声の個性というものは作り上げることができる
――古谷さんは、個性的な声質と幅広い演技力のどちらを重視していますか?
古谷 僕は声質を評価されるよりも、演技力を評価してほしいと思っています。そもそもアムロにしても美声ではないし、僕もクリアな声質ではなかったから。30歳を過ぎたくらいから少しクリアな声を出せるようになったのですが、それはナレーションの仕事をするようになってからです。
僕はクリアで綺麗な声に対する憧れがあって、それはたとえば城達也(じょうたつや)さんや矢島正明さんの声なんですよ。TOKYO FMの『JET STREAM』(※1967年~放送中)というラジオ番組が大好きで、城達也さんは俳協時代の大先輩なんだけれど本当に憧れの存在だった。それからナレーターとしては矢島正明さんが大好きで、色気のあるナレーションは僕にとって常にお手本だった。僕の中での美声というのは城さんや矢島さんのようにクリアで透き通っていて、気品があって色気があるものなんですよね。
だから自分が『カーグラフィックTV』をやることになったときには、その美声をイメージして、少しでも先輩方に近づきたいと思いながら発声していたんです。不思議なもので、長くそれを続けているとそういう声に変わっていく。意識しながらしゃべると声質というのは変わるんですよ。だから、声の個性というのは作れるんです。個性的な声質になりたいと思うなら、自分の理想的な声をイメージして、あきらめずに取り組み続けることです。
――そういう古谷さんが最近の若手声優で気になった人はいますか?
古谷 そうだな……武内駿輔(※『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』のククルス・ドアン役など)君ですね。彼はルックスが良くて声質も個性的だし、芝居もしっかりしている。歌もうまいし、モノマネまでできるという、いろいろなものを持っている人だよね。俳優の仕事もやっていくだろうし、良い声だからナレーションの仕事もすぐにできるでしょう。幅の広い活躍ができる彼はすごいなと思います。
――今後、アムロ・レイに限らずやってみたい仕事はありますか?
古谷 これはずっと考えていたことがあって、僕は戦国武将をやりたいんです。イケメンの戦国武将(笑)。甲冑を着て、先陣を切って敵の中に切り込んでいくような役がやりたい! 僕は歴史ものが好きなんですけど、戦国武将の役はほとんどやったことがないんです。『戦国BASARA弐』(2010年)で小山田信茂を演じたことはあるけど、あの作品はどちらかというとゲームっぽい内容だったからね。武将でいったら上杉謙信ですよ。良いよね、謙信! 知略に富んでいて義のために勇猛果敢に戦う……うーん、カッコイイ。
――古谷さんが上杉謙信となると、武田信玄が必要ですよね。武田軍といえば……赤?
古谷 え、そこでもまた!? どこまで戦う運命なんだよ(笑)。でも、仮にそういう役を演じることができたら、イベントなどで鎧のコスプレをする機会もあるだろうし、本当に戦国時代や時代劇が好きだからやってみたいと思いますね。
あとね、もうひとつは真逆のキャラです。どうしようもなくダメな男の役。決断力がなくて、仕事が続かなくて、経済力もない……ちょっとヒモ体質みたいな男なんだけど、女性が放っておけないような男の役をやってみたい。これまでやったことがない役柄だからプランもまったくないんだけれど、そんな役にチャレンジしてみたい。何か自分の中に共通点を見出せれば、どんな役でも演じられるんじゃないかと思っています。
- 古谷徹
- ふるやとおる 7月31日、神奈川県生まれ。幼少期から子役として芸能活動に参加し、中学生時代に『巨人の星』の主人公、星飛雄馬の声を演じたことから声優への道を歩み始める。1979年放送開始された『機動戦士ガンダム』の主人公アムロ・レイをはじめ、『ワンピース』『聖闘士星矢』『美少女戦士セーラームーン』『ドラゴンボール』『名探偵コナン』など大ヒット作品に出演。ヒーローキャラクターを演じる代名詞的な声優として現在も活動中。