現代音楽のユニークさが、『アビス』の世界観と合うと思った
――本作は、なかなか他では聞くことができないユニークな音楽もポイントです。ケビンさんは作品に対して、どんな風にアプローチしたのでしょうか?
ケビン いただいた原作からインスピレーションを受けて、イメージを膨らませるところから始めました。原作を読みながら、こんなシーンにこういうキャラクターが出てくるなら、どんな音楽がマッチするかな、と。それをもとにまずは10曲ほどデモを作って、小島監督や音響監督の山田(陽)さん、スタッフの方たちに聞いていただきました。当初は、原作の世界観がとてもユニークなので、そこに対して現代的なアプローチの音楽をつけたいという気持ちがありました。
――単純なオーケストラではない曲も多いですよね。
ケビン 僕はコンテンポラリーミュージックの学校に通っていたのですが、そこではクラシックと並行して、現代音楽も勉強するんです。リズムもハーモニーもクラシックとはまったく違う、現代音楽のユニークなところが、『アビス』の世界観とは合うのではないか、と思っていました。
――具体的に参照した作家というと?
ケビン 参照ではないですが、アメリカで活動するニコ・ミューリーやアイスランドのバンドや作曲家――たとえば、シガー・ロスやベン・フロストなどは、僕が面白いと思って影響を受けている作曲家です。あとは、スティーブ・ライヒやジョン・アダムズのようなミニマリスト。どれもすごく面白いサウンドなんです。
どの場面にどの音楽がつくのかはおまかせしているので、毎週驚かされています
――今回の音楽の制作中に、何か心がけたことはありますか?
ケビン 『アビス』はメインになる登場人物がリコとレグ、あとはナナチ。2〜3人の小さな子供たちが、すごく巨大なアビスという空間にいる。その対比のイメージに、とても興味がありました。それをどうやって音楽に反映するか考えていくなかで、少人数のオーケストラを大きなレコーディングスタジオで録ってみるのはどうだろう?と。
――音楽を収録したときの状況と、レグたちのシチュエーションを重ね合わせているわけですね。個人的に気に入っている曲はありますか?
ケビン 『Hanezeve Caradhina』です。斎藤洸(SNARE COVER)さんに歌っていただいたんですが、その歌声が本当に素晴らしかった。第1話の挿入歌として使われていたのも、うれしかったです。
――非常にドラマチックな曲でした。
ケビン あともうひとつ挙げるなら、ナナチのテーマ『Nanachi in the Dark』が好きです。ナナチには明るいライトなテーマとダークなテーマの2曲があるんですが、後者ではシンセサイザーのバスーンの音を使っているんです。その音色が、なぜかはわからないんですけど、すごく気に入りました。ベースシンセサイザーの汚れた音色とのマッチングも面白いです。
――完成した映像をご覧になっていかがでしたか?
ケビン キネマシトラスの仕事は、本当に完璧だと思います! 音楽の話から外れてしまうんですが、物語も美術も本当に素晴らしくて、僕が音楽を作っていなかったとしても、きっとファンとして楽しんでいたんじゃないかと思います(笑)。どの場面にどの音楽がつくのかは完全におまかせしていて、それこそファンの皆さんと一緒のタイミングで見ているんですが、毎週、驚かされています。
――では最後に、作品のファンの方たちにメッセージを。
ケビン 今回、これだけユニークな仕事ができて、光栄だと思っています。原作もアートディレクションも本当に素晴らしい作品なのですが、その上で音楽もかなりわがままに作らせていただけて感謝しています。現時点では、じつはまだ放送途中だったりするので、最後のエピソードがどんなものになるか……今から楽しみにしています!
- Kevin Penkin
- ケビン・ペンキン 1992年生まれ、オーストラリア・パース出身。18歳のときに植松伸夫とのコラボレーションでデビュー。主な参加作品に『ノルン+ノネット』『Under the Dog』など。