八百万の神々は意外と身近なところに
――本作には個性的なビジュアルと鮮やかな色彩で構成された八百万の神々が登場します。作中でこれらの神様たちを描くうえで、どのようなことを心がけたでしょうか?
白井 神社だけでなく、道中のいろいろなところに神様がいることが伝わるよう意識しました。人間の世界と神様の世界は別々に存在するのではなく、私たちが普段気づかないだけでごく身近にいるのだということを表現したかったんです。だからカンナが神様の世界を旅する最中も、非現実的なものとしては描かず、親しみやすい存在として映るようにしました。
里見 物語前半で出てくる、いろいろな神様たちは見ていて楽しかったですね。大物がドンと出てくるよりも、神社や身近なところにこんな神様がいるんだ、という驚きと楽しさが味わえたかなと思います。
白井 作中にはゴロゴロ坂を転がってくる「山の神様」が登場するんですが、こういう変わり種の神様は私も気に入っています。打ち合わせ前は自分でも今ひとつイメージを固めきれなかったのですが、その場でパパっと描いていただいた山の神様のデザインが面白くて、ひと目で気に入ってしまいました。
人の「縁」がつないだキャスティング
――本作のキャスティングは、カンナをはじめとする人間たちは実写映画やドラマで活躍している俳優の方々、そしてシロや夜叉といった人間以外の神様はアニメでよく耳にする声優の方々と、明確に分かれていますね。
白井 統括プロデューサーのオシアウコさんからいただいたアイディアなんですが、人間たちのリアルなドラマは実写で活躍する俳優さんに、そして神様については「非現実的ながらリアルな存在感」を声で表現していただくため、声優の方にという形で配役を分けたんです。
里見 プロデューサーとして関わっているスタッフのひとりが俳優の方々とつながりがありまして、早い段階で、このキャラクターはこの人というイメージを固めてお声がけしました。
白井 声優陣で最初に決まったのは大国主役の神谷明さんなのですが、そのあと高木渉さんのお声がけで坂本真綾さんや入野自由さん、茶風林さんといった豪華なキャストが集まってくださいました。
里見 じつは神谷さんは、本作の初期段階から制作に関わってくださっているんです。四戸さんたちの作品に対する情熱や、企画そのものに感銘を受けていらっしゃったようで、いろいろな面でご協力いただきました。背景美術をお願いできるところがなかなか見つからないという話をしたところ、神谷さんが「じゃあ、知り合いにちょっと聞いてみるよ」といって、背景美術を手がけている会社に話を通してくださったんです。
――それはまた、意外なつながりですね。
里見 神谷さんも、本作の企画にスーパーバイザーとして参加している諏訪道彦(すわみちひこ)さんからのお声がけで参加してくださった、という経緯があります。『神在月のこども』はそんなふうに人と人とのつながりでチームが出来上がり、作られていった作品なんです。私も長年、アニメ制作に携わっていますが、『神在月のこども』ほど特殊な成り立ちで作られた作品は見たことがありません。
――では、最後にこれから本作を見る方に向けてメッセージをお願いします。
白井 葛藤を抱いたカンナが悩みを乗り越えていく姿は、年齢や性別に関係なく、どんな方の心にも届くものだと思います。とくに今は新しいことに踏み出したり、挑戦するということがなかなか難しい状況です。でも、この作品はそんなみなさんの背中をそっと押せるものになっているはずです。ぜひ本作から、自分を信じる思いや、前に進もうとする心を感じ取っていただければと思います。
里見 映画の制作も物語の中身も、「縁」と「旅」という言葉に集約します。企画の始まりから3年ほどかかりましたが、長く困難な旅を乗り越えて、ようやくみなさんにお届けできるかたちになりました。ぜひ多くの方に、我々の旅の結果を見届けていただけるとうれしいです。
- 白井孝奈
- しらいたかな 学生時代にcretica universalが企画・実施した産学連携企画「STUDIO4℃×京都精華大」でグランプリを獲得。卒業後、STUDIO4℃のアニメーターとして『おおかみこどもの雨と雪』『かぐや姫の物語』『ハーモニー』などの作品に参加し、『海獣の子供』では作画監督助手を担当。
- 里見哲朗
- さとみてつろう バーナムスタジオ代表取締役社長、ライデンフィルム代表取締役。これまでにプロデュースを手がけた作品に『サムライチャンプルー』『テラフォーマーズ』『うしおととら』『モンスターストライク THE MOVIE はじまりの場所へ』などがある。