TOPICS 2023.03.23 │ 12:00

クラファンでアニメジャンル歴代1位を獲得! 『狂気山脈 ネイキッド・ピーク』製作総指揮・まだら牛インタビュー①

H・P・ラヴクラフトらが生み出した架空の神話「クトゥルフ神話」の原典のひとつとなった長編小説『狂気の山脈にて』。その舞台設定を下敷きにまだら牛が書いた『狂気山脈 ~邪神の山嶺~』を原案とするアニメ映画『狂気山脈 ネイキッド・ピーク』のパイロットフィルムが公開された。クラウドファンディングで絶大な支持を集めた作品の魅力を、製作総指揮のまだら牛に直撃!

取材・文/水葉 龍弥(パワフルプロダクション)

TRPGと『狂気山脈』
MMORPGのようにプレイヤーキャラクター(PC)を作って、 シナリオの管理・進行役であるGM(ゲームマスター)が用意したさまざまな障害を乗り越えたり、キャラクター同士で交流しながら物語を楽しむゲームジャンル、TRPG(テーブルトークRPG)。展開の細部やシナリオの結末は決まっていないことが多く、プレイヤーがPCを演じながら即興劇のようにアドリブで会話することで物語が変化し、さまざまなドラマが生まれる遊びだ。アニメ映画『狂気山脈 ネイキッド・ピーク(以下、ネイキッド・ピーク)』の原案となった『狂気山脈 ~邪神の山嶺~(以下、邪神の山嶺)』は、TRPGのシナリオの中でも多くのプレイヤーに遊ばれた人気シナリオ。CAMPFIREで行われたアニメ映画パイロットフィルム制作企画のクラウドファンディングで約1億2000万円の支援を集めて、現在は本編制作プロジェクトが新たなクラウドファンディングとして行われている。

前人未到、だからこそ挑む価値がある

――『ネイキッド・ピーク』はTRPGのシナリオ『邪神の山嶺』(※1)が原案になっているとのことですが、アニメ化に踏み切ったきっかけは?
まだら牛 総合プロデューサーを担当してくださっているワタナベミズキさんから、アニメ化の提案をいただいたんです。TRPGは設定やプロットだけが用意された未完成なシナリオをもとに、会話をしながら自分たちだけのお話を作っていく遊びなので、完成された脚本に沿って作るアニメとは異なります。勝手はまったく違うのですが、それでもアニメにしたら面白くなりそうだと感じたので、計画がスタートしました。

(※1)『邪神の山嶺』の舞台となるのは、南極で新たに発見された未知の巨大山脈、通称「狂気山脈」。エベレストを超える新たな世界最高峰山脈に登山家たちが挑むという、シナリオライターであり登山愛好家でもあるまだら牛が、クトゥルフ神話でもっとも有名な山をテーマに書き上げた渾身の一作。

――どういった理由で面白くなりそうだと感じたのでしょうか?
まだら牛 TRPGは用意したキャラクターになりきってアドリブで演技をしながら、物語を作っていきます。だから、あたかも自分が物語の中に入り込んだかのような体験ができるんです。脳内VRとでも言いましょうか。つまり、TRPGシナリオ『邪神の山嶺』を遊んだ方は、前人未到の山を登る疑似体験をしているようなものなんです。自分が一度登って楽しんだ山を舞台にしたアニメが作られる、それってすごく魅力的なことだと思いませんか? 旅番組でも、自分が実際に行ったところが舞台だと思わず見たくなると思うんですけど、それと同じことがアニメ化で起きるのではないかと考えました。それに、本格的なクライミングをテーマにしたアニメはフランスで作られたアニメーション『神々の山嶺』があるのですが、オリジナルの作品は ほぼ前例がないんです。誰も登ったことのない山って魅力ですし、チャレンジしたいと思いました。

