TOPICS 2022.07.01 │ 17:27

アムロ・レイの演じかた
~古谷徹の演技・人物論~ 第3回(前編)

第3回 古谷徹(アムロ・レイ)×古川登志夫(カイ・シデン)

最新作となる『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』でも息の合った演技を見せてくれるアムロ・レイとカイ・シデン。今回は、TVシリーズの放送から43年にわたってカイを演じてきた古川登志夫氏をゲストに、当時の思い出や最新作での演技について語り合っていただいた。

取材・文/富田英樹 撮影/高橋定敬 ヘアメイク/氏川千尋 スタイリスト/安部賢輝 協力/青二プロダクション、バンダイナムコフィルムワークス

古川さんはスラップスティックの中の「睡眠担当」!?

――お互いの最初の印象はどうでしたか?
古川 とにかく芝居が上手で、自分よりも年下なのに経験も豊富でしたから、こんなにすごい人がいるんだなと感心するばかりでしたね。
古谷 えーっと、僕の場合はどうだったかな……。
古川 良い人だなって感じでしょ(笑)。
古谷 ええ、そうですね(笑)。でも、スラップスティックの練習のときの印象が強いかな。あんなガンガンに音が響いているスタジオで寝ていられるんですもん。だから古川さんはどこでも寝られるって、バンドの中でも睡眠担当っていじられていたくらいでしたよね。
古川 そうね(笑)。当時は劇団をやっていたしアルバイトもしていたし、それで声優の仕事もさせていただいたので時間がなかったんですね。劇団の稽古をしてから仕事して、帰ってきたらまた稽古して……ということで寝不足もあったんでしょうね。

古谷 アルバイトって何をやっていらしたんですか?
古川 飲み屋さんみたいな場所で、ちょっとお客さんが歌うときに伴奏が必要だったんです。当時はカラオケもなかった時代ですから、まあスリーコードの簡単な演奏をするバイトですよね。それでね、そこに井上真樹夫さんとか吉田理保子さんが飲みに来たり、あとは桃井かおりさんやなぎら健壱さんが歌ったりしていたような店だった。
古谷 すごいですね! ちなみに場所はどちらですか?
古川 新宿だったね。それで井上真樹夫さんに「僕も役者とか声の仕事がしたいんですよね」って相談したことがあって、そうしたら「やりなよ!」って言ってくれたんです。その後、仕事で会うようになったら「あ、本当にやったんだ!?」って驚かれて「やりなよ!って言われたのでやりました」っていうこともあったな。
古谷 じゃあ、弾き語りもされたんですか?
古川 弾き語りというわけではなくて、当時のおじさんたちが歌うのは軍歌とか簡単な曲ばかりだから、それに適当な伴奏を付けただけですよ。中には自分で楽器を弾くお客さんもいたし、カラオケの代わりだよね。あとはカウンターで水割りを作ったり、おつまみを作ったりという、まあそんなアルバイトです。

古谷 じゃあ、人前で歌ったり演奏したりすること自体には慣れていたわけですね。
古川 そうかもしれません。こういうバイト生活は『ガ・キーン』に出会うまではずっと続けていたし、それこそ30歳をすぎてもやっていたくらいだから、僕はもともとあきらめが悪い性格なんでしょうね(笑)。

富野監督の緻密なダメ出しがカイを作った

――声優として演じた役柄としては、おふたりともいわゆる王道のヒーロー役が多かったと思いますが、『機動戦士ガンダム』はそれまでとは違った印象の役柄でした。
古川 その当時、僕はまだアニメの仕事の経験は少なくて、収録は緊張の連続でした。最初、僕は「カイはモブキャラだから2、3話ですぐに戦死しちゃうんだろうな」と思っていたんですよ(笑)。でも、アニメのオープニング映像にはいつも入っているし、これは出番が続くのかな?っていうような、当初はそんな印象だったんです。
古谷 カイはオーディションがあったんですか?
古川 いや、なかったと思います。
古谷 じゃあ、松浦(典良)さんから直接の依頼だったんでしょうね。
古川 そうかもしれませんね。でも、さっきも言ったとおりモブキャラだと思っていたし、あんな顔だし(笑)、脇役だと思って気軽に演じていたように思います。

