賀茂川さんのオリジナルイラストにひと目惚れした
――キャラクターのデザインについてですが、キャラクター原案としてイラストレーターの賀茂川さんを起用した理由について聞かせてください。
川面 制作の初期段階で、作品の方向性を含めた会議が行われまして。そこでキャラクター原案として何人か候補が挙がったのですが、賀茂川さんが描かれたオリジナルのイラストの中に、ユイのイメージにピッタリのものがあったんです。「ユイはこれ以外にない」というくらい良い絵で、実際に賀茂川さんにオーダーを出すときも「この絵がユイのイメージそのものなので、これを軸に作ってほしい」とお願いしたくらいです。ユイ以外のキャラクターについては、時間をかけて打ち合わせを重ねながら作っていきました。じつは、賀茂川さんも東北のロケハン旅行に参加されているんですよ。
――賀茂川さんが描くキャラクターの魅力とは?
川面 パッと見はとてもポップでありながら、アニメに寄りすぎず、かといって生っぽすぎず。かわいさの中にリアリティが込められているという、絶妙なバランスが魅力だと思います。そして『岬のマヨイガ』をアニメとして描くなら、まさにそういう絵柄がほしいと思っていました。最初に「児童文学に対する重さのバランス」というお話をしましたが、ビジュアル面に関してもそれは念頭に置いていまして。リアル寄りにすると重くなるし、アニメに寄りすぎても作品イメージと合わない。僕が目指したかったバランスに、賀茂川さんの持ち味はピッタリだったんです。
大切にしたのは、生っぽさと等身大のお芝居
――次にキャスティングについて聞かせてください。ユイ役を芦田愛菜(あしだまな)さん、ひより役を粟野咲莉(あわのさり)さん、キワさん役を大竹しのぶさんが担当しています。こうした配役はどのように決まったのでしょうか?
川面 これもバランスの話になるのですが、『岬のマヨイガ』では生っぽいお芝居がほしかったので、メインキャストは実写で活躍されている女優さんの中から選ばせていただきました。ユイは等身大の女子高生で、ひよりは素直で子供らしい感じ、そしてキワさんは穏やかだけど、どこか得体の知れない感じというイメージのもと、たくさんの候補の中から、3名を選ばせていただいたという形です。
――3名とも、実際に演じるキャラクターと年齢が近い人をあえて選んだのでしょうか?
川面 たしかに、それはありますね。一生懸命にキャラクターを作って演じるというよりは、キャラクターの立ち居振る舞いそのものが、演者とリンクしているといいなと思ったんです。そのほうがキャラクターの素直な感情をお芝居として出していただけるかなと。当初は、果たしてうまく役にハマる方が見つかるだろうかと思っていましたが、芦田さんと粟野さん、そして大竹さんは思っていた以上にすばらしい演技を見せてくださいました。
――芦田さんは普段テレビで見る、明るく朗らかなイメージとはかけ離れたお芝居が目を引きました。
川面 芦田さんがいつもテレビで見せているイメージと比べて、ユイは少しやさぐれているところがあります。でも、テスト収録をしてみたところ、「少し大人っぽくて冷めた感じの女子高生」という、ユイのキャラクターイメージを的確にとらえた演技をしていただけました。台本をしっかり読み込み、役作りをしてきてくださったおかげで、こちらからあれこれ細かい指示を出すことがなかったのは、さすがだなと。
――ひより役の粟野さんについてはいかがでしたか?
川面 粟野さんは今11歳ということで、等身大の子供の演技がもらえればOKと思っていました。でも、粟野さんも事前に台本をかなり読み込んできてくれて、ひよりがどういう状況に置かれていて、どんな気持ちを抱いているのか、その場その場の感情をバッチリとらえて演じてくれたんです。セリフ数は多くありませんが、こちらの指示に的確に応えるお芝居をしてくれましたし、子供らしさのニュアンスも備えていてすばらしかったですね。
――大竹さんが演じるキワさんも、とてもいい味を出していました。
川面 大竹さんのお芝居、すばらしかったですよね。大竹さんは本作に強い思い入れをもって臨んでくださっていて、「収録の前に少し打ち合わせの時間がほしい」とおっしゃっていただけて、キワさんについて役のすり合わせをさせていただきました。打ち合わせを通して役のイメージを固めていった感じです。大竹さんは「アフレコはほとんどやったことがない」とおっしゃっていましたが、もうさすがとしか言いようのない内容でした。
- 川面真也
- かわつらしんや フリーランスのアニメ演出家。現在はSILVER LINK.やdavid production作品を中心に活動している。『ココロコネクト』や『ステラのまほう』『サクラダリセット』『のんのんびより』シリーズなどで監督を務めている。