるよう、身体の大きさや年齢感のバランスを考えました。
里見 あらためて3人が並んだところを見ると、バランス的にとてもまとまっていますね。最初の白井さんのイメージからそれほど大きく変えてはいません。目指すものがはっきりしている作品だなというのは、最初にこの3人を見たときから感じていました。

作品情報

神在月のこども

絶賛上映中

  • ©2021 映画「神在月のこども」製作御縁会