監督として絵作りからはあえて距離を取った
――作画について聞きたいのですが、千束(ちさと)とたきなをはじめ、本当にキャラクターたちが生き生きとかわいらしく描かれていますね。
足立 ありがとうございます。自分はこれまで作画のセクションで仕事をしてきましたけど、今回は現場ではほぼ絵を描いていません。演出部分と作画部分を両立できるほどの才能もスケジュールもありませんから(笑)。なので、欲張らずに脚本、演出面に注力しました。千束たちをかわいいと思っていただけたなら、それは副監督の丸山裕介くんや作画のリーダーである山本由美子さんをはじめとする、スタッフの力によるものです。
――本作では絵コンテやシナリオに注力したと。
足立 そうです。そこは僕にしかできない部分なので、今回はそちらに全力投球をしました。押さえるべき芝居などは、絵コンテでコントロールしています。現場に入ってから監督チェックの工程があると、ボトルネックになりますからね。
――進行的に厳しくなる恐れがあるということですね。
足立 今回の現場ではそれがもっとも効率的だと考えました。本来、チェック工程は少ないほどいいですし、演出がカットを長く持っていても作画がよくなることはありませんから。
優先したのは必要な台詞よりもリアクション
――千束とたきなのふたりはリコリスの制服とリコリコの和装、さらに私服もバリエーションに富んでいますね。
足立 「私服がたくさん登場する」という印象があるのはとてもうれしいですが、衣装設定としてはそこまで数を用意しているわけではないんです。現時点だと私服のシーンが多かったのは第4話くらいのはずです。だから、そういうイメージがあるのは、おそらくOPアニメの影響じゃないかなと思います。
――たしかにOPでは私服のカットが多いですね。
足立 主役が女の子ですからね。できるだけいろいろな衣装を見たいじゃないですか。でも、本編で何パターンもの私服を用意するのは作画と制作への負担が大きいので、作中では描かれていない時間を視聴者にイメージしてもらうために、OP・EDでは意識的にオフショットを作りました。毎回流れますからね。
――なるほど、術中にハマりました(笑)。千束は自然体のお芝居もあいまって、かなり個性的なヒロインになっていると思います。
足立 千束が愛されるキャラクターにならないと話にならないと思っていたので、とにかく人間くささを出したかったです。怒るし、拗ねるし、喜ぶし、相手の発言に対して普通に起きる感情を、物語に必要な台詞より優先して考えています。それは全キャラそうなんだけど、とくに千束は主役ですから、とくにそのリアクションは面白くなきゃいけない。彼女の性格を明確にデザインすることが最優先で、できてしまえば千束が勝手にしゃべってくれましたね(笑)。あとは、千束役の安済知佳さんが期待以上に自然体な千束を表現してくれていて、さらに魅力的なキャラクターになったなと感じています。
――キャスト陣にはどのようなディレクションをしましたか?
足立 リコリコのメンバーには「アニメキャラクターっぽくなくていいので、普段、友人や家族としゃべっている雰囲気とテンションでお願いします」と伝えました。クルミ役の久野美咲さんに「絵には引っ張られずに、大人の女性として演じてほしい」とオーダーしたくらいで、皆さんと一緒にキャラクターを作っていくつもりでした。
――ミズキも面白いお芝居ですね。
足立 小清水亜美さんは考えていた以上に面白くキャラクター付けをしてくれました。ミズキについては、プリプロ段階では足立も明確にイメージができていなかったんですよね。小清水さんがミズキを作り上げてくださったと思います。第1話のアフレコ後は、小清水さんのイメージであとの話数のミズキの台詞を再調整しました。台詞が小清水さんの声で再生されるようになってからは、後半の脚本がより書きやすくなりましたね。
――ミカ役のさかき孝輔さんは主に外画の吹き替えで活躍している方ですよね。
足立 映画や海外ドラマを吹き替えで見るのが好きなので、オーディション前の打ち合わせでも音響監督の吉田(光平)さんとずっと吹き替えの話をしていたんですよ。「このキャラクターはこの海外ドラマのこの役の声のイメージです」みたいなことを延々と話していたから、結果的に吹き替え経験豊富なキャストさんに参加していただけたのかもしれません。
千束の「才能」と今後のストーリー
――千束の「神がかり的な動体視力」という特殊能力はどこから生まれたのですか?
足立 動体視力ではなく、観察力なんですけどね。人間が行動を起こすには必ずその前兆があり、銃口を向けられていたとしても、相手がトリガーを引くつもりなのか否かは、目や筋肉の微細な動きを捉えられる千束にはわかる。引くと決めてからも、脳が指令を出し、指先が動くまでにも時間がかかり、トリガーを引くのにも、バレルから弾丸が出るまでにも時間がかかる。人間が次に行う行動を瞬時に理解できれば、弾丸には当たらない。弾丸を、瞬間的に出現する殺傷力のある「小さな点」だと捉えれば、その点が出現するときに身体がそこになければ当たらない……。なーんてね(笑)。主人公には何かしら特別な才能が必要だろうということで、企画段階では単純に「銃の扱いがうまい」だったんですけど、それを映像で表現するためには『ジョン・ウィック』レベルのフィルムを作る必要があるし、TVシリーズでそれをやるのは難しいと思いました。もっと明快に視聴者に「特別な才能」ということが伝わるものは何だろうと考えたんですが、難しかったですね……いろいろ考えた結果、前述の千束の能力となりました。
――千束の「才能」はアラン機関の話とリンクしていて、作中におけるひとつのテーマにもなっていますよね。
足立 そう。才能って自覚しないもんだし、他人から指摘されても自分はそう思わないもんでしょ。才能じゃなく努力だ!って思うかもしれないし……。他人が観測する自分の才能や、それに付随する周囲の期待は、自分の認識とはわりと乖離があるもんだと思うし、誰しもそれに悩んだ経験はあるんじゃないかな? 足立にしたって、脚本や演出なんかやっていないで、絵描いていろよ!って思う人もいるでしょ?(笑) わかるよぉ?(笑) アラン機関は「あなたの才能はこれで、この生き方があなたにも世の中にとっても最善なんだ!」と言ってくる存在です。それに救われる人もいると思うけど、それがすべてじゃないこともたぶんみんな知っているよね? 千束はどんなアンサーを出すんでしょうね。
――なるほど。次の第7話が楽しみです。
足立 それに、千束にはふたりの親がいますからね。子に対する彼ら親の考えにも耳を傾けてほしいです。
- 足立慎吾
- あだちしんご 大阪府出身。アニメーター、キャラクターデザイナー、アニメーション監督。代表作は『WORKING!!』(キャラクターデザイン・総作画監督・作画監督・OP&ED作画監督)、『ソードアート・オンライン』(キャラクターデザイン・総作画監督・作画監督補佐・OP&ED作画監督)、『映画大好きポンポさん』(キャラクターデザイン)など。
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