最初から最後まで「ちゃんと見たい」と思った初めてのアニメ
――『ふしぎの海のナディア(以下、ナディア)』の本放送時、田中さんは中学生だったと思いますが、リアルタイムで見ていたんですか?
田中 第1話から見ていました。というのも、その前にNHKで『アニメ三銃士』が放送されていて、そこからの流れで同じ枠を見ていたんです。しかも、放送が始まる前の週に「次週からは『ナディア』です~」みたいな番宣があって、それが面白そうだったんですよ。
――じゃあ、楽しそうな番組が始まるな、くらいの感じで。
田中 そうですね。ただ「なんで主人公の男の子(ジャン)がメガネやねん!?」というのはありました(笑)。当時は『ジャンプ』っ子だったので、主人公といえばヒロインを守ってナンボ、身体を張ってナンボやろ!みたいな印象が強かったんですよ。でも、その番宣では、むしろヒロインのナディアのほうが行動的な印象で……。そこに対する一抹の不安はありましたね(笑)。
錦織 僕は小学校の5年から6年生にかけてだったと思うんですけど、(出身地の)鳥取って放送しているアニメの本数自体が少なくて、週刊誌で連載しているマンガをアニメ化したのが夕方に放送しているくらいだったんです。そういうなかでウチの兄貴が『アニメージュ』か何かをもらってきて。そこで『ナディア』の放送開始の記事を見たのが最初だと思います。NHKならウチでも見られるな、と。
――じゃあ、第1話からちゃんと追いかけて。
錦織 はい、第1話からしっかり見ていました。最初はちょっと「名作劇場」的なノリがあったんですけど、途中からどんどん「このアニメは他と違うな」と思い始めて、そこからズブズブと……(笑)。当時、塾に通っていたんですけど、途中から通う曜日が変わって『ナディア』の放送時間と被っちゃったんですよ。しかも、後半のいい展開の時期で「これじゃあ『ナディア』が見られないじゃん!」と。
――あはは。あるあるですね。
錦織 とはいえ、毎週、塾を休むわけにもいかないので、どうしても見たい週は親に「今日はちょっと体調が悪くて……」と言って休ませてもらって。で、「来週はちょっとユルそうな回だな」と思ったら、その週は塾に行くっていう(笑)。歯抜けになった回はのちのちビデオや再放送で補完したんですけど、最初から最後まで「ちゃんと見たい」と思ったアニメは『ナディア』が初めてだったと思います。
田中 僕もそうですね。第1話から最終話までちゃんと見たアニメって、そんなに多くないんですけど、その中でも珍しい一本です。
錦織 あと当時、アニメってそれほど最終回を意識して見ていなかったじゃないですか。
田中 そうそう。いつか最終回がくるとか思っていなかったよね。
錦織 だから『ナディア』は最初から「連続39回」って書いてあること自体、すごく珍しくて。
田中 わかる! あれは衝撃だった。冷静に考えると「連続39回」ってけっこう長いんだけど、数字で「39回」って出ると「えっ、もうあと39回しかないの?」って思うよね。
――カウントダウン感があった。
錦織 そうなんだよね。島編(第23回から第34回まで、南の島に漂着したジャンとナディアが島を脱出し、ナディアの生まれ故郷にたどり着くまでの一連のエピソード)に入ったあたりのハラハラ感がすごくて(笑)。本当に終わらせる気があるのかな?と思いながら見ていましたね。
田中 たしかにね(笑)。
大人のドラマとSF的メカの面白さに惹かれた
――錦織さんがそれほどハマったきっかけは何だったんですか?
