TOPICS 2022.09.29 │ 12:00

アムロ・レイの演じかた
~古谷徹の演技・人物論~ 第5回(後編)

第5回 古谷徹(アムロ・レイ)×飛田展男(カミーユ・ビダン)

飛田展男氏とのスペシャル対談の第3回(最終回)は、『新訳 機動戦士Ζガンダム』の収録現場で感じた「ピュアなカミーユ・ビダン」の演技と、新たに総集編として作り直された映像作品をどう捉えるかについて、古谷徹と語ってもらった。

取材・文/富田英樹 撮影/高橋定敬 ヘアメイク/氏川千尋 スタイリスト/安部賢輝 協力/青二プロダクション、バンダイナムコフィルムワークス

20年目の『機動戦士Ζガンダム』

――TVシリーズの放送から20年後、新しい訳と題して劇場版三部作が製作されました。これはいわゆる総集編でしたが、キャストなどが大幅に変更されていますね。さらにオーディションがあったという話ですが、飛田さんも受けたのでしょうか?
飛田 富野監督からお手紙をいただきまして、今回の映画はまったく新しい作品として『機動戦士Ζガンダム』を作りたいと。そのためには当然、カミーユも新しいカミーユにしなければならないのだが、あなたがこれまでやってきたものではない演技を求めたい。それを確認したいので声を聞かせてほしいという趣旨でした。それでスタジオに行って、それこそ富野監督とマンツーマンで「ああでもない、こうでもない」と試行錯誤を1時間くらい繰り返したわけですが、何度かやるうちに「今のです! 今回作りたいカミーユはそれです」ということになりました。でも、もしかしたらアフレコ当日になって「違う」ということになるかもしれないと。そうしたら、当日お帰りいただくこともあるかもしれないということでした。
古谷 またそうやって人を脅す(笑)。でも、飛ちゃんならそういうプレッシャーに耐えられると信じているから、という側面もあると思うな。
飛田 こいつは喉元過ぎれば熱さを忘れるタイプだなと思われたんでしょうね。
古谷 そのときのセリフはTVシリーズと同じだったの?
飛田 まったく同じセリフで同じ場面でしたね。
古谷 でも、TVシリーズのときは演技指導もなかったわけだし、それで何を変えればいいのかわからないよね……。
飛田 「それだ!」と言われた芝居についても、僕自身、何が違うのかは明確にはわからなかったです。ただ、まあ、おぼろげにはわかるんですよ、変に気負わずにスコーンと出たテイクだなと。ただ、それが偶然なのかどうかはわからないというか……(笑)。とにかくピュアに、ピュアなカミーユをやってくれという感じでしたね。
古谷 それは難しいよね。
飛田 でも、それからアフレコまでの数カ月間で自分の中でもわからなくなってしまって、もうドタキャンでもいいやと(笑)。だからTVシリーズの台本を読み返したり、映像を見たりということは一切せず、劇場版の台本を初めて読むという感覚でいました。それでアフレコ当日に監督にご挨拶をしたら「どうですか、台本を読んで何を思いました?」と聞かれたんですね。それで僕は「そうですね、親は死んでも腹は減るってことですか」と答えたら「そうです、その通り!」と(笑)。
古谷 あ、そのやり取りはおぼえてるよ! 飛ちゃんのその言葉は印象的だった。
飛田 劇場版の1作目は本当に怒涛のごとく進行していたので、あっという間に終わってしまったという、それが本音の感想でした。
古谷 でも、実際にアフレコ現場で飛ちゃんの芝居を見て、全然変わらないなと感心しました。TVシリーズ当時の声だったし、あのテンションをよく維持できるなと。

新訳劇場版は舞台公演の「再演」

――20年前の芝居を再現できるというのはすごいと思います。40年前の演技を再現できる古谷さんの前で言うのもおかしな話ですが。
飛田 そうですよ! 倍だもん、全然違います(笑)。
古谷 うーん、意外とできるもんだよね(笑)。
飛田 でも、昔の芝居を再現しようとは思っていなかったんです。さっきも言ったとおり、富野監督は新しい作品としたいとおっしゃっていたわけですから、過去の映像や演技に囚われずにその場で生まれるものを出さないと見抜かれると思っていました。富野監督がおっしゃったことで印象的だったのは「これは芝居でいうところの再演です」という説明でした。再演というのは初演以上のエネルギーが必要なんです、と。それは僕にとって、とても腑に落ちる言葉だったんですね。再演なら座組が変わることもあるし、台本が同じでも演出が大きく変わることもあります。初演は初演として大事にするとして、再演はまっさらなところから取り組む姿勢がないとうまくいかない。再演という言葉は、とてもいいヒントになりました。
古谷 たしかに劇場版でキャストが大幅に変更されたとしても、再演という解釈ならそれも当然のこととして受け入れられる。まったく新しいものとして考えられるね。劇場版で僕は戦いに行けずにいるアムロを受け入れて理解することから始めたけれど、そういう考え方もあるのか。
飛田 作品の捉え方は人それぞれでいいと思いますし、僕はそう考えたということなんですけどね。

