TOPICS 2022.06.28 │ 12:00

2期放送直前!『メイドインアビス』を振り返る特集
監督・小島正幸インタビュー

小さな“探掘家”が超ド級にハードなストーリーを繰り広げる、異色ファンタジー『メイドインアビス』。一切妥協しない描写の数々が話題を呼んだこのアニメ版は、いったい何を達成したのか。ひと癖もふた癖もある原作をアニメ化したのは、ベテランの小島監督。制作の舞台裏をじっくりと聞いた。

取材・文/宮 昌太朗

※雑誌Febri Vol.44(2017年10月発売)に掲載されたインタビューの再掲です。

アビスの人たちは、今の日本人のメンタルとはまるで違うから面白い

――シリーズ構成の倉田(英之)さんとは今回が初顔合わせですが、物語の構成はどのように固めていったのでしょうか?
小島 まずひとつ大きかったのが、ナナチのエピソードにある程度決着をつけるということですね。あと、原作の第3〜4巻あたりまで描くとしたら、冒頭のプロローグ部分をどうしようか、と。原作をお読みいただければわかるんですが、リコたちが旅立つまで、けっこうな分量があるんです。僕としては3話くらいまでで収めたいと考えていたんですが、その中でアビス自体の設定も説明しなければいけないので、これは大変だな、と。

――描かなければいけない情報量が多いわけですね。
小島 そこで、言い出したのは黄瀬さんだったと思うんですが、最初にリコがレグと出会う場面から始めるのはどうだろう?と。すごくいいアイデアだと思ったんですけど、そうするとお話を進めつつ、『アビス』の世界観を少しずつ説明しなければならない。最終的には、倉田さんにそこをうまく配分していただいて、きれいにまとめることができました。

――なるほど。そして、物語の中盤で大きな役割を担っているのは、やはりオーゼンですよね。非常に癖のあるキャラクターだと思うんですが……。
小島 原作を読んだときは、オーゼンのキャラクターをつかみ切れないというか、ぽわんとした状態だったんです。ただ、アニメでは、オーゼンの人間性を描く上でライザとの回想が入る場所を変えていて。そこは倉田さんに構成をやっていただいたところなんですが、アニメではライザとオーゼンの会話を原作より後ろに――第8話の最後に持ってきているんです。内容は原作と同じなんですけど、構成し直すことによって、オーゼンというキャラクターがすごくよくわかるようになった。

――彼女なりの目的というか、原理のもとで動いていることがわかる。
小島 やっていることはヒドいんですけど(笑)、この人なりに理にかなったことをやっているんだな、と。最後にそれを描くことで、これまでの行動なりがより明確になったかな、と思います。

――一方、第10話からは原作でも人気の高いナナチが登場します。
小島 ナナチは見た目からして可愛いので、皆が好きになるキャラクターだと思います。ただ、魅力的なのは見た目だけではなくて、内に秘めたバックボーンの部分ですよね。とくに、一緒にいるミーティとの関係性とか在り方がすごく魅力的で。そのあたりを丁寧にやっていけるといいな、と。

――結果として、生死を正面からしっかり描くことになりましたね。
小島 原作からしてそういう作品ですからね。面白いなと思うのは、アビスにいる人たちというのは、今の日本人のメンタルとはまるで違うんですよ。第2話で、ライザが死んだんじゃないかということなって、オースの街の人たちがお祝いをする。そこからして、僕らの死生観と異なっている。

――たしかに、その通りですね。
小島 リコがアビスに行くと言い出したときも、当初は反対していたナットも最終的には彼女を行かせるわけです。普通に考えて、子供をあんな危険な場所に行かせるなんて、日本じゃありえないことなわけで。そもそもの価値観が、アビスの人たちと僕らでは異なっている。もっと言えば、『メイドインアビス』は、アビスの魅力に縛られている人たちの話なんです。その“日本人のメンタルでできていない”というところが、この作品の魅力だな、と。

――アビスの魅力と自分の生死を天秤にかけると、前者が勝ってしまう。
小島 ミーティのエピソードにしても、かなりシビアな話ですよね。レグがとった行動をどう捉えるか、という話になるわけですけど、彼も決して愛情がないわけじゃないんです。愛情という部分に関して言えば、僕らと何も変わらないんだけど、そこに対する行動が全然違う。なので、今の日本人の価値観で「レグはおかしいんじゃないか」と判断してほしくない。そういう気持ちはあります。

『アビス』は、これまでのキャリアで培ってきたことが生かせる作品

――監督から見て、リコとレグの魅力はどこにあると思いますか?
小島 リコはすごくメンタルが強いですよね。第10話を見てもわかると思いますが、自分が死にそうになっているにもかかわらず、何をしなければいけないかが、ちゃんとわかっている。まだ子供だし、経験も浅いですけど、ちゃんと判断する力がある。そういう意味では、レグのほうが精神的に弱い。

――そうですね。
小島 ある意味、見ている人たちの目線にいちばん近いのがレグで。アビスから来たんだけど、その記憶はなくて、見るものすべてが彼にとっては初めてのものだったりする。そこは、かなり意識したところです。

――本作は監督が自らコンテを担当しているエピソードも多いですよね。TVシリーズでは、なかなか大変そうだなと思ったんですが……。
小島 時間さえあれば、できるだけ自分で絵コンテをやりたいんですよね。とくに今回の『アビス』は世界観を表現するのに、画面の色合いだったり、光や影を計算に入れなければ、と思っていて。さすがに色までは反映できないですけど、陰影やライティングについては、コンテの段階で押さえておこうかな、と。そういう意味でも、自分でコンテをやっておけば絵作りが楽になるんじゃないかなと考えていました。

――たとえば、第2話の後半、リコがリーダー(ジルオ)と会話している場面などは、ふたりの会話の内容が光と影でうまく演出されていて印象的でした。
小島 TVシリーズでできる限りのことは、やっておこうと(笑)。光と影で人間の心理的な部分を表現するというのは、ある程度、計画的に組み立てておかなければいけないところで。とくに今回はそういうリアリティが大事になると思っていました。

――マンガっぽい絵柄なんですけど、画面作りは非常にリアリティを重視したものになっていますよね。
小島 原作からして、そうですからね。こういう絵柄なんですけど、やっていることはリアルで。なので、最初に読んだときから「やりがいがあるな」「僕が立ち入る要素がたくさんあるな」と思っていました。

――では最後に、小島監督は80年代からアニメを作り続けている大ベテランなわけですが、『アビス』は監督にとってどんな作品になりましたか?
小島 画面作りも含めて、これまでのキャリアで培ってきたことが生かせる作品だな、と。基本的に僕は人間を描くことが好きなんですけど、原作はキャラクターの存在感も含めて、固定観念から外れたところで作っている感じがしたんです。キャラクターが何を考えて、どう行動するのか。そこをちゃんと追っていくのは、僕の好きなスタイルだな、と。そういう意味でも、すごくやりがいのある作品でした。endmark

小島正幸
こじままさゆき 1961年生まれ、山梨県出身。演出家・アニメーション監督。主な監督作に『あずきちゃん』『花田少年史』『MONSTER』『ブラック・ブレット』など。
作品情報

TVアニメ『メイドインアビス 烈日の黄金郷』
2022年7月6日より放送

  • ©つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会