TOPICS 2023.09.27 │ 12:00

わかりやすく、でも突き詰めて――
監督・平牧大輔が語る、アニメ『【推しの子】』の制作論①

アイドルの視点から見る芸能界、そして転生とサスペンスの要素を巧みに組み合わせた大ヒット作『【推しの子】』。原作ファン以外にもその人気を広げ、幅広い層の心をつかんだアニメ版『【推しの子】』は、どのように作られたのか。監督・平牧大輔に直撃したインタビューの第1回は、その制作体制とアイドルの表現について。

取材・文/森樹

助監督・猫富ちゃおさんのセンスや表現を大切にした

――『【推しの子】』の第1期は第1話の放送直後から大きな話題になりました。世間の盛り上がりはどのように感じていましたか?
平牧 原作の人気はもちろん知っていましたが、アニメがここまで盛り上がるとは思っていませんでした。久しぶりに友達から連絡が来たりして、ヒットすると親戚や知人が増えるというのは嘘じゃなんだなと思いました(笑)。
――制作体制をお聞きしたいのですが、各話の演出担当だけではなく、今回は助監督として猫富ちゃおさんが参加していますね。
平牧 助監督がつくのは今回が初めてだったのですが、じつはそういう体制を望んでいたんです。助監督は監督の作業負担を分担して請け負うのが一般的ですが、今回はそれだけではなくて、もっと助監督に権限を持たせたいと思っていました。
――監督のサポートだけではない立ち位置、ということでしょうか?
平牧 そうですね。ちゃおさんはセンスがあるので、もっとその能力が活きるように立ち回ることを考えていました。もちろん、監督としてカットの処理やチェックなど、全体を見るのは当然の役割です。一方で、ちゃおさんがやってみたい演出や方向性に対してアドバイスしながら進める体制ですね。

――それだけ猫富さんのセンスが、この作品において必要だったと。
平牧 『私に天使が舞い降りた!プレシャス・フレンズ』でも一緒に作業をしていましたし、技術的なところはコンテを見て大丈夫だと思っていました。なによりも、彼女のセンスや表現を大切にしたかったんです。今回、カラースクリプト(※色の台本と呼ばれるもので、各シーンの色や光を確認する絵のこと)をクレジットしたのも、ちゃおさんのひとつの肩書きになればという考えですね。彼女は表に出るべき人間ですから、少しでもサポートできればと思っていました。
――たしかに本作では、絵コンテや演出とともにカラースクリプトのクレジットがメインに並んでいます。
平牧 話数によっては演出さんがカラースクリプトを担当している場合もあるのですが、全体の監修はちゃおさんにやってもらっています。僕はサポートで、あくまで決定権は彼女にあるというスタンスです。

原作よりも“盛らない”と原作通りにはならない

――平牧監督は、原作のどの部分に魅力を感じていましたか?
平牧 原作ものをやるときの心構えとして、あまり好きになりすぎないようにしています。
――客観的に作品を見ているということでしょうか?
平牧 そうですね。好きになってしまうのは当たり前で、だからこそ客観的に見ていきます。こういう取材――とくに『【推しの子】』では「どのキャラクターが“推し”ですか?」と聞かれるのですが(笑)、あえて作らないようにしています。僕の役割は誰かを推すことではなくて、作品の全体をみることなので。

――制作にあたって、赤坂アカ先生と横槍メンゴ先生といった原作チームとのやり取りもあったのでしょうか?
平牧 おふたりが毎回、アフレコに参加してくださったのは大きかったですね。事前の打ち合わせやシナリオ会議にも参加していただいたので、何か疑問があればすぐに聞ける環境でした。結果的に、問題の大小にかかわらず、何でも言える現場になったと思います。たとえば、原作者のおふたりから「こうしたいです」と要望を受けるだけではなくて「アニメ的にはこうするのがセオリーですが、どうしますか?」といった提案もできました。こういう体制はプロデューサーの手腕ですね。原作者をアニメスタッフとして巻き込んでしまうという(笑)。
――制作チームの一員として入ってもらうかたちですね。
平牧 そうです。もちろん、お互いの立場をわかった上で、一緒に作り上げていったように思います。
――そういう体制の中で、監督はどのようにこだわりを出していこうとしたのでしょうか?
平牧 最初は「このように描きたい」という自分なりの目論見がありましたが、途中からそれはやらなくてもいいかな、と思うようになりました。それよりも「原作通りだね」と思ってもらうためにはどうするのが重要だろうと考えるようになったんです。音にしても絵にしても、原作よりも“盛らない”と原作通りにはならない。そこに自分の能力を振り切る方向でした。

――“原作通り”に見せるという意味では、アイドルを描いているアニメなので、音楽やダンスが重要ですよね。
平牧 マンガだと歌はないですからね。そこは「こういうものです」と提示しなきゃいけないので、アニメとして振り切った表現を目指しました。たとえば、原作のコマの尺で考えると、曲が少し流れて次のコマに移っていくのですが、それだとアニメでは不足してしまう。なので、パフォーマンスの部分で増幅できるところはかなり増幅していますね。
――楽曲のイメージはどのように固めたのでしょうか?
平牧 制作側と原作側のイメージをすり合わせていきました。アイがいた頃のB小町は昔のアイドルポップスをモチーフにして、新生B小町ではそれよりも10年、時が進んだように聞こえる音にしようとかですね。加えて、現在の流行もしっかりと反映していただきました。endmark

平牧大輔
ひらまきだいすけ アニメ監督、演出家。監督作に『私に天使が舞い降りた!』『恋する小惑星』『SELECTION PROJECT』などがある。
作品概要

TVアニメ【推しの子】
第1期好評配信中!
第2期制作決定!

INTRODUCTION
「この芸能界(せかい)において嘘は武器だ」 地方都市で働く産婦人科医・ゴロー。 ある日”推し”のアイドル「B小町」のアイが彼の前に現れた。 彼女はある禁断の秘密を抱えており…。 そんな二人の”最悪”の出会いから、運命が動き出していく―。

STAFF
原作:赤坂アカ×横槍メンゴ(集英社「週刊ヤングジャンプ」連載) 監督:平牧大輔 助監督:猫富ちゃお シリーズ構成:田中 仁 キャラクターデザイン:平山寛菜 アニメーション制作:動画工房

CAST
アイ:高橋李依 アクア:大塚剛央 ルビー:伊駒ゆりえ 有馬かな:潘めぐみ 黒川あかね:石見舞菜香 MEMちょ:大久保瑠美 ゴロー:伊東健人 さりな:高柳知葉 アクア(幼少期):内山夕実

  • ©赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・【推しの子】製作委員会