画集の表紙は一枚の「絵画」として完成させたかった
――画集の顔となるカバーイラストについて、その誕生の背景から聞かせてください。
館田 もともと美術作品、とくに19世紀末から20世紀初頭にかけての絵画が好きでして、アルフォンス・ミュシャやJ・C・ライエンデッカーの作品にはとくに心惹かれます。彼らの作品のように、理屈ではなくひと目で見る者の心をつかむ、感性に直接訴えかけるような表現を、現代のイラストレーションという形でどうにか実現できないか、という試みからこのイラストは生まれました。自身のオリジナルキャラクターを、そうした絵画のテイストに重ね合わせて描いています。
――その絵画からの影響は、構図や色彩、具体的な表現技法にどのように反映されていますか?
館田 画集の表紙ということで、「作品」としての強度を意識しています。構図については本当に最後まで悩みました。他の絵画を参考に、たとえば水辺と女性という古典的なモチーフをテーマにしたラフも複数制作しました。その中には、キャラクターがピクニックをしているような、少しストーリー性を感じさせるものもありました。色彩に関しても、ラフの段階からかなり作り込んでいます。とくに今回のカバーイラストは、背景を含めた全体の空気感を大切にしたかったので、キャラクターだけでなく、空間全体の色調を初期から慎重に検討しました。
――通常のキャラクターイラストとは異なるアプローチだったのですね。
館田 はい。キャラクターが主役のイラストでは、まずキャラクターを魅力的に見せることを最優先し、背景の色などは後から調整することも多いのですが、今回は一枚の「絵画」として成立させたいという思いが強かったです。最終的なデザインは、担当編集の方やデザイナーさんの客観的なご意見も大いに参考にさせていただき、決定に至りました。どうしても作り手は自分の作品に贔屓目になりがちですから(笑)。

――完成したイラストを拝見しますと、透明な素材が重なっているかのような、奥行きのあるレイヤー表現が非常に印象的です。これはどのようなアイデアから生まれたのでしょうか?
館田 それはデザイナー様の素晴らしい発想です。最初にご提案いただいたとき、立体的なオブジェクトと平面的なデザインが融合するような表現は、自分にとっては初めての試みで、非常に新鮮でした。実際に描いてみると、絵画が持つ重厚感と、現代イラストならではの軽やかさやデザイン性が両立できるのではないかと感じ、大きな手応えがありました。印刷されたときにどのような仕上がりになるのか、今からとても楽しみです(取材は2025年6月3日実施)。
イラスト投稿サイトのおかげでネガティブな固定観念が覆った
――ここからは、館田さんご自身の歩みについて伺いたいと思います。絵を描き始めたのはいつ頃で、どのようなきっかけだったのでしょうか?
館田 物心ついた頃から絵を描くのは好きでしたが、はっきりとした記憶として残っているのは幼稚園の「お絵描きの時間」ですね。そのとき、たしか秋の虫を描くというテーマで、絵本を見ながらバッタの絵を描いたんです。それが先生にすごく褒められて、子供心にとてもうれしかったのを覚えています。ただ、絵を描くことに対する評価は必ずしも良いものばかりではありませんでした。その次に描いた絵は「前回のほうが上手だったのにどうしたの?」と言われたり(苦笑)。
――周囲と比べて、自身の絵に対する評価はどうでしたか?
館田 それが、あまり芳しくなかったんです。小学生の頃、仲の良い絵を描くのが好きな友達グループがあったのですが、その子たちは主に当時流行していた少女マンガ風の絵を描いていました。一方、私は相変わらず魔法少女のような、どちらかというとアニメ寄りの絵を描いていたので、「なんでそんな絵を描いてるの? ちょっと変だよ」とか、もっとストレートに「絵、下手だよね」と言われたりしていました。子供同士なので容赦がないんですよね(苦笑)。そのときは、純粋に「自分は絵が下手なんだな」と思い込んでいました。
――それは少し辛い経験ですね。そこから、絵に対する自信を取り戻すきっかけはあったのでしょうか?
館田 大きな転機になったのは、高校生の頃です。それまではずっとアナログで絵を描いていたのですが、高校に入って初めてペンタブレットを使い、デジタルでイラストを描き始めたんです。そして、それを当時流行していたpixiv(ピクシブ)のようなイラスト投稿サイトにアップロードしてみたところ、それまでとは比べ物にならないくらいたくさんの方から好意的なコメントや評価をいただけたんです。「あれ? もしかして自分の絵ってそんなに悪くないのかもしれない?」と、そこで初めて、それまでの自分の絵に対するネガティブな固定観念が覆りました。美術の授業の成績も決して良いほうではなかったので、ネットの世界で自分の絵が認められたことは、本当に大きな衝撃でしたし、その後の自分の進路を決定づける出来事になりました。
――イラストの専門学校を卒業後は、ゲーム会社に就職したのでしょうか?
館田 はい。学生時代にインターンシップでお世話になったゲーム会社に、そのまま新卒で入社しました。会社では絵を描く側の人間が見る「上手い絵」と、絵を描かない一般のユーザーが感じる「魅力的な絵」とでは、視点や評価軸が大きく異なるということを痛感しました。たとえば、学生時代はデッサンの正確さや技術的な巧みさが評価の大きな基準でしたが、実際のゲーム開発の現場では、それ以上に、一瞬でユーザーの心をつかむような「華」や「惹きつける力」、あるいはそのキャラクターが持つストーリー性や感情が伝わるか、といった感性的な部分が非常に重要視されるのだと学びました。