錦織 当時は子供だったのでパロディとかは全然わからなかったんですけど、大人が何か面白そうことをやっているな、という感じが画面から伝わってきたんです。ドラマ的にちょっと残酷だったり、「これは戦争をやっているんだ」みたいな部分も含めて、大人のキャラクターたちが子供に向けて言葉を発している、そういう感覚があったんですよね。
――ドラマのインパクトが大きかった。
錦織 そうですね。あとSF的な要素やメカの面白さもあって――ノーチラス号の、あのレトロな感じはさすがにピンと来ていなかったんですけど、ネオ・アトランティスのメカはシマシマギザギザしていて子供心にカッコよかったですし……。第36回からオープニングが変わるじゃないですか。あの宇宙空間に飛び出して翼をたたむN-ノーチラス号のかっこよさには打ち震えましたね。加えて、貞本(義行)さんのすっきりしたキャラクターデザインも、それまで見ていたアニメとはずいぶん違うなあと思っていたところもあって、絵のインパクトがありつつもちゃんと話が――細かいところはわからなくても、大筋は楽しんで追いかけられてSFマインドがある。なんというか、大人な作品に見えたんですよね。
田中 僕もだいたい同じで、背伸び感みたいなものはありましたね。SF的な面白さで言えば、「対消滅(ついしょうめつ)エンジン」や「縮退炉(しゅくたいろ)」みたいな難しいワードがこれみよがしに出てくる。よくわからないんだけど、説明されている理屈はなんとなくわかって、わからないなりにわかる、というか(笑)。
――SF的なテイストをケレン味として使うのは、いかにもGAINAX作品らしいですね。
田中 あとキャラクターで言うと、さっきもチラっと話したように、最初はジャンに対して「コイツで大丈夫なの?」と思っていたんです。でも、第1回話を見たら、日髙(のり子)さんの声でガンガン引っ張っていくじゃないですか。すごい行動派で、しかも貞本さんの絵から、突き抜けて明るい印象を受けたんです。シンプルなラインなんだけどすごく明るくて、でも全然ダサくない。ドラマ自体はわりと重かったりもするんですけど、あの絵のおかげでずっと楽しめたっていうところはあった気がします。
――なるほど。
田中 性格的な明るさもあるんですけど、それに加えて、絵にいい感じのマンガっぽさがあるんですよね。ネモ船長にしても、サンソン&ハンソンのコンビにしても、顔や身体つきがデフォルメっぽくて、それが明るい印象につながっているのかもしれないです。
貞本義行さんによる絶妙なキャラクターデザイン
――おふたりはキャラクターデザインの仕事も手がけていますが、『ナディア』を見ると貞本さんのデザインのすごさを感じますか?
錦織 めちゃくちゃ感じます。
田中 感じますね。
錦織 ナディアやジャンもそうなんですけど、むしろまわりのキャラクターのバランスの取り方とか振り分け方がうまいんです。ノーチラス号の乗組員にしても、年齢とか人種をうまく振り分けつつ、このパーツを入れておけば衣装が新しくなっても、前のデザインの雰囲気を引き継げる、みたいな工夫があって、しかもそれがすごくうまい。パッと見たときに「ああ、あの人だ」という印象は残しつつも、主人公たちを喰わない「モブ感」みたいなのがあるんです。自分で仕事をするようになると、貞本さんのそのあたりのバランス感覚はやっぱりスゴイな、と。
――なるほど。
錦織 あと、貞本さんが参加している作品はどれもそうなんですけど、シリーズが進むにつれて、絵がキャラクター設定から離れてどんどん成長していく、というか。参加しているスタッフの個性もあると思うんですけど、ドラマが展開するに従って、絵が洗練されていく感じがあるんです。自分が仕事をするときも、設定にあまり引っ張られないように、ストーリーにあわせてキャラクターをいいと思う方向に変えていくことは意識しているので、そこは影響を受けていると思います。
田中 さっきも少し触れましたけど、見た目はシンプルなんですよ。でも、目立たせる部分と目立たせない部分のコントラスト――たとえば、ナディアの前髪のボリュームとか、サンソン&ハンソンの蝶ネクタイが、じつはめちゃくちゃデカいとか……。そういう部分で、独特のシルエットを構築している感じがあるんですよね。
こういう言い方は語弊があるかもしれないですけど、最初に『ナディア』の絵を見たときは「チョロイな」と思ったんです。「これくらいすぐに描ける」と思ったんですけど、いざ実際に描こうとするとまったく描けない(笑)。そういうとっつきやすさとか好感度って、すごく大事な要素だと思うし、『ナディア』という作品にも合っていた気がしますね。
- 田中将賀
- たなかまさよし 1976年生まれ。広島県出身。原画、作画監督、キャラクターデザインと幅広く活躍するアニメーター。キャラクターデザインを務めた代表作は『家庭教師ヒットマンREBORN!』『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『君の名は。』『空の青さを知る人よ』など多数。
- 錦織敦史
- にしごりあつし 1978年生まれ、鳥取県出身。アニメーター・監督。2011年放送の『THE IDOLM@STER』で初監督を務めた後、初のオリジナル作品『ダーリン・イン・ザ・フランキス』を発表(2018年)。最近では『シン・エヴァンゲリオン劇場版』にも総作画監督として参加している。