TOPICS 2024.02.09 │ 12:00

『大室家』ならではの空気感を目指した 『大室家 dear sisters』
監督、コンテ・龍輪直征&シリーズ構成、脚本・横谷昌宏対談①

『コミック百合姫』にて連載されている、なもり原作のマンガ『ゆるゆり』。そのスピンオフ作品として人気を博している『大室家』が『大室家 dear sisters/dear friends』として2部作でアニメ化。1作目『dear sisters』が公開された直後のタイミングで、キーパーソンである監督、コンテを担当した龍輪直征とシリーズ構成、脚本を担当した横谷昌宏に制作の裏話を尋ねた。

取材・文/斉藤優己(パワフルプロダクション)

むしろ新しいスタッフで作るべきだろうと思った

――まずは『大室家』の原作に触れたときの印象を教えてください。
横谷 僕は失礼ながら、なもり先生の作品に触れたことがなくて、脚本のお話をいただいたときに初めて『大室家』と『ゆるゆり』の原作を読ませていただきました。そのときの印象は、ギャグマンガなんだけど、キャラクターがギャグを成立させるためだけにいるのではなく、ひとりひとりの個性がしっかり立っている作品だなと。とくに『大室家』はホームドラマのような感覚もあり、面白く読ませていただきました。

龍輪 僕は友達が『ゆるゆり』の大ファンだったので、『大室家』のこともよく知っていました。だから監督の話をいただいたときは、『ゆるゆり』のアニメに参加していなかった自分が『大室家』のアニメを手がけることに、ファンの皆さんは納得してくださるだろうか……とプレッシャーを感じてしまったんです。ただ、『ゆるゆり』はドタバタギャグが楽しい作品ですけど、『大室家』はそれよりもしっとりしていて、雰囲気の違う作品だと感じていました。ここまで異なる空気感の作品であれば、むしろ新しいスタッフで作るべきなのだろうと思い、監督をお受けしたんです。
横谷 龍輪さんとは『まりあ†ほりっく』(2009年)でご一緒して以来だったんですけど、当時の龍輪さんの絵コンテがすごく面白かったのが印象に残っていました。そのため、脚本のお話をいただいたとき、龍輪さんとまたご一緒できる!と思い、とてもうれしかったです。
龍輪 ありがとうございます。僕も横谷さんはこういうギャグありきの日常ものは得意だろうと思い、ご一緒したいなと思っていたんです。だから受けていただいて、うれしかったですよ。

オープニングから『大室家』の世界に引っ張っていこう

――これまでのアニメ『ゆるゆり』と今回の『大室家』で、何か変化をつけようと意識しましたか?
龍輪 スタッフや制作スタジオが変わった時点で、必然的に雰囲気は変わるだろうと思っていたので、そこまで「変えよう」とは意識していません。しいて言うなら『ゆるゆり』はギャグに対してオーバーリアクションなことが多かったですけど、『大室家』では控えめにしています。それから、ギャグよりも日常エピソードを重めにしようと思っていました。あと、原作サイドからは『ゆるゆり』のメインキャラクターたちよりも『大室家』のメインキャラクターたちに焦点をあててほしい、と要望があったんです。とはいえ、両作のつながりを見せておきたいと思ったので、アバンに登場してもらっていますが。

横谷 アバンで『ゆるゆり』のメインキャラクターたちが会話をしているけど、オープニングからは『大室家』の世界に引っ張っていくという演出は龍輪監督のアイデアでしたね。アバンのシーンをどうするかはけっこう悩んでいて、最初は『転生したらあかりだけスライムだった件』の話を冒頭いきなり始める、というアイデアもあったんです。一度その体裁でシナリオまで書いたんですけど、あまりにも『大室家』の世界観と離れすぎているとなり(笑)、今のかたちになりました。

ショートマンガをアニメのストーリーにする難しさ

――『大室家』の原作は1話数ページのショートマンガです。これをある程度、長い尺のアニメとして構築するのは大変だったと思いますが、実際どのような苦労がありましたか?
横谷 正直、シナリオはかなり悩みました。約40分で2本、というのは当初から決まっていましたが、その2本をどういったコンセプトでストーリーに分けるかが決まらなくて。最初は原作と同じように櫻子、撫子、花子それぞれがメインになるエピソードを交互に入れていこうとしたのですが、大きな起承転結があるわけではないので、どうしてもぶつ切り感が出てしまうんです。解決する方法を自分で見つけられず、ずっと悩んでいたら、龍輪さんから「間にアイキャッチを入れましょう」とアイデアをもらいまして。
龍輪 原作がショートストーリーの連続なので、それを長尺のアニメにするのは難しいな、と僕も思っていたんです。だから「ぶつ切りのようになってしまう」という横谷さんの悩みもわかったので、間にアイキャッチを入れることで、短い話をテンポよく見せられるんじゃないかと思ったんですよ。

横谷 「ショートストーリー内で起承転結を意識しなくても大丈夫」と思えたのは、自分の中でかなり大きかったですね。そのおかげで、櫻子を中心とした三姉妹の話、花子たちがみさきと仲よくなる流れ、そして撫子たちの学校でのやりとり、これらを交互に入れていくようなかたちでまとまりました。
龍輪 シナリオがまとまっていく過程で、1作目の『dear sisters』は花子まわり、2作目の『dear friends』は撫子まわりのエピソードを中心にしていこうということも決まっていきました。花子、撫子とまわりの関係性を描きつつ、最終的には櫻子を中心に姉妹愛を見せるかたちで締める。今回の2作はそういったコンセプトになっています。

――原作コミックスのどのあたりのエピソードまで、今回のアニメでは採用されているのですか?
横谷 シナリオを書き始めた時点では、第4巻まで発売されていました。そこからまだ単行本化されていなかった連載分を見せていただき、それをもとに全体の構成を作っています。ただ、原作とは時系列を組み替えているエピソードも多いです。
龍輪 『dear sisters』は春から夏、『dear friends』は秋から冬をイメージして作っているんです。原作だと季節感を掲載の時期に合わせていることが多かったので、エピソードを取捨選択しながらひとつの話として再構築するにあたり、原作と変える必要がありました。あとキャラクターたちが使っている携帯電話をスマートフォンにするとか、時代の変化にともなう変更もありましたね。
横谷 コミックス第1巻に、花子が同級生の未来に公衆電話代の10円を貸すエピソードが収録されていましたけど、いまどき学校に公衆電話はないだろうということで、「アニメ化の際に変えてほしい」と原作サイドから要望をいただいたのは印象に残っています。
龍輪 なもり先生は基本アニメのことはスタッフにおまかせするというスタンスでしたけど、そういったディテールに関わる要望はありました。あと、『大室家』ももう10年以上連載が続いている作品ですから、第1巻と最新刊ではカラーイラストのテイストがけっこう違っているんですよ。だからキャラクターデザインや作画は、なもり先生の最近の絵柄に近づけるよう意識していました。endmark

龍輪直征
たつわなおゆき 1977年生まれ。北海道出身。アニメーション監督・演出家。監督作に『咲う アルスノトリア すんっ!』『異世界迷宮でハーレムを』など。
横谷昌宏
よこたにまさひろ 大阪府出身。シナリオライター。シリーズ構成を担当した主な作品に『ケロロ軍曹』『Free!』『トロピカル~ジュ!プリキュア』など。
作品情報


『大室家 dear sisters』
大ヒット上映中!

  • ©なもり・一迅社/「大室家」製作委員会