――先ほどフォウとのシーンのお話がありましたが、劇場版では島津冴子さんからゆかなさんに代わっていますね。
古谷 あれは本当にびっくりした。フォウとカミーユはとくに関係性も深いし、芝居をするうえでも大きな変化があるよね。
飛田 他の誰が代わってもフォウは島津さんだと思っていましたが、そこは監督の「再演」という考え方が生きてきましたね。だから僕は滅多に人にそういうことを言わないのですが、「誰が何と言おうと、この劇場版ではあなたが演じるフォウを愛するし、あなたと全身全霊で向き合って芝居をしますから、これだけはわかってね」と伝えました。
古谷 あれだけの役を演じるんだから、相当なプレッシャーもあったろうし、それはゆかなもうれしかっただろうね。あ、ハグはしなかったの?
飛田 いや、ハグはしていないですけど……。(※編注:ハグの詳細については、本連載の第4回をご覧ください)

カミーユ・ビダンの演じかた

――カミーユ・ビダンを演じるためのコツはありますか?
飛田 カミーユの声は僕の地声よりもかなり高いんです。高音なだけでなくテンションもそれなりに上げていかなければならないし、実はこの声で芝居をするのは、けっこうしんどいんですよ。

©創通・サンライズ

古谷 でも、ゲームなどで今でもときどきはカミーユをやるでしょ?
飛田 そうですね。ゲームの場合は戦闘シーンなどで使われることが多いので、なおさらハイテンションなんです(笑)。しかも前後の芝居があるわけでもなく、セリフのパターンがあるだけですから、これを維持するためには事前に準備が必要なくらいです。だからカミーユの収録があるときは早めに連絡してね、と事務所には言ってあります。実際の芝居で言ったら身体を鍛えて、衣装を着て、メイクをしてと全身バッチリ作り上げてようやくカミーユになれるというレベルなので、最低でも1カ月前には教えてほしい(笑)。でも、だからこそ劇場版をやれたことは本当にうれしかったです。相手がいるということ、こちらが「クワトロ大尉」と声をかければ、「なんだカミーユ」と返事がある。ひとりで壁打ちテニスをする必要がないことの幸せを噛みしめながら、劇場版は参加していました。
古谷 それはたしかに大きな違いだと思う。カミーユは飛ちゃんの地声よりもかなり高めの声で演じているんだね。
飛田 はい。だから長距離マラソンに耐えられる練習をしておくといいますか、そういう準備をしておかないとすぐに声がつぶれてしまうんです。実際にやるときは、まず声のトーンを上げ気味にしておいて、なおかつそれを細い感じにしていく。で、多少声が高くなって出し気味にならないとカミーユの声にはならないんです。(※編注:飛田さんがここで実際に声を作ってくれる)
古谷 おお~! すごい、カミーユになった!!
飛田 普通の会話でもこれくらい上げる必要があるんですが、戦闘シーンになるとさらに上げていかなければならないので、体力をかなり使うということなんです。
古谷 でも、まだ全然出せるよ! できるできる(笑)。
飛田 本当に、なんでこんな高い声で役作りをしてしまったのかと今になって後悔している次第ですよ(笑)。endmark

古谷徹
ふるやとおる 7月31日、神奈川県生まれ。幼少期から子役として芸能活動に参加し、中学生時代に『巨人の星』の主人公、星飛雄馬の声を演じたことから声優への道を歩み始める。1979年放送開始された『機動戦士ガンダム』の主人公アムロ・レイをはじめ、『ワンピース』『聖闘士星矢』『美少女戦士セーラームーン』『ドラゴンボール』『名探偵コナン』など大ヒット作品に出演。ヒーローキャラクターを演じる代名詞的な声優として現在も活動中。
飛田展男
とびたのぶお 11月6日、茨城県生まれ。少年時代から声優という職業に憧れを持ち、大学進学での上京をきっかけに声優への第一歩を踏み出す。劇団などを経て現在はアーツビジョンに所属。1985年の『機動戦士Ζガンダム』での主演をはじめ『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』『機動武闘伝Gガンダム』などガンダムシリーズにも多数出演している。古谷徹とは『名探偵コナン』(1996年)での共演が人気を呼び、同シリーズには欠かせないキャラクターになった。
次回予告
『機動戦士Ζガンダム』に続く『機動戦士ガンダムΖΖ』(1986年)の放送後、ほどなくして劇場用オリジナル新作として1988年に公開されたのが『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』である。アムロ・レイとシャア・アズナブルという宿命のライバル関係に終止符が打たれるこの作品は、宇宙世紀を舞台とするガンダム・サーガのひとつの頂点として今でも高い人気を誇る。ヒーローとしての自信を取り戻したアムロ・レイの最後の戦いを、古谷徹はどう演じたのかについて語ってもらう。
作品情報

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