カミーユを演じるうえでもっとも難しかったシーンとは?
――富野監督からの具体的な演技指導はなかったとのことですが、他の出演者の皆さんはどうだったのでしょうか?
古谷 やっぱり女性陣には厳しかったのかな。
飛田 あ、それは言わずにおこうと思ったのに(笑)。やはり年齢的にも経験的にも、岡本麻弥さんにはかなり細かく説明をされていましたね。あとは水谷優子さんとか、どうしてもかわいい声や話し方をしてしまうんですよ。若い女性の声優さんですから、いわゆるアニメ声というのか、かわいらしい話し方をしてしまう。富野監督はそういう芝居が嫌いでしたから「アニメだからってかわいい声を出す必要はないんです!」って、ずいぶん言われていました。僕も一度だけ富野監督に質問をしたことがあるんですけれど、そのときも「これはあなたの役なんだから、あなたの思うとおりにやってくれればいいんです」とだけ言われました。
古谷 そのときは何て質問をしたの?
飛田 カミーユの女性経験というか、キスとかどの辺までを体験しているのかということです。で、「あなたが思うとおりでいいです」という回答でしたから、それ以降は役に関して質問する必要はないなということで納得できましたけれど。
古谷 難航したシーンはあった? 難しかったシーンというか。
飛田 これでいいのかな、と思いながらやっていたのは、第20話「灼熱の脱出」のときのフォウとの会話ですね。
- 第20話「灼熱の脱出」ではサイコ・ガンダムのコックピットに取りついたカミーユが、フォウに自分自身の本音を吐露する名場面がある。普段は感情の起伏が激しいカミーユだが、このときはなぜか自分の気持ちを素直に話しており、その冷静さがかえって彼の真心からの言葉であることを感じさせる見事な演出が見られる。また、フォウが思いを託してカミーユを宇宙に上げるシーンでは、森口博子さんによる挿入歌「銀色ドレス」がかかる点にも注目したい。
飛田 テストのときはテンションを高めに演じたんですが、音響監督の藤野さんから「もっと淡々とした演技にしてくれ」という指示がありました。だから、これでいいのかなという気持ちがずっとあって、セリフも長いので不安でしたね。
古谷 (映像を見ながら)ああ、ずいぶん抑えた演技をしているね。
飛田 ここまで抑えた演技をしたのは、カミーユとしても初めてだったんです。でも、このシーンは音楽と島津冴子さんの芝居が本当にマッチしていて、我ながら名シーンだと思います。
古谷 本当にそうだね。
飛田 でも、台本を初めて読んだときは、いきなり何を言い出すんだと思いました(笑)。
古谷 いや、これは本当に難しいシーンだよ。
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――古谷さん(アムロ)も近くを飛んでいるんですよ。リック・ディアスで。
古谷 え、そうだっけ(笑)。でも、この会話を直接聞いてはいないわけでしょ。アムロはカミーユとフォウの関係を心配していたわけだから、このシーンはちょっと胸に来るね。ララァとのことを思い出しちゃうから。
飛田 当時、アフレコ現場では一緒にいましたよね(笑)。一方で、楽に言えたシーンは最終話のラストのセリフなんです。戦いが終わって、もうカミーユの様子がおかしくなってしまってからのセリフは、藤野さんからも「大袈裟にはしないでね」と言われていたんですが、なぜかスッと何も考えずにセリフが出ました。自分でも不思議なくらいでした。このシーンの前がハイテンションな最終バトルだったということもありますが、それにしても全話を通じてこれほど自然にできたのは初めてでしたね。
――古谷さんというか、アムロとの絡みのシーンではいかがでしたか?
飛田 アムロさんが、カツがアムロさんのことを何て言っているかカミーユに聞くシーンがあるんですけど、まあカミーユの言葉や態度にはトゲがありますよね。
古谷 そんなに気になるなら、自分でカツに聞けばいいでしょって言われている。でも、ホントそうだよね。情けないなぁ、このときのアムロは。そんなことを気にしているなんて(笑)。
飛田 当時、テストを終えて徹さんがボソッと「相変わらずだな、コイツは……」って言っていたのを思い出しました。アムロの情けない姿を見て、そう思ったんでしょうね。
古谷 このときのアムロには全然共感できなかったからね。でも、一年戦争のヒーローである大人のアムロに対して「自分で聞けばいいでしょ」なんて普通の高校生は言えないよね。そういう意味でもカミーユってユニークな主人公だと思うんですよね。
飛田 当時、富野監督は「『機動戦士Ζガンダム』とは現実認知の物語です」とおっしゃっていたんです。それは敵と味方、善と悪という二元論だけの関係性ではあり得ないのが現実だということなんでしょうし、だからこそ予定調和的な終わり方には絶対にならないんでしょうね。
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