まだまだファンの期待に応える道半ば

――クラウドファンディングで集まった多くの支援は想定内だったのでしょうか?
まだら牛 クラウドファンディングでパイロットフィルムの制作費を集めた前例として映画『この世界の片隅に』があったので、同じやり方を選べば開ける道があるのではないかと考えました。ですが、ここまで反響があるとは思っていなかった、というのが本音です。最初のゴールは800万円だったんですよ。この800万円と自分の全財産をあわせれば、短いパイロットフィルムを作るところまでは進めると考えていました。気がつけば多くの方が応援してくださっていて、とてもありがたいですし、うれしいです。ただ、プレッシャーもひしひしと感じています。アニメジャンルで歴代1位の支援が集まったということは、相応のクオリティのものが求められていると思うんです。その期待に応えることのできる映画を公開して、初めてクラウドファンディングが成功したと言えるんじゃないかと思っています。

TRPGの経験を生かした作品作り

――アニメ映画に落とし込む際に意識していることはありますか?
まだら牛 アニメーションは実写にはできないカメラワークができますし、誇張表現を使ってよりいっそうの臨場感を演出することもできます。そういった利点を生かして、狂気山脈という山の恐ろしさや迫力、登場人物たちのドラマを魅せていきたいと考えています。また、制作に携わっていると自分のTRPG経験がアニメの中に息づいていると感じますね。いろいろな方が『邪神の山嶺』を遊んだ様子を動画や配信の形でアップロードしてくださっていますし、僕自身、何度も『邪神の山嶺』を配信しました。そういった配信を見たり、やったりするなかで得た経験が『ネイキッド・ピーク』には詰め込まれています。

――具体的にどのような形で詰め込まれているのでしょうか?
まだら牛 たとえば、『邪神の山嶺』に登場したNPC(※2)がアニメにも登場していますし、浅間いのりをはじめとするアニメオリジナルキャラクターも登場しますが、彼らのキャラクター造形や物語には僕がTRPGを通じて得た感動などが詰め込まれています。だから『邪神の山嶺』を彷彿とさせる何かが宿っていると思いますし、原作を知らない方が楽しめるのはもちろん、原作を知っている方ならさらに楽しむことができると思います。

(※2)ノンプレイヤーキャラクター。GMが操作するキャラクターで、特定の行動パターンが設定されていたり、プレイヤーキャラクターを重要な展開に導いたりする役割を担っていることが多い。

最高のスタッフに恵まれた環境

――キャラクターデザインの海島千本さんとはどのようなやり取りをしたのでしょうか?
まだら牛 海島さんはアニメ制作の現場をよくご存知なので、どういうキャラデザにすると現場の人が大変になるかもわかっています。そのうえで「このパーツは作画が大変だけれど、大事なところなので、がんばってもらいたいです」とか「この作品における山はこういうものだから、キービジュアルはこういう構図にしたほうがいいです」といったアドバイスをいただいています。作品の勘どころをつかんでくださっているのでありがたいですね。海島さんの絵は表情の躍動感や動きのしなやかさが魅力的なので、こちらからオファーを出させていただいたんですけど、お願いして本当に良かったです。

――熊谷友作監督とのやり取りに関しても教えてください。
まだら牛 熊谷監督は『邪神の山嶺』を実際に遊んだり、アイスクライミングにも挑戦したり、ものすごく予習したうえで『ネイキッド・ピーク』の制作にあたってくださったんです。初めてお会いしたときに見せていただいたパイロット・フィルムの構成が僕のイメージしていたものと合致していたのは本当に驚きましたね。熊谷監督の熱意なしには成立しなかった企画です。

――完成したパイロット・フィルムを見た感想はいかがですか?
まだら牛 スタッフの皆さんがものすごくがんばってくださったこともあって、とてもいい作品になっています。もっとこうしたい、という欲はありつつも、今できる全力のかたちを皆さんにお届けできました。やりたいことのエッセンスはすべて入れたので、見ていただければ、どんな映画を作りたいかがすぐにわかっていただけると思います。endmark

まだら牛
まだらうし 長野県在住。シナリオライター、ゲームクリエイター。代表作は『狂気山脈』シリーズ。また、オンライン対戦カードゲーム『OVERЯOID』の企画・制作もしている。
作品情報

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