――その後にフリーランスとして活動していますが、最も楽しいと感じることは何でしょうか? また、逆に大変だと感じることは?
館田 いちばん楽しいのは、やはり自分の裁量で、自分の好きなように絵が描けるということですね。会社員時代は、プロジェクトの方向性や絵柄の統一など、さまざまな制約の中で描くこともありましたが、フリーランスになってからは、よりダイレクトに自分の表現したいことを追求できるようになったと感じています。大変なことは、やはり会社という組織に守られていない、という現実ですね……。スケジュールの管理から経理処理、健康管理に至るまで、すべて自分ひとりで行わなければなりません。とくに独立当初は、その生活リズムの切り替えに苦労しました。
ファンが「生きているキャラクター」として感情移入してくれる
――次に、館田さんのライフワークともいえるオリジナルシリーズ『お嬢様やめたい』について伺います。この画集にも多くのイラストが収録されていますが、このシリーズはいつ頃から、どのくらいの年数をかけて描いているのでしょうか?
館田 『お嬢様やめたい』シリーズを本格的に描き始めたのは、4年くらい前になりますね。最初の同人誌を2021年の冬のコミックマーケットで発表しました。それ以来、本当にたくさんのイラストを描いてきました。具体的な枚数は自分でも正確には把握できていないのですが、画集に収録したものだけでもかなりのボリュームになりますし、イベントで頒布したグッズ用のミニキャライラストなども含めると、おそらく100枚は優に超えていると思います。


――登場するキャラクターたちも非常に個性的で魅力的です。メインとなる女の子について、あらためて紹介してもらえますか。
館田 主人公の女の子は、いわゆる「お嬢様」なのですが、じつはそのお嬢様らしい生活に少し窮屈さを感じていて、「もっと普通の女の子のように、庶民的な生活を送りたい!」と願っている子なんです。その育ちの良さと、内に秘めた庶民的な願望とのギャップが、彼女の魅力かなと思っています。
――他にもユニークなキャラクターたちが登場しますね。新しいキャラクターは、どのような経緯で生まれてくるのですか?
館田 物語を進めていくうえで、既存のキャラクターたちの関係性に新しい風を吹き込むために、「こういうタイプのキャラクターがいたら、もっと世界観が広がるな」といった、キャラクター配置のバランスを考えながら登場させています。
―― 館田さんはコミックマーケットなどのイベントにも積極的に参加していますが、ファンの方と直接交流するなかで、何か印象的なエピソードはありましたか?
館田 やはり、自分の描いたキャラクターに対して「この子が好きです!」と熱い思いを直接伝えていただけるのは、何よりもうれしいですね。また、少しシリアスな表情や、泣いている絵を描いたときには、ファンの方から「うちの子を泣かすな!」とお叱り(?)の言葉をいただいたりすることもあります(笑)。それは、ファンの方々が本当にキャラクターたちを生きている存在として捉えて、感情移入してくださっている証拠だと感じ、とても励みになるんです。

――イベントに参加することの意義は、そういったファンの方との直接的なコミュニケーションにあるのですね。
館田 はい。会社員として組織の中で描いていた頃は、ユーザーさんの反応は主にネットを通して間接的に伝わってくるものでした。でも、イベント会場で直接ファンの方とお会いし、自分の作品について語り合ったり、応援の言葉をいただいたりすると、「ああ、自分の絵はちゃんと人に届いているんだな」「この人たちの日常の中に、自分のキャラクターたちが存在しているんだな」と、その温かさや重みを肌で感じることができます。それは、創作を続けるうえで本当に大きな力になっています。
- 館田ダン
- かんだだん ゲーム会社勤務を経てイラストレーターとして活躍。代表作のオリジナル作品「お嬢様やめたい」をはじめ、人気VTuberのデザイン、ゲームやライトノベルなど幅広いジャンルを手掛ける今話題のイラストレーターのひとり。

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- ©館田ダン/一迅社