――『無敵超人ザンボット3』に古川さんは出演していますが、その音響監督も松浦典良さんでした。
古川 そういうことも関係していたんでしょうね。『ザンボット3』も二枚目的な役回りでしたけれど、それが『ガンダム』ではどうしてああいう感じの役になったのかな(笑)。演じていて面白い役だとは思ったけれど、でも脇役という印象が強かったですね。
古谷 事前にどういう役でとか、レギュラー役ですよみたいな説明はなかったんですか? だって脚本とまではいかなくても、ストーリーのプロットは出来上がっていたんだろうし。
古川 全然なかったです(笑)。富野さんが僕のところに来て、それこそヒザ詰めで演技指導をしてくれるようになったのは10回目くらいからでした。ベンチに座っている僕の前の床にヒザをついて、見上げるようにダメ出しをされるんですよ。もう恐い~って(笑)。それもお芝居の稽古のように緻密なダメ出しをされるので、いや、これは本当に大変な作品だなと。徹ちゃんおぼえてない? オレンジ色の民族衣装みたいなのを着ていて。
古谷 そうでしたっけ? 全然おぼえてないなあ(笑)。
古川 上から下までつながっているようなオレンジの柄の布を巻いてヒモで縛ったような服の富野監督が僕の前にヒザをついて座って「あのね。君の役はね、これこれこうで……」ってダメ出しをされてね(笑)。いやあ、これは芝居をちゃんと考えて演じないとダメだなと思いましたね。

――カイのキャラクター造形は、富野監督からの演技指導が大きかったわけですね。
古川 後の作品(※『機動戦士Ζガンダム』以降の作品)に登場するジャーナリストとしてのカイのメンタリティや設定面については、もちろん、当時は説明されませんでしたけれど、ニヒルな性格で世の中や戦争を少し斜に見ているようなキャラクターで、ホワイトベースの中では特殊な立ち位置であるというお話をいただきました。だから、そういう表現を際立たせてほしい、というようなことでしたね。
古谷 忘れているのかもしれませんけど、僕は富野監督から直接ダメ出しをされた記憶がないんですよね。
古川 監督は気の弱そうなヤツのところに行ったんじゃないかな(笑)。見せしめとして。
古谷 女優陣がずいぶん演技指導をされていたのはおぼえていますけど、古川さんもそうだったとは知らなかったです。あ、でも、鈴置ちゃんもやられていたなあ(笑)。
古川 録音監督からのダメ出しとか、録音監督を通しての注意というのは多いんですけど、富野監督の場合はスタジオの中に入ってきちゃいますからね。作品に対する思い入れが相当に強いんだろうと思いました。
古谷 「子供騙しではない、今までにないアニメ作品を作る」という強い思いがあると仰っていましたからね。endmark

古谷徹
ふるやとおる 7月31日、神奈川県生まれ。幼少期から子役として芸能活動に参加し、中学生時代に『巨人の星』の主人公、星飛雄馬の声を演じたことから声優への道を歩み始める。1979年放送開始された『機動戦士ガンダム』の主人公アムロ・レイをはじめ、『ワンピース』『聖闘士星矢』『美少女戦士セーラームーン』『ドラゴンボール』『名探偵コナン』など大ヒット作品に出演。ヒーローキャラクターを演じる代名詞的な声優として現在も活動中。
古川登志夫
ふるかわとしお 7月16日、栃木県生まれ。少年時代から児童劇団に所属し、大学での演劇学科を経て劇団「櫂(KAI)」に所属、舞台を中心に活動していたが、『マグネロボ ガ・キーン』の主演を務めることになったのをきっかけに声優への道を歩み始める。その後も『機動戦士ガンダム』『うる星やつら』『ドラゴンボール』『機動警察パトレイバー』といった大ヒットアニメの他、『白バイ野郎ジョン&パンチ』といった海外ドラマの吹替でも活躍。古谷徹とは1977年に結成したバンド「スラップスティック」以来、公私ともに親交が深い。
映画情報

機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島

全国公開中

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