TOPICS 2024.09.21 │ 18:00

北村翔太郎が初監督作で描きたかった
『負けヒロインが多すぎる!』の「空気感」②

今夏クールの話題作『負けヒロインが多すぎる!』にて初監督を務める俊英・北村翔太郎へのインタビュー。後編となる第2回では、自身が絵コンテを担当したエピソードを中心に各話のポイントを振り返りつつ、最終話に向かって盛り上がる終盤の見どころを語ってもらった。

取材・文/太田祥暉

コストがかかっても妥協できなかった料理作画

――第2回では監督が絵コンテを担当したエピソードを中心に、中盤までのシリーズを振り返っていきたいのですが、まず全話を通して、モブキャラクターの配置や動かし方にこだわりを感じました。
北村 画面の空気感を重視したとき、温水たちとは別の軸で動いているキャラクターにも彼ら、彼女らの物語があるはずなので、そういう部分はちゃんと見せていこうと考えていました。すべて動かしてしまうと作画班が力尽きてしまいますけどね(苦笑)。モブが女の子同士なことが多いのは、アニメーターさんのアドリブです。コンテ段階では「カップル感が欲しい」くらいしか指示を出していないんですけど、結果的に百合要素多めな感じになりました(笑)。

――百合好きを公言している北村監督の意図かと思っていました(笑)。また、八奈見が食べるご飯をはじめ、料理がおいしそうに見えることも印象的です。
北村 八奈見は食いしん坊なキャラクターなので、料理をおいしく見せたい、というこだわりはありました。プロップデザインの木藤(貴之)さんに「料理作監」として立っていただいて、第1話のファミレスシーンに始まり、お弁当、ちくわ、バーベキュー、五平餅とさまざまな料理を丁寧に描いていただいています。かなり作画コストがかかっているんですけど、こればかりは妥協できなかったですね。

他のアニメではあまり見られない、ある設定

――第1話では、八奈見たちが階段を降りてから、ぐるっと廊下にカメラが向くカットがあります。ここもかなり作画コストが高そうだと感じました。
北村 そうですね。いちばんスケジュール的に余裕がある第1話だからやらせていただけたカットですね(笑)。実写のドラマや映画ではよくこういったカメラワークがありますが、この作品では実写的なニュアンスを出したかったので採り入れることにしたんです。あ、実写的といえば、他のアニメではあまりやっていないことがありまして……。

――(八奈見のキャラクター設定を目にしながら)あ、キャラクターの影付けパターンが複数あるんですね。
北村 そうなんです。通常のアニメではキャラクターの影付けの設定を1パターンしか作らないと思うんですが、この作品では屋内のシーンでも明るめのところと暗めのところでライティングのパターンを変えているんです。これは八奈見に限らず、温水や檸檬、小鞠も同様ですね。現実でも、日向と部室とではたとえ明るさが同じくらいであっても影の色は変わるはずです。なので、作画の打ち合わせでも「このカットはこのライティングで」とお願いするようにしました。

――そんな手間がかかっていたんですね……! 第2話では、温水と檸檬の「体育館イベント」がインパクトたっぷりでした。
北村 アニメファン的には定番のシチュエーションですけど、定番だけにそのままお出しすると面白くないなと。原作も「王道から少し外す」ことがテーマになっているので、芝居の流れをリアルにするよう意識しました。えっちな展開ではあるんだけど、決していやらしくならないように気をつけています(笑)。

――次に監督が絵コンテを担当したのは第4話。小鞠の告白から温水と八奈見の距離感、勘違いからの玉砕といういろいろな要素がギュッと凝縮されたエピソードでした。
北村 ちょっと構成が駆け足ですよね(苦笑)。なので、見た人がただ振り回されて終わらないように、温水が観測している視点を大切にしながら組み立てていきました。後半、温水が草介と言い争うシーンは、モデルになった高校にも実際にあずまやがあって、ロケハン時の様子を思い出しつつ、夏の雰囲気が出るように意識して絵コンテを描いていました。

第11話は「北村濃度がとくに高い」絵コンテ

――学校内だとカメラワークもかなり限られそうですけど、その制約を感じさせない画作りが面白かったです。
北村 そういう意味では僕の担当回じゃないですけど、小原(正和)さんが絵コンテを担当された第5話の文芸部室内も面白かったですよね。素麺の箱で埋め尽くされているのに、誰も突っ込まずに話していくという……(笑)。ああいうシーンも膨大なロケハン写真があったからこそできたのかもしれません。同じ第5話だと、自販機近くでの志喜屋先輩と温水のシーンは当初「攻めすぎた」絵コンテが上がってきて、リテイクになったんですよ。「こんな画を思いつくんだ!?」と個人的には興奮していたんですけどね(笑)。

――かなうなら見てみたかったです(笑)。第7話では時計の針を使った表現が印象的だったのですが、あれはどういった意図だったのでしょうか。
北村 気をてらわずに檸檬と光希の関係を描きたかったんです。ストレートに表現するために、セリフの裏に隠れている心情を描こうと月明かりや時計を使ったんですよね。印象深く感じていただけたのたなら成功です(笑)。

――このインタビュー時点では放送前なのですが、第11話も監督が絵コンテを担当していますね。
北村 はい。詳しくは「お楽しみに……」なのですが、この作品にはまだギアチェンジがかかる瞬間が残っているので、そこを期待して待っていただきたいですね。そして小鞠編はこれまでのエピソードと比べて、温水にもたくさん変化が起きるお話なので、彼がどういう行動に出るのか……最終話が近づいていることもあって、温水と小鞠の関係がどうなるのかもあわせて注目しながら見ていただけるとうれしいです。アニメーションプロデューサー曰く「僕(北村)の濃度がとくに高い絵コンテ」になっているようなので(苦笑)、ぜひ画にも注目してください!endmark

北村翔太郎
きたむらしょうたろう OLMで制作進行としてキャリアを開始し、2018年に『ゾイドワイルド』演出家としてデビュー。本作で初監督を務める。主な参加作品に『SHAMAN KING』『かぐや様は告らせたい -ファーストキッスは終わらない-』など。
作品情報


『負けヒロインが多すぎる!』
TOKYO MX他にて毎週土曜24時00分より放送中!

 

『負けヒロインが多すぎる!』
Blu-ray & DVD vol.1
[品番]
ANZX-17221(Blu-ray)/ANZB-17221(DVD)
[価格]
8,800円(税込・Blu-ray)/7,700円(税込・DVD)
[発売日]
2024年9月25日(水)

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