Dはリベンジを志した13歳の不良少年
――本作の主人公である戦闘員D(以下、D)について、さとう監督はどんな人物としてとらえていますか?
さとう 13年前にこの世に産み落とされたということもあり、Dは「素直になれない中学生」だと思っています。『戦隊大失格』は「Dによる復讐劇」が主軸となっていますし、実際にDは大戦隊という組織に潜り込んで宿敵であるドラゴンキーパーをひとりひとり倒していこうとしています。でも、D自身のパーソナリティが未成熟なせいもあって、どこかシリアス&シビアになりきれないところがある。そのあたりを僕は「不良少年が仕返しのため、別の中学校に潜入する」とライトな感じにとらえたら、すごくしっくりきたんです。
――たしかにD視点で見ると「不良少年のリベンジ」という雰囲気がマッチしますね。
さとう そうなんです。「こいつら全員ぶっ倒す!」と意気込んで大戦隊に潜り込んだけれど、ドラゴンキーパーどころか大戦隊の訓練生もすごい才能を持っている奴らばかりだったと。それに対してDは死なない肉体と擬態能力以外は、一般人に毛が生えた程度の力しか持っていません。超人並みのドラゴンキーパーに比べたらあまりに非力なDですが、「ずる賢さ」を最大の武器に立ち回っていくんです。Dがどんなに頑張っても所詮は一介の戦闘員にすぎない。でも、怪人だから卑怯な手段を平気でとれる。目的のためなら、たとえカッコ悪くてもなんでもやる。そこが逆にカッコよく見えればいいなと思いながら演出しました。
日々輝は原作以上に暑苦しさマシマシに
――第4話でDと入れ替わった大戦隊の訓練生・桜間日々輝(さくらまひびき)はどんな人物なのでしょうか?
さとう ひねくれ者で斜に構えているDとは対照的に、日々輝は根っからの「熱血正義マン」です。どんな人間に対しても、敵である戦闘員に対しても、分け隔てなく接する、明るくてまっすぐに相手の心にスッと入り込んでいく好青年。戦隊ヒーローでいうと、典型的なレッドタイプですね。アニメでは原作以上に「暑苦しさ」をプラスして、Dとの対比を図っています。Dが日々輝と入れ替わったときに、自分とまったく違う日々輝を演じなければならない苦労が伝わればいいなと。
――日々輝役の梶田大嗣さんも、かなり暑苦しい感じに演じていましたね。
さとう 梶田くんのお芝居、熱さがマシマシでしたね! 実際の梶田くんのパーソナリティが日々輝そのものなんですよ。もともと梶田くんはD役でオーディションを受けに来てくれたのですが、日々輝もやってもらったら、根っこからキラキラしていて全力全開のお芝居を見せてくれたんです。日々輝役に欲しかった「すべてを投げ打つような明るさと危うさ」を体現していた梶田くんは、こちらが狙った以上の熱さを表現してくれました。
ミステリアスな夢子が垣間見せるギャップ
――ミステリアスな存在感を放っている錫切夢子(すずきりゆめこ)についてはどうですか?
さとう 夢子は原作サイドから「ミステリアスだけどかわいらしくしてほしいです」といわれていたのですが、これがとても難しいキャラクターで……。夢子は原作でも何を考えているのかわからない謎めいた存在で、キャラクター性をとらえるのに苦労しました。制作会議でも夢子については「(『ルパン三世』の)峰不二子的なイメージ」など、いろいろな意見が出たのですが、いまひとつふわふわしていて。たしかに夢子と不二子は、麗しい見た目にミステリアスさと怖さを隠している点では共通しているけれど、夢子は不二子のような「ずるい女」とはちょっと違うよな……と。
――たしかに、原作では最近になってようやく夢子が秘めていたものが見えてきましたが、アニメの制作開始時点では謎に包まれていたでしょうね。
さとう そうなんです。だから夢子役のキャストを決めるのは難航しました。基本的に声はかわいらしいけれど、あまり声色を変えずに「うわ、こわっ!」という感じを表現できる役者を探していたところ、矢野優美華さんのお芝居に出会ったんです。矢野さんの声ならば、目にハイライトがなくて心の底で何を考えているのかわからない夢子のキャラクターに「実体」を与えてくれるでしょうし、まだ新人で視聴者の耳にあまりなじんでいない声であることも重要な要素だと思い、僕のほうでかなり推しましたね。狙い通り、声はバッチリはまりましたが、夢子が持つ「かわいさ」の演出はやっぱり難しいです。「怖さ」はみんながわいわいしゃべっている中で、ふと見ると夢子が真顔でこちらを見ていたりする感じで表現できる。でも、夢子の「かわいさ」って何だろうと……。いろいろと思い悩みましたが、本音が見えない彼女がふとした瞬間に少女らしい一面をのぞかせる、そのギャップに彼女のかわいさがあるのかなと考えたんです。アニメで夢子の本音はまだ見えませんが、スイーツをニコニコしながら食べたりするところに、かわいさを見出していただければと思います。
――第5話以降の見どころを教えてください。
さとう 第4話まではいわば「物語のセットアップ」で、Dが日々輝に擬態して大戦隊に潜入する第5話からが本番です。気合いで乗り込んでみたはいいけど、訓練生たちもエースぞろいでドラゴンキーパーを倒すどころではない。Dが正隊員に選ばれるために奮闘する一方で、大戦隊の施設内に全滅したはずの怪人軍団の幹部がひそんでいることも発覚して……と、物語がサスペンス方面に転がっていきます。序盤のワチャワチャしたノリから、謎めいたシリアステイストに変わっていくので、先の読めない展開を味わっていただければと思います。
- さとうけいいち
- 香川県出身。主な監督作は『 TIGER & BUNNY』(第1期)、『神撃のバハムート』シリーズ、『いぬやしき』など。また、『爆竜戦隊アバレンジャー』『忍風戦隊ハリケンジャー』といった「スーパー戦隊シリーズ」のキャラクターデザインも手がけている。